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 長袖のジャージにマスク、端から見たら不審者のような風貌で私は校舎内を走り回っていた。S3は、Knightsが順調に勝ち進んでいる。プロデュースを担当した私にとってそれは喜ばしいことで、勝つたびに嬉しそうに嵐くんや司くんが報告してくるのが嬉しかった。

「やっぱりKnightsが1番好き」
「だよね、泉くん格好よかった!」

 ふと、聞き慣れた名前に反応する。そこに居たのはドリフェスを見に来たファンの子達で、彼女たちは興奮した様子で話していた。話と持っているものを見た限り、Knightsのファンのよう。なんだか嬉しくなって、聞き耳を立ててしまう。

「付き合うなら泉くんだなあ、絶対毎日幸せじゃん」

 いやいや、何を言ってるんだ。彼女達の会話は、気づけば誰と付き合うかになっていて思わず心の中で突っ込んでしまった。けれど彼女達が見てる泉くんは、紳士的で忠誠を誓ってくれる完璧な騎士。例え、ステージで悪態をつこうがそっちの印象の方が強いのかも知れない。

「泉くん達、今休憩中かな?もしかしたら会えちゃったりして」
「それやばい。連絡先聞けたりしないかな」

 彼女達の会話はヒートアップして、休憩中の彼らを見つける事にまで発展していた。アイドルと言えどまだ高校生。同い年くらいの子に連絡先を聞かれたら教えてしまうかも知れない。泉くんに限ってそんなことしない気もするけど、もしもを考えてやきもきする自分がいた。それと同時に、泉くんの告白を思い出す。だめだ、これでは泉くんの思うツボだ。

「あんたここで何やってんの」

 突然、後ろから声を掛けられる。振り向くと、腕を組んで訝しげな顔をした泉くんがいた。私は慌てて女の子達から視線を逸らす。そして、泉くんの方を向き何でもないと言うように首を横に振った。

「泉くんは、休憩中?」

 盗み聞きしてたなんて察されたくなくて、私はすぐさま話題を変え、聞き耳を立てていた事で止まっていた足を動かす。泉くんは突然歩き出した私に少しだけ驚いた様子だったけど、何も言わずついて来てくれた。

「そう。……そろそろ決勝だけど、なまえも行くの?」
「行くよ。今日まともにステージ見れてないから、決勝だけでも見ようと思ってる」

 その言葉を聞いた泉くんは、口角を上げて少し機嫌の良い表情をした。彼なりに喜んでくれているのだろう。嬉しい。昨日約束したし、ちゃんと見ておきたいと思っていた。それに、私がプロデュースしたユニットが決勝まで進んだのだからそれを見ないなんて勿体ない。もしかしたら、今日でプロデュースすら出来なくなってしまう可能性もある。……いや、そんな最悪の事態は考えるのはやめておこう。私は、いつの間にか横に並んで歩いている泉くんの横顔を見る。相変わらず整っていて綺麗、さっきの女の子たちが彼氏として連れたい理由もなんとなく分かってしまう。

「何?ジロジロ見てきてうざいんだけど」
「あ、ああ、ごめん」

 視線に気づいた泉くんがこっちを見て眉を顰める。私は、慌ててへらりと笑って行く道の方に顔を逸らした。けれど、泉くんはその態度に納得いかなかったのか私の方をじっと見ていた。私はその態度に折れてしまってもう一度泉くんの方を向く。泉くんは、相変わらず無愛想な表情で私を見ている。けれど、それでも綺麗な顔だと思ってしまうあたり泉くんに毒されてきてる気がする。告白の一件から、泉くんを余計に意識するようになってしまっている。さっきの女の子たちの会話だってそうだ。もし泉くんが私以外を好きになってしまったら、なんて独占欲の強いことを考えてしまっていた。別に彼女でもなんでもないのに、というか好きではないはずなのに。泉くんのことを考えると複雑な気持ちになってしまうのがどうにも気に触る。思わず苦笑いになってしまうと泉くんの表情は更に険しくなった。

「言いたいことでもあるの?」

 泉くんは腕を組んで気だるそうに聞いてくる。最近気づいたけれど、これも彼なりの気遣いなんだと思う。世話焼きな泉くんだけど、これに甘えてばっかりの私が少しだけ情けなくなった。あっちが好きだと言ってくれるのは当たり前じゃない。なのに、勝手に独占欲抱えちゃって都合の良い立ち位置にいてもらってしまっている。そろそろはっきりさせなきゃいけない。

「今日、全部終わったら話したいことがある」

 私は、自分の頬をかいてへらっと笑った。今日は、私にとって区切りをつける日。全て終わったら話そう。それまでは、少しだけ待っていてほしい。
  

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