瀬名くんを置いてさっさと教室に戻り、机に顔を伏せた。なーにが「いつまでアイドルのつもり?」だ。知ってるし。今はもうアイドルじゃないし、プロデューサーなんだって言われなくとも分かってる。分かってるからこそ他人から言われたくなかった。なんだか涙が出てきそう。もう帰りたい。でも、今日はプロデュースがある。帰れない。

 結局、午後の授業も真面目に受けた。斜め前ちょっと先にいる瀬名くんは、休み時間でさえも私のことなんて一切見ることなく授業が全て終わるとさっさと教室を出て行った。深い意味はなかったのかもしれない。けれど、私にとってはナイフで4、5回刺されたくらいの痛みだった。私は別にアイドルをやめたくてやめたわけじゃないし。

「あっ!なまえちゃん先輩いたー!!」
「スバルくん」

 教室の入り口からぶんぶんと手を振るのは、今日プロデュースする予定のTrickstarのスバルくん。「迎えにきたよ!」と嬉しそうに言うので、「今行く!」と私の元気を絞り出してスバルくんに手を振る。急いで荷物をまとめスバルくんのもとに行くと、隠れて気づかなかったけど真くんも一緒にいた。どうやら、瀬名くんに会うことを恐れて隠れていたみたい。「今日はもういないよ」と言うと「よかったあ」と安堵の表情を見せた。

「それより早く練習しようよ!なまえちゃん先輩に見てもらえるの楽しみにしてたんだ!」
「ありがとう。あんずちゃんから色々聞いてるから、今日は徹底的にやるよ」
「わ〜僕、ついていけるかな……」

 レッスンルームまでの道のり、2人の楽しそうな会話にうんうんと相槌を打っていた。彼らは、学院に改革を起こした革命児たちだ。最近は色んなドリフェスに参加したり、SSに向けて様々な特訓を行っている。基本あんずちゃんがプロデュースをしているのだけど、あんずちゃんの指導が出来ない専門的なところは私が手伝っている。止まることを知らず常に成長している姿は、とっても眩しい。眩しすぎてちょっと目に優しくないところもあるけども。レッスンルームに着くと、既に北斗くんと真緒くんが準備運動していた。「お疲れ様っす!」と真緒くんに、「お疲れ様です。なまえ先輩」と北斗くんに言われて、「お疲れ様」と軽く返事をする。2人に今日することを確認して、Trickstarのレッスンは始まった。


「今日のなまえさんなんか元気ないですね」
「えっ、うそ。そんな顔してる?」
「あっ、いや、僕の思い違いかもしれないです……!」
「俺も思ってた!今日元気なくないっすか?」
「真緒くんまで」

 そんなに分かりやすい顔してる?なんておどけながら言うと、「いつも表情豊かな分……尚更」と真くんが眉尻を下げながら言ってきた。後輩にまで心配されるなんて心苦しい。というか、恥ずかしい。「今日は教科書忘れたり先生に怒られたり散々な日だったんだよね」なんて嘘を吐いてへらっと笑うと「俺なんてそんなのいつもだよ!気にしちゃ負けだよっ!」とスバルくんが抱きついてきた。後輩ではあるけども身長は私より明らかに高いスバルくんは私を愛玩動物のように撫でてきた。

「そうだよね、引きずるのも良くないよねえ」
「うんうん!なまえちゃん先輩はもっと笑って〜!」

 へらへら笑った顔の頬を引っ張られる。スバルくんは、私をペットか何かと思ってるのかもしれない。北斗くんが「おいやめろ」と焦りながら止めに入ってくるが「あはは、なまえちゃん先輩のほっぺ凄く伸びる!」なんてキラキラの笑顔で遊んでるものだから私も止められずされるがままになっていた。

 みんなが帰るのを見送って、私は部屋の戸締りをして時計を確認した。まだ帰るにはちょっと早いかなあ、なんて思いながら廊下を歩いていると少し先に先ほど見送ったはずの真くんがいた。真くんは私を見つけるとちょっと照れたように笑う。「どうしたの?」と聞くと、視線を外して恥ずかしそうにして言葉を詰まらせた。

「なまえさんが元気ない原因って、泉さん?」
「……んー、まあ」
「お昼、見てたんです」

 躊躇いながら話す真くんをじっと見る。真くんは私の視線に気づくと、「ご、ごめんなさい!出しゃばったこと言って……」と謝られた。「謝らなくていいよ」と言いながら頭を撫でると、少し顔を赤くしながらゆっくりと言葉を続けた。

「話は流石に聞いてはなかったんですけれど、泉さんに対して怒ってたのは見ました」
「うん」
「僕が言うのも変かなあって思うんですけど」
「泉さん、自分の発言には責任持つ人です。どんだけ言い方が酷くても、何か意味があるんだと思います」
「そして……なまえさんのこと、凄く気にかけてるんだと思います」

 最近あまり僕のところに来ないんですよ、と真くんは笑った。
  

ALICE+