▼ 12 最近よく見る夢がある。自分がプロデュースした衣装に身を纏い、お気に入りの自分の歌を歌う現役時代の私の姿。それを離れたところで見ている制服を着た私。楽しそうに歌う姿が妬ましくて、制服を着た私はもうひとりの私を睨んでいた。次第に歌っている私は姿を変え、アイドル科に通うみんなに変わる。それは、スバルくんだったり真くんだったり、凛月くんだったり泉くんだったり。そこは変わるんだけど、妬ましく相手を睨みつける私は変わらなかった。大体そこで私の意識が覚醒して、目が覚めるのだけど、今日は違った。今日いたのは泉くん。彼は手に持ったマイクを下ろして、私を見てからいつもの不機嫌そうな顔で一言、「ちゃんと、『俺を』見てたぁ?」と言った。まるで、最初のKnightsのライブの時と同じだ。 「……私、ちゃんと見てたじゃん」 朝の日差しによって目が覚める。朝か、と起き上がろうとすると、いつも以上にふかふかするベッドに疑問を抱く。ああ、そうだった。昨日結局、英智くんの家に匿われることになったんだっけ。本当は、あの話をした後家に帰ろうと帰宅準備をしていた。しかし、テレビをつけると私の話題、インターネットを開くと私の話題。世間がみょうじなまえに注目し、盛り上がっていたのだ。このまま家に帰れば、どこかでマスコミに捕まってしまう。そのことを案じた英智くんが「暫くここに居たらどうだい」と提案した。流石に迷惑はかけれないとお断りしたのだけど、そんな私の言葉なんて聞きやせず来客用の部屋に誘導されてしまった。結果、押しに折れた私はこの高級そうなベッドで眠ることになったのだけど。 そういえば、と寝転びながら昨夜から全くつけていなかった携帯をつける。すると、私の身を案じたメッセージが何件か来ていた。その中の一つ、泉くんからのメッセージに目が入る。今朝の夢でも出てきた彼から「学校来るの?」とだけ来ていた。あっ、そういえばもう朝だし今何時……。ばっ、とベッドから起き上がったと同時にノック音がする。私は、いそいそと扉に近づきゆっくり開ける。開けると「やあ、おはよう」と英智くんが爽やかな笑顔で立っていた。 「おはよう……あれ、学校は……?」 「ああ、なまえちゃんは暫く休みということになったよ」 「休み!?えっ、でも今日は2winkのプロデュースが、」 「君は、敵地に武器も持たず行けるほど強いのかい?」 「……ちょっと分からない」 「今、学院はなまえちゃんの件をどう揉み消すかで必死だ。最悪君は、退学に追い込まれるかもしれない。そこに何も考えずのうのうと向かうのかい?殺してくださいと言っているようなものだよ」 殺されたいなら文句は言わなけどね、と微笑む。その言葉に私はぐうの音も出なかった。確かに、私は昨日の話に自分の意見など一つも考えついていない。英智くんには教えて欲しいとは言われたけれども、一晩寝たって何も思いつきはしなかった。俯向く私を見て察したのか、「今日は僕も体調を崩して休むことになったから、ゆっくり考えるといいよ」と優しい声色で声をかけてきた。「それと、朝食を食べよう。食事をしなければ良い考えも浮かばないよ」と言葉を続け、準備しておいでと私のいる部屋を後にした。 携帯のメッセージ全てに既読はつけなかった。授業が始まった時間となると、クラスメイトの子からのメッセージも増えた。けれど、今見て返しても文字ですら元気な雰囲気を装える気がしなくて開くことを躊躇った。最初に返そうと思った泉くんのメッセージを既読をつけずに見る。先ほどの内容から続いてくるものはなかった。なんだか寂しいな。いや別に、泉くんに心配して欲しいわけでもないのだけども。ふと、夢を思い出す。夢での私は泉くんの言葉に何も返せていなかった。Knightsのライブの時は「ちゃんと見てたよ」なんて言ったっけ。でも実際、悔しくてステージから目を逸らして見ていなかった。携帯の電源を切ってベッドに投げ捨てる。さっき食べた朝食は、高いホテルで食べたような全てが高級感を醸し出したご飯だった。英智くんはいつもこんな高級なものを食べているのかと思ったら、舌と胃に疲労感を感じた。 朝食を食べ終えてから、部屋に戻った私はすることを見つけることなく再びベッドに戻った。家の中であれば何していてもいいよ、何て言われたけども他人の家でそんなくつろぐことなんて出来ない。それと、ちょっとだけ自分のことを考え直したい気もする。私はまだ昨日の話について実感できていない。事の重大さは理解しているつもりだけども、それじゃあこれからどう行動する?なんて聞かれたら言葉に詰まってしまう。最近は、少しずつだけどプロデューサーとしての仕事も楽しいと思えてきた。だからと言って、そっちの道に専念するとは言い切れない。未だに人のライブを手掛けるのはちょっとだけもやもやするし。楽しいと思えることは何か、と言われると凛月くんと歌ったりダンスしたりすることを思い出す。最近だと、泉くんとダンスしたのも。何かを手掛けるのは楽しい。じゃあプロデュースも一緒だと言われると何か違う。 「全然分からない」 ゆっくりベッドから起き上がる。全然分からない。頭で考えるのは苦手なんだよなあ、なんて思いながら部屋の扉を開ける。そういえば、練習できる場所があるよなんて言ってたっけ。私は、その部屋を探しに向かった。まあすぐ分からなくなったから、廊下にいたお手伝いさんに道案内してもらったけど。鏡張りの広い部屋に通され、軽く伸びをする。多分、ずっと考えていたら元も子もない。学校も行かなくていいし、プロデュースもしなくていい。今は、ちょっとだけ自分の好きなことをしていたい。 ← → |