▼ 27 いつもより大きな月が教室を照らす。私は、机乗ってその月を眺めていた。ドリフェス終了後、英智くんに流されるまま生徒会室に行った。どうやら終了直後から私についてテレビもネットも大盛り上がり、夢ノ咲のアイドルを見に来た報道陣もファンも殆どの興味が私に行ってしまったらしい。 「なまえちゃん、アイドル科にいるのではないかという噂が流れているよ」 英智くんは玉座のような椅子に座り、携帯片手に笑っていた。私もさっきSNSを見てみたけれど、アイドル科にいるのでは、とかみょうじなまえは復帰するのか、など憶測が沢山書かれていた。他人事のように言いやがって、なんて言おうと思ったけれど、ライブ後だからか私も楽しいから何も言わないでおいてあげた。生徒会室で時間を潰してからは、ふらふらと教室に向かっていた。先生からはまだ呼び出しを受けていないけれど、明日何か処罰でも下されるのかな。もしかしたら明日は、ここに来れなくなっているのかもしれない、なんて思えてきた。けれど今更だ、私はよくやったよ。 「何してんの」 ふと、後ろから声がした。泉くんの声だ。私は、体を泉くんの方に向ける。泉くんは、扉のところで腕を組んで立っていた。 「泉くん」 「……帰ってなかったの」 ため息ついて、私に近づく。もう遅い時間だから、今日は会うことはないと思っていた。泉くんは、無表情なまま私の前の机に腰掛ける。 「泉くんこそ、まだ居たんだね」 「まあね、ミーティングもあったし」 「ああ、ごめんね、行けなくて」 「別にぃ、あんたが居なくても出来るから」 ふいっと視線を逸らされる。今回のS3の優勝はKnights。私の乱入で色々起こってしまったけれど、彼らは優勝を掴み取った。本来なら、プロデューサーとしてみんなを賞賛したかったのだけれども。なんだか申し訳なくなって、私も泉くんから視線を逸らした。 「今日の、」 「今日のなまえ……何?」 言葉が重なる。泉くんは、それが少し恥ずかしかったのか眉間に皺を寄せ私を見てきた。多分、私が聴きたい事と泉くんの言いたいことは一致してるのだろう。 「あっ、いや、今日のどうだった?私、ちゃんとアイドルできてた?」 「何食い気味なの、怖いんだけどぉ」 「ご、ごめん」 私は、思わず前のめりになって泉くんに聞いていた。そんな私を見て、泉くんは少し身を引く。ライブ後の熱が冷め止まないのか、今日のライブの感想が欲しくて仕方なかった。ステージの上でも聞いたのに、それでも泉くんに聞きたかった。謝りつつちょっと離れると、泉くんは腕を組んでこっちを見てきた。 「まあ、普通じゃない?よく男性アイドル目当ての女の子たち前に立とうと思ったね」 「う、それはごもっともな意見……」 「現役の、みょうじなまえがいるかと思った。いつもの弱っちいなまえじゃなかった」 最近聞く優しい声色、泉くんは私を褒める時ちょっとだけ優しくなる。だから、泉くんなりに褒めてくれているのだろう。嬉しい、泉くんが褒めてくれた。私は嬉しくなり口元が緩む。それと同時に顔も熱くなっていくのがわかった。 「楽しかった。すごく」 小さく呟く。顔が熱いことが恥ずかしくなり、一度はあげた顔をゆっくり下にやる。泉くんは、私の言葉が聞こえなかったのか返事をしなかった。暗い教室が静かになる。それと同時に、先ほどまで考えていたことを思い出す。 「もしかしたら明日、私はいないかもしれない」 「なぁに、それ」 「例え話だよ」 ぽつりぽつりと口にする。もしかしたら、と言いつつも本当になりかねない話。私は、明日になるのが怖くて何度も考え、何度も大丈夫だライブに集中しようと言い聞かせていた。終わった今、抑え込んでいた不安がどっと出てくる。 「けれど、今日したことは私にとって道を正そうとした努力だから。泉くんには忘れないでほしい」 顔を上げて泉くんを見る。背で明るい月が私を照らしていた。 「なんて顔してんの」 変な顔、と呟くと泉くんは立ち上がり、私の顔に手を添える。暖かい。 「なまえは、プロデューサーであり立派なアイドルだよ。絶対忘れない」 私を見る泉くんは、少しだけ悲しそうだった。 ← → |