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 校門にマスコミがうろつくようになってから5日。それと同時になまえも学校に来なくなった。メッセージも既読すらつかず、生存確認が出来ない。テレビ番組によると、家にもいないらしい。それに関しては、帰っていないということに対する心配より、全国ニュースで自分が家に帰っていないことを報道されるプライバシーの欠片もないなまえの現状に憐れみを覚えた。最後に見たなまえは、魂が抜けたように上の空でいつも以上に作り笑いが下手くそだった。何でそうひとりで抱え込もうとするかなぁ、バカじゃないの。俺がテレビで知る前に生存くらい教えて欲しいんだけどぉ。

「いつなまえちゃんは戻ってくるのかしらァ」
「最近はmediaの数も減りましたし、早く戻って来て欲しいです」

 今日はKnightsの練習日。本来ならばなまえがレッスンに参加する日だ。しかし、なまえは欠席で放課後まで来ることはなかった。他の曜日もなまえを探しに誰かが教室に来ることが度々あった。元アイドルであったから、レッスンに関しては絶対的な信頼と評価が高いらしい。本人はあれだけど実際、俺らも頼りにしてる部分はあるからそこは認めてやってもいいと思ってるし。けれど、こうやって勝手に休んで迷惑かけられるのはチョーウザい。他のユニットも迷惑かけてるんだから、どっかで罪悪感に苛まれているといい。





 英智くんの家に匿われて早1週間。地下のレッスン室で毎日のように練習した。凛月くんと一緒にやってた時と同じ、これは私にとって小さな反抗だった。そして、自分の本心とでも言えるものだった。泉くんに言われた通り、アイドル時代は過去の話だし、今はプロデュースに専念するべきだ。けれど、これは私が決めた道ではない。他人によって無理矢理作り出された道だ。それだったら、自分の決めた道に戻したい。アイドルとしての人生を諦めきれていない、私は潰されたままでは生きたくない。少しだけど、自分の意志が分かった気がする。

「なまえちゃん、答えは見つかったかい」
「少しだけ、私はまだアイドルを諦めきれないってことだけだけど」

 私の言葉に英智くんは微笑む。彼は、時間があれば此処に来て私の姿を楽しそうに見ていた。正直、あの笑みに何があるか分からないままで、ちょっと怖かった。それでもこの意思だけは伝えなければならない。そう思って、意地でも目を離さなかった。

「そうだね、けれど君は一度大きな圧力によって潰された身だ。君が望むものになれる可能性はゼロに等しい。」
「何が言いたいの……?」

 彼は、いつになく楽しそうな笑みを見せて私を見た。でもそこに普段の穏やかな笑みはなかった。まるで、獲物を捕らえたような獣の目だ。それに思わず私は後ずさりをしてしまう。

「君は、今自力で何かをしようと思っていても無駄なんだよ。残念だけど、学校において君の行動は全て監視されている。……例えば、よく凛月くんと放課後一緒にいるみたいだね」
「……それが?」
「教師の間では言われてるんだよ、『怪しい動きをしたら退学だ』ってね。その監視は生徒会も一部請け負っている。今まで、学院の陰謀にも気づかなかった君は運良く免れてきたけれど、全て知った今は話が違う。君が次、何かしらの動きをしたら、僕が捕まえて学院に突き出さなければなければならない」

 じりっ、と彼は私に近づき手を伸ばす。私は反射的に後ろに下がり、英智くんの手が届かない範囲に行こうと無意識に動く。だめだ、この人に捕まったらいけない。いつものように穏やかな表情を見せる彼だが、改めて見ると目は笑っていない。それにしても突然すぎる。英智くんは学院側寄り、つまり言ってしまえば敵だとでもいうの?だとしたら、私に全てを教えてしまう必要性はないはず。英智くんは、私に一歩近づき腕を掴む。思わず払おうとしたけれど、男女の差というものか簡単には振り払えなかった。

「まあ、これは僕が学院側であった場合の仮説だけどね」
「へ……?」
「ふふっ、前に言っただろう?君は僕にとって憧れのアイドルのひとりだ。そんな君が『アイドルを諦めきれない』なんて言ってるんだ。僕は、君に協力したい」

 さっきまでの冷たい表情から一転、穏やかな笑顔に変わる。「びっくりした?」と楽しそうに笑うから、思考が停止する。えっ、どういうこと?何言ってた?「協力したい」?英智くんは、掴んだ私の腕を楽しそうに揺らして「ここ一番の間抜け面が拝めたよ」と笑っている。なるほどなるほど、さっきまでの怖い表情は英智くんの演技とでもいうのか。そして、こっちが本心か。確かに、英智くんは楽しいことがあると年相応に喜ぶ姿を見たことがある。しかしまあ、はた迷惑な。私は、全てを説明されるまで、ずっと英智くんに訝しげな目を向けていた。
  

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