▼ 3 「ねえ」 お昼前の授業が終わり、ご飯食べに食堂行こうかななんて思っていた矢先瀬名くんに話しかけられた。瀬名くんは、私の机の前に立って座ってる私を見下ろしながら「あんた、昼どこで食べるの?」と聞いてきた。「食堂だけど」と答えると、「そう」とすぐ近くの自分の机にかかっているカバンを取ってまた私の方を向いてきた。 「行くんでしょ、さっさと準備して」 「え、うん」 約束したつもりもないんだけどなあ、なんて思いつつ席を立つ。立ち上がった私を見ると瀬名くんは、さっさと歩き出した。私も慌てて瀬名くんの後を追う。足の長い瀬名くんは歩幅も広く、追いかけるのに少し小走りになる。一歩後ろあたりまで着いたところで一定の距離を保って歩く。瀬名くんは、横目で私がついて来ていることを確認すると少しだけ速度を落としてくれた。さりげない気遣いに驚きつつ、瀬名くんの中にも優しさというものがあるんだなんて本人に絶対言えないようなことを思ってしまう。普通だったら惚れてしまうような高ポイントな対応だけど、やっぱり私は瀬名くんを少し恐れているようだ。 食堂に着くと、「先場所取っておくから早くしなよねぇ」とさっさと席を探しに行ってしまった。私は、ピークとなった食券の自販機に並ぶ。途中、知り合いの子たちに話しかけられて話しながらその時間を潰した。やっとのこさ食事を受け取り、先に待っている瀬名くんを探す。あたりを見渡すと一番奥で頬をつきながら外を見る瀬名くんを見つけた。静かにしてるとなんでも絵になる人だな、なんて思いつつ「お待たせ」と瀬名くんの前の席に座る。「遅い」と案の定文句を言われたのでごめんとだけ返した。いただきます、と綺麗に合掌する瀬名くんを見て私も一緒に合掌をした。用意したお弁当を正しい箸づかいで口に運ぶ姿を見てると、「何?」と睨まれる。 「綺麗な食べ方だなあと思って」 「はぁ?意味わかんない。さっさと食べなよねぇ」 「そうする……」 思ったことを口に出したら目を開いて瀬名くんにしては少し変な顔をされた。すぐに目を逸らされてしまったものだから、私も言われた通りに目の前のオムライスに集中する。ちょっと前にお昼を一緒した友也くんに勧められたオムライスは、なんの変哲も無いオムライスだけどその素朴さが美味しくて最近ブームになっている。冷める前に食べてしまおうと無言で頬張っていると次は瀬名くんが私を見ていた。「オムライス食べる?」と口に運ぼうとしていたスプーンを向けたら、眉を顰められ「いらない」と拒否された。確かに口に運ぼうとしてるオムライスなんて食べたくないよね、ましてや友達でもない奴のオムライスなんて食べないか。ちょっとした自己嫌悪を感じながらオムライスを完食する。ごちそうさま、と合掌するとちょうど瀬名くんも食べ終えたみたいで私と同じく合掌をして何かサプリメントを飲んでいた。カロリーとか凄く気をつけていることを前に聞いたから、何だか感心してしまった。 「あのさ」 「ん?」 「昨日、くまくんと何してたの?」 一息ついて改めて私の方を見てくる。もしかして、今日お昼を一緒にしたのはこれが聞きたかったのかな。答える前に冷静になってしまい、思わず首を傾げる。「話聞いてたぁ?」なんて怒るものだから「ちゃんと聞いてたよ」と慌てて弁明する。 「何って、昨日言った通り練習だよ」 「くまくんの?それとも、なまえの?」 「えっ」 「だから、それは誰の為の練習だったの」 別にやましいことはないのに言葉が詰まる。Knightsの暫定リーダーとしてメンバーのこと聞いてくるのは当たり前だろうけども、私と凛月くんがしている練習はどちらかというと私のための練習だ。私が、アイドルとしての感覚を失いたくないための少しの抵抗。バレてしまった凛月くんにはもう隠すことはないのだけど、瀬名くんにまで言う必要はない。返事に困っているとアイスブルーの鋭い瞳が私を射抜くように睨んでいた。 「……凛月くんのためのだよ」 「ふーん、そんな言葉に詰まるほど言えないことしてるんだ」 「ちがっ!」 「違うなら何?いつも思うけど、言いたくないことあると顔に出てるよ。わっかりやすい」 「っ……」 はっ、と笑う瀬名くん。あからさまな挑発なのに私の顔は熱くなる。思わず自分の顔を押さえキッと瀬名くんを睨む。「ヘタクソ〜あんたに役者の仕事がこなかったのが分かるねえ」なんてさらに皮肉を言ってくるものだから、思わず立ち上がった。もういい、この人と話したくない。さっさとこの場を去ろうと思い、瀬名くんを視界に入れないようにして片付けると腕をぐっと掴まれた。 「やめっ、」 「あんたが誰と何してようがどうでもいいけど」 「……」 「いつまでアイドルのつもり?」 透き通るような瞳がまた私を見据える。ほんとう、瀬名くんは苦手だなあ。 ← → |