▼ 21 突っ伏せた机は、冷たくて暑い日が続く夏にとってはとても良い温度だった。結局、昨日の泉くんに謝る言葉も見つかることなく朝が来てしまった。自分の手が泉くんを引きとめられなかったことを未だに後悔してる。けれど、そこで引きとめて私は何が言いたかったかと聞かれると出てこなくて、あそこで私は何も出来ずに終わることが必然的であったのだろうと思ってしまう。今日学校に来たら謝ろうと思っていたのだけど、教室内でも私から一切近づこうとしないし、いざ話しかけようとしたら席を立ってどっかに行ってしまった。今回こそ泉くんは私を避けている。 「避けてるとか流石に傷つく……」 食堂で1人、昼食を取りながらため息をつく。美味しいはずの学食の食事も味気なく感じてしまって、全然箸が進まない。今日に限って食堂で仲良い子に出くわすことがなかった。これなら薫くんでも誘ってしまえば良かったと少し後悔する。ひとりでのご飯、あんまり美味しくないってこういうことなんだろうな。 「あらぁ、なまえちゃんひとりでどうしたの」 「嵐くんだ」 上の空だった私に声をかけてきたのは嵐くんだった。嵐くんは、私の言葉に「嵐よぉ」と微笑み目の前の席に座る。どうやら食事は終えたらしく、教室に帰ろうとしていたところみたい。彼は、私の顔を見ながら頬杖をついて笑う。「どうしたの」と首を傾げると、同じように首を傾げ「なまえちゃんこそ」と言ってきた。 「いつになく暗い表情してたわよぉ、昨日泉ちゃんと何かあった?」 そうだった、昨日送って貰ってることをKnightsのみんなは知ってるんだった。その出来事があっての今日だ。勘の鋭い嵐くんには、原因の憶測くらい簡単だったのだろう。私は、残り少しであったおかずを食べきり口からなくなったところでため息をついた。 「嵐くん、聞いてくれる?」 「もちろん、可愛いなまえちゃんの相談なら大歓迎よぉ」 「ありがとう……あのね、」 私は、嵐くんに昨日の出来事を一通り話した。嵐くんは真剣に頷いて聞いてくれて、最後まで聞いてくれると腕を組んでうーん、と唸った。 「もう分かんないよね」 「そうねぇ……もしなまえちゃんがそのままだったら、一生泉ちゃんに避けられて終わりそうねぇ」 「そのままって、謝らなかったらってこと?私、謝ろうとはしてるよ」 「違うわよぉ」 もう、と頬を膨らませながら眉尻を下げる。違うと言われてしまい、私にはもう苦笑いするしかなかった。だって分からないもん。私も嵐くんと同じように頬杖をついて向かい合う。向かい側の彼は、手を伸ばし私の髪にすくって流した。横髪が頬に当たってこそばゆい。 「なまえちゃんは、随分泉ちゃんに甘やかされちゃってたのね」 「甘やかされてた?」 「そうよぉ。泉ちゃんがなまえちゃんに対して怒ることなんて沢山あったのに、なまえちゃんはいつも泉ちゃんが行動するのを待ってた。今も心のどこかではあっちがどうにかしてくれると思ってる。違う?」 嵐くんの言葉が胸に刺さる。言われた通り、いつも泉くんが先に行動して後味悪くないようフォローしてくれていた。私がアイドルを諦められないと言った時も、学校に数日行かなかった時も、私は頭で思うだけで行動してくれたのは結局泉くんだ。私は、世話焼きな泉くんに甘えていたからいざと言う時に行動出来ないでいるんだ。 「……違わない。私、泉くんに甘えてた」 「ふふっ、それじゃあもう簡単よ。なまえちゃんが、泉ちゃんの言葉で抱いた罪悪感は違うわよね」 「違う……嫉妬だ」 その言葉に嵐くんは、少し嬉しそうに笑った。好きな人がいる、そんな話で抱いた罪悪感は嫉妬だ。私が泉くんに気に留めてもらえることが嬉しかったからこそ、その対象が違う人……それも泉くんの好きな人に移ってしまうのだと思ってしまったから。泉くんを取られてしまう、なんて思ってしまったんだ。自覚すればするほどだんだんと恥ずかしくなる。 「自分が凄く醜い人に思える」 「あら、そうかしら?あたしは大好きよ、恋する女の子って」 「え?恋?違うよ、私はただ泉くんに世話焼いてもらえてることに甘えてただけで」 泉くんは恋愛対象ではないよ、というと嵐くんは大袈裟に瞬きを数回する。首を傾げるとそれを見た嵐くんは、小さくため息をついて「鈍感にもほどがあるわぁ」と困った顔をした。嵐くんはこの流れで私が泉くんのことが好きだとこじつけたかったのだろうか。例えそうだとしても泉くんには既に好きな人がいる。私はつられて困った顔をして笑った。 「嵐くんありがとう、頑張ってみる」 「いえいえ、仲直りできると良いわねぇ」 気づけば昼休み終了時刻目前、私は嵐くんと別れて急いで教室に戻った。教室には既に泉くんは居て、私は息を飲む。嵐くんのお陰で曇っていた気持ちは少し晴れた。放課後、絶対謝ろう。私は、泉くんの席から斜め少し後ろの自分の席に座り、彼の背中を睨みつけるように見た。 ← → |