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 とうとう明日がS3開催日、これまで自宅や英智くんの家でみっちり練習した。あんずちゃんの考えたプロデュース案は流石と言えるもので自分のアイドルとしての感覚を十分に戻せることが出来た。

「……久しぶりすぎて緊張する」

 完成した衣装は、私のイメージに合ったもので昔の自分を彷彿させるものがあった。久しぶりの衣装に袖を通して、鏡の前で一周する。最近は制服しか着ることがなかったから、キラキラした衣装に少し恥ずかしくなる。けれど、横で見ている英智くんは嬉しそうに見ているから現役とそう変わらない姿を見せられているのだろう。

「十分素敵な姿に仕上がったと思うよ。あとは……段取りは確認してあるかな?」
「ばっちり。誰が相手だろうと完璧なパフォーマンスをするよ」

 最後のサプライズとして登場する自分は、ステージに実際に立ってリハーサルは出来ない。その分、実際のステージを見ることと説明された内容で理解しなければならない。リハが出来ないことは少し不安ではあるけども、ここまで来て誰かに知られてしまうのは隠したい。あんずちゃんと英智くんの協力も水の泡となってしまう。だから私は、今回のS3にはKnightsのプロデュースのみで参加という体でいる。願わくば、最後までそう認知されていたい。

「ところで、リハーサルの立会いには行かなくてもいいのかい」
「わっ、もうこんな時間なの?さすがに行かなければ」

 衣装に浮かれていたらとっくにKnightsのリハの時間が迫っていた。私は、急いで衣装を英智くんの視界に入らないところで着替える。英智くんも気を使ってくれたのか私から背を向けてくれた。ジャージに着替えて、脱いだ衣装を英智くんに返す。英智くんはそれを受け取ると私の顔を見て微笑み、手を差し出した。

「いよいよ明日。どのような結果になろうとも全力でサポートするよ」
「ありがとう。私は、私なりに一番のアイドルになるよ」

 差し出された手を強く握って目を合わせる。いつも柔らかな笑みを見せる英智くんは、いつになく楽しそうで少し少年ぽさが見える笑みをして見せた。その笑みに返事をするように私も笑い返す。決戦は明日。どう転ぼうとも私は、アイドルの道に戻ってみせる。


「はい、一回通すよぉ」

 泉くんの一言でメンバーは立ち位置に着く。そして、音楽が流れ出すとパフォーマンスを始めた。今回のS3において、初めて衣装を身につけてパフォーマンスする姿を見る。客席の一番見える位置に座ってメモを開きながら真剣に見ていたけれど、ペンも止まるほど完璧と言えるものだった。私が指導した少し高度の振り付けも全員が完璧で、体力が不安だと言われていた司くんも見事についていけるようになっている。凛月くんのオールマイティなパフォーマンスもミスは見つからず、むしろ余裕な表情を見せていた。嵐くんは嵐くんで、自分の持ち味である美しさで惚れ惚れするような魅せ方をしてくれる。そして泉くんは、堂々たる面持ちでそれこそ文句の付け所がないパフォーマンスを見せてくれた。

「すごい……」

 思わず自分の口から独り言が漏れる。初めてKnightsをプロデュースした時は、ここまで見る余裕はなかった。というか記憶にあまり残っていなかった。けれど、今回はみんなのひとつひとつの動きが目に焼き付けられる。これが彼らのアイドルとしての姿、それを私がプロデュースとして関わったことに感動さえ覚えた。

「ここ、なまえの意見欲しいんだけど」
「あれ、なまえ泣いてる?」

 突然名前を呼ばれて私は慌ててステージに駆け上がる。さっきまで感動していたからか、少し目が潤んでいた。それをあざとく凛月くんが気付いて顔を覗く。

「いや、違う。……えっと、ここね」

 首を勢いよく横に振って否定し、話をすぐに変える。凛月くんは、まだ疑うようにこっちを見てくるけれど今は限られた時間でのリハ中だ。私事で邪魔しちゃいけない、そう思い無視した。泉くんは、私の意見を聞くと腕を組んで「まあ、それもアリかもねぇ」と納得した。珍しく泉くんが素直に意見を受け入れてくれて私は嬉しくなる。それが表情に出ていたのか、私の顔を見るとすぐさま「調子に乗らない」と小突かれたけれど。

「うわ、やっぱり目赤いじゃん」

 リハーサルを終えて、凛月くんに改めて顔を覗かれる。あの後も、感極まって目が潤んでしまっていた。何度も目を擦ってしまって終えた頃には目が赤くなってしまっていたみたい。凛月くんは、私の顔を掴むと持ち上げて自身の冷たい手を目に当てた。ひやりとした感覚が気持ちよくて少しだけそれに身を委ねてしまう。

「何やってんの」

 泉くんの言葉で、凛月くんの手はすぐ払われる。私は、冷たい感覚を残しながら目を開くと手を振り払われても少し楽しそうに笑う凛月くんと不機嫌な泉くんがいた。泉くんは、凛月くんを一睨みすると私に視線を寄越す。私は思わず肩が跳ね戸惑ってしまう。それにお構いなしに泉くんは、私の顔を見てきた。

「何?泣いてたの?」
「いや……プロデュースも案外悪くないなあ、って思ったら感動しちゃって」
「……まだリハでしょ、それは明日言いなよ」

 そう言うと、泉くんは背を向ける。私はその場に残された凛月くんと目を合わせると、「素直じゃないよねえ」と小声で言われる。まさにその通りで、私も困ったように笑った。本当、素直じゃないなあ。そこが泉くんの良いところなのかもしれないけれども。そんなこと思っていると、泉くんは思いついたかのように振り向き私に近づいてきた。

「どうしたの?」
「前回、ライブ見てくれなかったポンコツなプロデューサーに言うことがあってねぇ」

 その言葉に気に触るところは多々あったがそれを我慢して泉くんを見る。泉くんは、私を見下ろして挑発的な笑みを浮かべた。

「今度は、ちゃんと見てよ」

 ちゃんと見て、初めてのライブでもそして夢でも言われた言葉。今までの私だったら答えられなかった。けれど、その言葉に不快感も感じることのなくなった今は、しっかりと泉くんの目を見て「もちろん」と答えられることが出来た。これは、私の本心だろう。
  

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