ミーティングは瀬名くんの「今日はこれで解散」という声で終了した。時計を見れば丁度良い時間で、メンバーは各々帰る準備をする。私の肩にもたれ掛かっていた凛月くんもゆっくりと身じろぎ、大きな欠伸をした。

「凛月くん、今日は練習する?」
「んー、ちょっとだけならいいよー……なまえまだ残るでしょ……?』
「うん、今帰ると人多いからね」
「じゃあ付き合ってあげる」

 口が弧を描き赤い瞳が私の顔を覗き込む。「ありがと」とだけ返すと少し満足そうであった。私は、いつも皆と帰る時間をずらしている。電車が混むからというのも理由であるが、一番は少しでも人に認知されたくないからだ。「消えたアイドル」と称された私は、以前普通に帰宅ラッシュ時に帰ろうとしたら周りにバレたことがあった。一人が気づくと次々と気付き、カメラを向けてきたり話しかけてきたりなどちょっとしたパニックとなった。囲まれるのは慣れていたつもりだったが、アイドルをしていた頃と見てくる目が違って怖いと思ってしまった。それからというもの、ちょっとだけ学校に残って、静かになった頃に帰っている。アイドルをやめて数ヶ月、流石にもう忘れられてるだろうと思ってはいてもそれに立ち向かう勇気はなかった。

「なぁに?くまくんとなまえ練習するの?」
「うん、最近よくしてるの」
「なまえすごいんだよ〜俺たちのパート全部歌えるし、ダンスはまあ普通だけど」
「元アイドルなんだからそれくらい出来て普通だと思うけどぉ?」

 瀬名くんは、腕を組みこっちを見ると少し目を細めた。何か言いたそうな顔をしていたので、声を掛けようと思った矢先、司くんの「お姉さまはIdolだったのですかっ?!」という声が飛んできた。目を輝かせて近づいてきた司くんに「まあ、ちょっと前まで。」なんて言ったら、後ろから嵐くんが「司ちゃん知らないの?なまえちゃんはね、」と私の説明をしだした。二人が私の話で盛り上がりだしたのを見届け、再び瀬名くんに視線を戻す。瀬名くんは私をまだ見ていたらしく、目が合うと少しびっくりしたように目を丸くした。「瀬名くん?」と声を掛けると、「俺はもう帰るから。」と目を逸らされ鞄を持ってさっさと教室から出て行ってしまった。

「瀬名くん、何か言いたそうだったんだけど。」
「ん〜?あー……気にしなくていいんじゃない?」

 凛月くんは相変わらず私の肩にもたれかかりながら、「セッちゃんにも色々あるんだよ」と興味もないように言った。へー、と答えながらそろそろ立ち上がろうと凛月くんをどかして立つ。凛月くんを立たそうと、腕を引っ張ると「もうちょっと……。」と頑なに椅子から立ち上がろうとしてくれなかった。

 嵐くんとの話を一通り終えた司くんは、「お姉さまっ、今度是非私にも個人レッスンしてください!」と目を輝かせて私に個人レッスンを申し込んできた。嬉しそうにする司くんの頭をぽんぽんと撫で「いいよ、私も司くんをもっと細かく見てみたいって思ってたんだ」と答えるとさらに嬉しそうにするので、まるで可愛い子犬のようだななんて思ってしまった。「それじゃあ、アタシたちは帰るわねェ」と嵐くんがひらひらと手を振って教室を出て行く。それに続いて司くんも「お先に失礼します。」と出て行った。

 みんなが帰っていくのを見届けた私は、凛月くんに視線を戻す。凛月くんは相変わらず立ち上がろうとはしなかったが、瞳の赤は楽しそうに輝かせていた。手を差し伸べてくるので、仕方なしにその手を取って引っ張る。さっきとは違い素直に立ち上がると、んーと伸びをして「今日は何する?」と聞いてきた。私も軽く準備運動をしながら「歌いたい」と言うと、凛月くんは教室にあったピアノに向かう。細くて長い指が奏でる曲は、Knightsの曲。吸い寄せられるようにその音に合わせて声を重ねる。そんな私を凛月くんが横目で見ながら声を合わせてくる。名目上はレッスンだが、実際やっていることは自分のしたい事をしているだけである。本当は一人でしていたが、凛月くんに見つかってから「レッスン」と称して一緒にしている。楽しそうに歌う私を見て「本当、未練がましいね」と笑ってくるものだから「うるさい」と悪態をついてやった。
  

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