▼ 17 「今のところワンテンポ遅い。もう一度」 「はいっ!」 今日は以前、司くんから頼まれた個人レッスンをすることとなった。彼はKnightsの中でたった一人の一年生であることから、他のメンバーと比べてやはり劣るところが目立つ。特に、ダンスに関しては体力がついていないから疲れが出ると少しずつズレていくのが分かる。ひとつひとつの振りに神経を使いすぎているようにも感じた。何事も全力で挑むのは良いことだけど力の抜き方を知らない、とレッスンをする前に泉くんが教えてくれたのだけど正にその通りだった。レッスン冒頭で本人にこの話をするとそんなこと全く気付いていなかったらしく、pointを絞るのですね!と納得すると次からはみるみる上達しだした。さすがKnights、恐ろしい子を抱えている。 「ちょっと休憩しようか」 汗で体操服がへばりつくようになったのを感じて私は休憩を提案する。司くんも額から汗を流し、そうしましょう、と笑った。そういえば、あの後Knightsについて知識を得ようと資料を見た。Knightsは、夢ノ咲において実力の高く秀でているユニットの一つ。リーダーは、月永レオという人物。私には耳馴染みのない名前だった。 「司くんって、ユニットのリーダーについて知ってる?」 「Leaderですか?……実は、一度もお会いしたことがないのです。他の皆さんに聞くと、行方が分からないと仰っていたので会う術がないのです」 司くんは、少し肩を落とす。私と同じような時期に来た司くんすら会っていないなら、4月にはもういなかったと言える。やっと自分に余裕ができた今、ユニットについて詳しく知ろうと思ったけれど、この件については泉くんもあまり話したくないように感じられた。もしかしたらいつかリーダーの人は帰ってくるかもしれない。その時に教えてもらえれば良いかな。 「そろそろ再開しようか。この曲完璧にさせないと私が泉くんに怒られちゃう」 「瀬名先輩に……っ!それはdangerです!朱桜司、精進します!」 司くんとのレッスンを終えて、司くんを見送る。携帯を見ると泉くんから司くんを気に掛けたメッセージが来てたから完璧に仕上げたよ、とさっき一緒に撮った自撮りも送り付けてみた。そのメッセージにすぐ既読がつき「可愛くない」とだけ返事が来た。ちょっとひどい。私は携帯の電源を閉じてある目的の教室に歩みを進めた。 「……えーっと、どういう現状?」 「やあ、いらっしゃい」 私は、英智くんに呼び出された教室に来た。特に用件を伝えられていなかったから教室の戸を開いて少し驚いた。英智くんは楽しそうに私の昔のDVDを見ているし、あんずちゃんは真剣に色とりどりで素材も様々な生地たちと睨み合っている。しかも傍には見たことのある衣装……あ、私の昔の衣装だ。呆然と突っ立っていると、あんずちゃんがやっと気づき会釈をされる。釣られて会釈を返すけれど既に生地との睨み合いに戻っていた。私は未だに何が行われているのかが分からない。 「作戦会議をしようと思ってね。ほら、あんずちゃんには話してあると言っただろう?」 「そういえば、そういうことも言っていたね……いや、ちょっと待って何楽しそうにDVD見てるの?恥ずかしいからやめよう?」 「これは15歳の頃のかな?少し幼いね」 「話聞いて!」 この人たちはマイペース集団なのか。疑問の積み重ねによってちょっとムキになって大きな声が出た。それでも英智くんは動じず微笑みながら「こっちにおいで」と手招きをしてくるし、あんずちゃんに至っては自分の世界から抜け出す気配すら感じられない。私は、少し肩を落としながら引かれた椅子に腰掛ける。そして一枚の企画書を渡された。企画書の形式はプロデュース科で指導されているテンプレートで、企画立案者の名前にあんずちゃんの名があることから彼女の企画だと認知する。しかし、そこに書かれているものに私は目を疑った。 「出場予定の欄、私の名前が固定されてるんだけどどういうこと?」 「その通りだよ。君にはS3に出てもらう」 ← → |