▼ 14 学校を休んで一週間。私は、改めて学校に行くことになった。聞くところによるとそこまで休む必要性はなかったらしく、英智くんがこういう時間も必要だよ、とはぐらかした。お陰で自分のしたいことは沢山できたし、スッキリしたというのもある。今、一緒の車で優雅に外を眺めている皇帝に感謝してやってもいいかなって思う。 「いやでも本当、昨日のことは一生忘れない…今ですらちょっと警戒してるからね」 「ごめんね、でもなまえちゃんがあまりにも冷静に物事を済ませようとするから、からかってみたくて」 どうやら、教師陣に目をつけられていることや生徒会が噛んでいることは本当らしい。けれど、英智くん自身この話を知った時点で私に協力した方が面白いと踏んだらしく、学院には上辺だけの協力しかしていないという。結果的に、私はもう一度学校に行って未だに学院の手の内にいるフリをしようということになった。 「出来れば、このことは内密にね」 「誰にも言っちゃダメな話になるの?」 「そうだなあ…あんずちゃんにはもう話をしてあるから大丈夫だけど、瀬名くんとか、君のこと気に入ってるみたいだから言ってしまうと彼自身が学院に処罰されてしまう可能性がある」 瀬名くん、しばらく見ていない彼の顔を思い出す。英智くんの気に入っているという表現は違う気もするけれど、面倒なので受け流した。多分彼は、ユニットのプロデュースに影響が出ないようにしたいのと私に興味本位で関わっているだけ。最近仲良くなった気はしたけれど、当たりはきついし何より私がアイドルに未練があることをよく思っていないはず。そういえば、メッセージも休んだ初日以降来ていなかったなあ。私も返していないから悪いんだけど、今日会ったら小言の一つや二つ言われそうだから覚悟しておきたい。「わかった」と頷き、ちょうど良いタイミングで学校に着いたことで車から降りる。一週間ぶりの学校は、相変わらず穏やかな空気が漂っていた。 「おはようみょうじ!久しぶりだな!」 「千秋くんおはよう、久しぶり〜」 「何だ!風邪でも引いていたのか!?」 教室に入って初っ端、千秋くんに声を掛けられた。その声によって教室にいた人は私の方を一気に向く。みんながこの一週間どういう情報を得ていたのかは知らないけれど、驚いているのは確実だった。薫くんも「なまえちゃんじゃん〜久しぶり〜」と何事もなく声をかけてきたから、気にしていない人は全然気にしていないみたい。おはよう、と挨拶を返して席に座る。斜めちょっと前の泉くんの席にはいつも通り伸びた姿勢で携帯をいじる彼がいた。みんなが私のことを気にするように見てくる中、一切見ようとしない泉くん。少し前に仲良くなれたと思っていたのだけど、ビジネスライクだったのかもしれない。ふと、初めて名前で呼んだ時の彼の笑顔を思い出す。なんだか寂しいなあ。私は、惜しむ視線をわざと泉くんから逸らした。 今日1日、泉くんは声を掛けられること以前に目を合わせてくれることもなかった。前から大して仲の良い関係ではなかったから、1日話すことない何て普通だったのに今日はどうしても気になってしまってずっと目で追っていた。自分から話しかけに行こうとも思ったけれど、私が他の人に話しかけられてしまったり泉くんが誰かと話していたりして、結局話しかけることがなかった。あっという間に放課後を迎え、私は帰宅準備をする。今日は、レッスンもなく久しぶりに家に帰ることになっている。まだ早い時間だから、さっさと帰って家族に会いたいなあ。なんて思いつつ、席を立つ。クラスの人も各々ユニットの練習や部活などに向かっていった。私もその流れに乗って玄関に向かう。帰る人はあまりいないようで、玄関に行くにつれ人の数は少なくなった。私は靴を履き替えようと、自分のクラスの下駄箱がある場所まで歩みを進める。そこでふと、人影があることに気づいた。 「……なまえ」 「泉、くん…」 いつも通り不機嫌そうな顔は、私を見つけると顔に不釣り合いな優しい声で私の名前を呼んだ。私は少しだけ目頭が熱くなった。 ← → |