▼ 19 今、私は少し焦りを感じている。私が出ることとなったS3は夏休み直前に行われることとなった。残り3週間といったところで、事細かに2人が計画を練ってくれていることから、私自身はパフォーマンスの精度を上げることに集中出来ている。焦っているのはそこではない。エントリーしたユニットを見て死ぬほど焦ったのだ。流星隊にUNDEAD、TrickstarにKnights……どこも自分に縁のあるユニットばかり。英智くんにエントリーシートを見せられた時は思わず「ひええ」と声に出してしまったくらい。このユニットのどれかのリーダーと当たる、と考えると楽しみな反面恐ろしく思えてしまう。個人的に、Knightsには当たりたくないなあ……泉くんだし……。 そして今、KnightsのS3に向けたレッスンを終えたところ。先日個人指導した成果か司くんのパフォーマンスも良くなってきていて、ようやくまとまりが見えてきたように思える。それが何だか嬉しくて今日はちょっとだけ厳しめに見てしまったら、嵐くんに「ちょっとやりすぎじゃない?」と言われてしまった。いつもあまり汗をかかない泉くんですら汗をかいていて、漸く我に返れた。 「熱中しすぎた。ごめんね」 「ごめんね、じゃないでしょお。今日はもう満足いった?」 「うん、まとまりも良くなったし今日はもう十分だよ」 「こっちの体力も考えてよねえ、じゃあ今日は終わり。お疲れ」 泉くんは、呆れたような顔で私の頭を小突く。そのまま自分のカバンからタオルを取り出して汗をくまなく拭き取っていた。その姿を眺めていると突然肩に重みがかかってきた。 「もしかしてなまえ、セッちゃんのことが好きなの?」 耳元に囁かれるように言われ寒気のようなものが体を襲う。肩に腕を乗せてきた凛月くんは、横から私の顔を覗くとにやりと怪しい笑みを浮かべた。最初は何を言われたのか分からなかったけれど、遅れて意味を理解する。待って、見てただけだから。そういうことじゃないから。 「な、何言ってるの、そういうのじゃないって」 「でも最近よく目で追ってるよね〜無意識?」 「……私、そんなことしてたの?」 自分でも無意識な行動を指摘され顔が赤くなる。私は、泉くんに海辺で抱きつかれた一件が未だに忘れられていない。どういう意味だったのか気になって聞けず仕舞いなのだ。と言っても、答えを知って何になるかと言ったら何もならないんだよね。ただ、その日から泉くんの行動ひとつひとつが気になって仕方がない。それで気づいたら目で追っているのかもしれない。凛月くんは、「セッちゃんは分かんないけど、他の人はみんな気付いてるよ〜」と楽しそうに言った。はっ、として近くにいた嵐くんと目を合わせると「恋の相談ならいつでも乗るわよォ」とこちらも楽しそうにしていた。待って、私は恋してるわけじゃ……。 「ちょっとぉ、くまくん着替えずに何なまえに引っ付いてるの」 「うわあ、来たよなまえ。さすが騎士だね」 「私に振らないで!」 こっちに気づいた泉くんが私から引き剥がすように凛月くんを引っ張る。凛月くんは力なくあっさりと泉くんの手によって引き剥がされ、もう一度私を見ると「そろそろ自覚してあげなよ〜」と言い手をひらひら振って着替えに行った。泉くんは、着替えに行った凛月くんを途中まで見守ると、私の方を向いて眉を吊り上げながら「何の話をしてたの」と聞いてきた。私は、「好きなの?」という言葉を思い出して思わず顔が赤くなる。 「大したことじゃないよ!す、好きな人いるの?ってはなし!」 「……ふーん、まあ、いいけど。あんた今日はこのまま帰る?」 「いや、特に……」 「分かった。じゃあ特別に送って行ってあげるよ」 泉くんはそう言うと、私の返事も聞かずに「準備できたらさっさと行くよ」と帰宅準備を急かした。私は慌てて着替えを持って着替えるためにトイレに走った。本当、凛月くんのせいだ。顔は赤いままだし、心臓の音は聞こえるくらい高鳴っている。着替えて戻ったら、みんなは楽しそうに談笑していた。最初の頃は、こういう雰囲気もあまりなかったのに最近は少し見かける雰囲気。もしかしたらKnightsも少しずつ変わってきてるのかな、なんて思っていると泉くんが 立ち上がって他のメンバーに「先に帰る」と告げていた。 「ほら、さっさと行くよ」 「あ、うん!じゃあみんなお疲れ!」 お疲れ様、という言葉を受け取り私は泉くんの横に並ぶ。彼は、私が横に来るのを横目で見るとまっすぐ歩き出した。駐輪場に着くと以前乗せてもらったバイクがあった。はい、と自然にヘルメットを渡され乗り込むと「ちゃんと腕回しておいて」と声を掛けられる。先ほどの事を思い出して、体に抱きつくことに抵抗していた私を泉くんは見て「そんなことしてたら振り落ちても放っておくから」と毒づいてきた。どうにかこの顔の熱さと心臓の高鳴りを抑えたい。けれど、直で感じる泉くんの体温と匂いで収まることがなかった。その結果、学校から家の近くまでの間そればっかに気を取られうまく会話が出来ないでいた。 ← → |