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 私が呆然としていると、何か質問はある?と英智くんは首を傾げる。沢山あるに決まってるじゃないか。私はプロデュース科の生徒だし、先日明かされた話によると学院に見張られている身だ。それなのに最近新設されたと噂のS3枠で私を出すなんて、正気の沙汰じゃない。

「君が来るまでに色々と考えたんだ。最初は業界に手を回して出すことも考えたんだけど、それは君にリスクが有り過ぎる」

 彼は、彼なりに考えた案を話し出す。確かに、私が突然メディアに顔を出してしまうのも一つの手ではある。けれど、それは学院にとって不都合以外の何物でもない。私より権力を持ち合わせている学院は、私をすぐに退学へと追い込み存在自体を揉み消しかねない。

「それで思いついたのはこのS3だ。君が学院でステージに立ってしまえば、学院から公表したような形になる。よって、学院はもみ消そうとすると自分たちが悪だと明白になってしまう。実に面白い案だと思わないかい」
「面白いのは今凄く生き生きしている英智くんだよ」
「因みに、さっきの企画書は生徒会用で学院用はなまえちゃんの名前を伏せて提出済みだよ」
「嘘でしょ!?」

 思わず椅子から立ち上がって声を上げる。その声にあんずちゃんも反応してこちらを振り向く。しんと静まりかえってしまい少し恥ずかしくなって椅子に座り直す。英智くんは、相変わらずにこにこしていた。

「言ったじゃないか、協力してあげると」

 そう言うと英智くんは椅子から立ち上がり、あんずちゃんに出来たかい?、と声を掛ける。彼女も満足そうな顔で頂いた資料のお陰でなんとか、と、何枚かの紙を持ち私の方を向いた。私は、何が行われているのか全く分からず、あんずちゃんから渡された紙を言われるがまま受け取る。そこには、彼女なりのステージ案と私の衣装について、そしてセットリストまでが書かれていた。よく見ると、私の現役時代にしたことのあるパフォーマンス案など事細かに書かれていた。こんなこと、私と事務所の担当しか知らないようなことなのに。

「君の所属していた事務所に声を掛けたんだ。直接的な協力は出来ないけれど、出来る範囲での協力はすると言ってくれてね。ステージ案についてもそうだけど、衣装なども全部貸してくれたよ」

 あっさりと言ってしまう英智くんに私は目が点になってしまう。この人はいつもこうだ。人がやれないようなことをいとも簡単にやり遂げてしまう。そこまでに並ならぬ人脈形成とかの努力はあるのだろうけども、さすが皇帝と呼ばれた男だ。何をしでかすか分からない。

「出る出ないは別として、どういう流れでやるつもりなの?」
「基本やることはトーナメント戦で行こうと思っている。けれど、君は一人であることから優勝者との対決というイレギュラーな展開にしようと思って。その際、1対1で相手のユニットからはリーダーに出てもらう予定だよ」

 つまり、私はそのドリフェスの勝ち負け関係なく舞台のクライマックスでパッと出をしなければならないということ。会場には優勝と準優勝のユニットのファンがいるのに私が突然出てくるというのは、場に水を差すような展開にもなりかねない。

「とんでもない賭けだね、それ」

 もし、失敗でもして場が白けた場合を考えると冷や汗が出た。ゲームで言ったらラスボスを倒したと思ったら更にボスがまた一人いるようなもの。ゲームのように、観客を興奮させるものでなければならないということ。英智くんは、あんずちゃんから一つの衣装を受け取り私に渡す。それは、私にとって思入れの深い最後のライブでの衣装だった。

「なまえちゃんのラストライブに来た衣装、次は再スタートで着てみたくないかい?」

 先ほどの紙に改めて目を通すと、衣装についてはこれがベースとなって描かれているものが多かった。あんずちゃんを見ると、少し照れた顔をしながら笑っていた。彼女の以前言っていた「プロデュースしたい」という言葉を思い出す。本当、あんずちゃんはアイドルを扱うのが上手いなあ。

「しっかり私を、みょうじなまえをアイドルに戻してね」

 私は、英智くんの言葉に口角を上げ視線を真っ直ぐ合わせ答える。英智くんは満足そうに笑い、その横にいるあんずちゃんに視線を向けると大きく頷いてくれた。
  

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