▼ 25 泉くんが叫ぶと歓声が上がる。まるで姫を従う騎士のような雰囲気を醸し出す泉くんは、一際目立っていた。決勝戦、Knightsの勝利が確実なものであるように感じられる。ステージを闊歩している騎士たちは、それだけの実力を備えてきていた。 「なまえちゃん」 名前を呼ばれて振り向くと、英智くんとあんずちゃんがいた。 「そろそろ準備しようか」 「……うん」 英智くんの言葉に頷く。ライブも終盤。ステージではKnightsが歓声を浴びて楽しそうな表情をしていた。そこにいる泉くんも笑顔を振りまいている。格好良い、そして羨ましい。私はまた嫉妬のような感情が生まれる。けれどここまで夢ノ咲に残った理由は、彼らに嫉妬するためなんかじゃない。紛れもなく、自分の人生のためなんだ。英智くんとあんずちゃんが歩き出すのに遅れて、私もステージに背を向け歩き出す。なんだか目頭が熱くなって目元を押さえた。私は今、感動してるのだろう。 「きれい……!」 感嘆の声を上げたのは、あんずちゃんだった。私は、目を輝かせるあんずちゃんを見て少し恥ずかしくなる。やっぱり久しぶりの衣装は着慣れないため、恥ずかしい。自分の着る衣装は、女性アイドル王道のようなフリルの強いものではない。中性的なものではあるが、どちらかと言うとやはり女性らしさが強調される。観客は男性アイドルを見に来ているから完璧アウェーだろう。けれど、それはパフォーマンスで補うしかない。私は、鏡の前で一周して衣装に不備がないか確認する。あんずちゃんの衣装は完璧で、問題はなさそうだ。私は、英智くんとあんずちゃんを見て満足気に頷く。 「準備万端だよ。いける」 「みたいだね。見せてもらおうか、君の再スタートを」 英智くんは、楽しそうにそれこそまるで年相応の少年のように笑う。それに応えるように私を歯を見せて笑った。心拍数が早くなっているのが分かる。私は今、興奮しているのだろう。早く歌いたい、早く踊りたい。そしてみんなに、泉くんに、アイドルを諦めていないということを全身で示したい。あんずちゃんが用意してくれた上着を羽織って、再びステージ袖に向かう。人の目はもう怖くない、むしろ心地よかった。 ステージでは、Knightsの優勝が言い渡されていた。心底嬉しそうな顔をする司くんや嵐くんが袖からでも見て分かる。凛月くんも満更でもない顔をしていた。そして、泉くんは表情を崩すことなく優雅な笑みを見せている。流石プロというところか、それ良く崩れないなあなんて思ってしまう。けれど私も嬉しかった。プロデュースしたユニットが優勝したんだ。嬉しくないわけがない。プロデューサーとして、喜ばしいことだ。私は、小さく拳を握ってガッツポーズをする。あとでみんなにおめでとうって言おう。 「おめでとう、Knights」 すると、いつの間にか英智くんがマイクを持ってステージに立っていた。さっきまで横にいたはずなのに、と疑問に思いつつ横にいるあんずちゃんを見る。あんずちゃんは、緊張しながらも真剣な表情で頷いた。多分、この流れはこの二人が考えていたものなんだろう。出来ればそこから私に共有して欲しかった。ちょっとだけ苦笑いになりつつも頷き返す。 「そんな君たちに、その中でも瀬名くん。君にはもう少しだけ付き合ってもらいたい」 「俺に?」 名指しされた泉くんは、少しだけ顔を歪ませる。あ、ちょっと面倒だと思ってるな。私は、そんな泉くんの表情にちょっとにやつく。マイク越しに響く二人の声が私の高揚感を更に高めていった。もうすぐ出番だ。 「観客の皆さんにも少しだけお時間を頂くことを許してもらいたい。皆さんにもこの歴史的瞬間を共有して欲しいのです」 なんて大層なことを言うんだ、とちょっとだけ頭を抱える。けれど、そんな暇もなくあんずちゃんが私の背中を押してステージに上がれと促す。私は、あんずちゃんの方を向いて笑顔で手を振る。 「行ってくるね」 そう告げると、あんずちゃんは笑顔で手を振り返してくれた。それを見て直様ステージに駆け上がる。今からはアイドルのみょうじなまえだ。優雅に可憐に、今このステージに立っている誰よりもアイドルらしく振舞いたい。ライトアップされたステージで顔を上げると少し眩しくて目を細めてしまう。観客からは、私が誰か理解した人たちが次々と騒ぎ出していた。その声にまだ認知されている人物なのだとちょっと安心してしまう。まあ、ちょっと前にお茶の間を騒がせちゃったりしてたしね。明るいステージとざわつく観客のいる中で、英智くんを見つける。彼は、目を細めて笑っていた。それに応えるようにして少しだけ笑う。 「なまえ……」 声のする方に顔を向けると、泉くんが驚いた表情をしていた。その後方にいるKnightsのメンバーも皆同様に、……凛月くんだけはとうとうやったか、見たいな顔をしているけれど。私は、一通りメンバーを見渡すと泉くんに視線を合わせる。泉くんは今にもマシンガンのように、問い詰めてきそうな顔をしていた。どうだ、びっくりしただろう。私はちょっと自信ありげな表情で泉くんを見る。 「よろしくね、瀬名泉くん」 マイク越しに挑発するようにわざと瀬名泉くん、と呼ぶ。すると、泉くんは私の前まで歩み寄り、その挑発に乗ったかのような笑みを浮かべた。そして、マイクにも通らないような声で言葉を発した。 「似合ってんじゃん」 そのまま泉くんは、この勝負の承諾をする。気づけば観客もさっき以上に興奮している様子で、今にもステージに押し寄せてくるのではないのかと言うくらいの熱気だ。固まっている私に目を向けて泉くんは、再び笑みを浮かべる。 「よろしくねぇ、みょうじなまえさん」 ← → |