「げっ」
「人の顔見て一言目がそれとかサイテー」

 最近服を買ってないことに気づいた私は、休みを使って近くのショッピングモールに出かけていた。休日であることから目立たないようマスクをしてちょっとした変装を心がける。周りは自分の買い物に気を取られてあまり気づかないだろうけど、念のため。好きなファッションブランドのショップに入り、新作を吟味して試着したりして数着手に入れた。かわいいスカートと、暖かくなってきた今にぴったりの薄手のトップス。あとは、欲しかったパンプスも買っちゃったりして私の気分は最高潮。お財布は少し寂しくなったけど、心はあったかくなったので文句なしだ。一通り買い物も終え、コーヒーショップの新作でも飲みに行こうかなと目に入ったコーヒショップに足を踏み入れようとした時、同時に入ろうとした男性と目があった。そして、冒頭に至る。

「瀬名くんも買い物?」
「近くで撮影があった帰り」
「へ、へー……」

 瀬名くんとは、数日前のあの一件から一言も言葉を交わすことも目を合わすこともなかった。私が避けていたのもあるけど、瀬名くんも私と関わろうとしてこなかった。注文までの間、横に平然と立つ彼を横目で見る。今日の瀬名くんは、スキニーにシャツ、ロングカーディガンとオシャレさんの格好だ。さすがモデル。「お待ちのお客様ー」という店員さんの声に瀬名くんが行ったと思ったらこっちを振り向いて「さっさと来なよ」と私を呼んだ。まさか一緒に注文するとは思ってなくて、びっくりしながら瀬名くんのもとに行く。こういうの最近多いなあ。

「私これのトールで」
「ショートのホットコーヒー、ディカフェで」
「コーヒー飲むの」
「あんたこそ、そんな高カロリー飲むの」

 この人は私の言動に文句を言わないと気が済まないのか。会計のお金を出そうと財布からお金を出そうとしたら、瀬名くんが紙幣を出してまとめて済ませてしまった。慌てて財布から自分のドリンク分のお金を出して瀬名くんに渡そうとすると、「今度倍返しにでもして返して」と言いさっさとドリンクを受け取りに行ってしまった。「高いドリンクになっちゃったじゃん」と文句を言いながら私もドリンクを受け取り、瀬名くんの見つけた端っこのソファ席に座る。あれ、なんで一緒にコーヒー飲む感じになっちゃってるんだろう。当たり前かのように一緒なテーブルについたけど、私瀬名くんに怒ってるはずなんだよな。

「買い物?」
「えっ、あ、ああ!うん、そうだよ」
「ふーん……ちょっと見せて」
「いいけど」

 見せてと言われて頷くと、瀬名くんは私の横に座って紙袋から服を出した。ファッションセンスがないとでも言われてしまうのだろうかと緊張しながら瀬名くんを凝視していると、服と私を見てちょっとだけ笑った。

「あんたにしてはいいセンスじゃない?」
「ほんとう?瀬名くんの好み?」
「はあ?!そういうわけじゃないけど」

 顔を赤くして瀬名くんは否定した。最近しかめっ面しか見ていなかったから、ちょっと意外な顔をされて私は思わず笑ってしまった。「ちょっと、何笑ってるの」と恥ずかしさを隠すように私の頬を引っ張ってくる。やめてと手を叩くとすぐ離してくれた。服を丁寧にたたんで、紙袋に戻してくれた瀬名くんはまた私の前の席に座る。会話を探そうと「今日は何の撮影だったの?」と聞くと、ぶっきらぼうに「雑誌」と返事をくれた。そのまま携帯に目を移して瀬名くんは携帯を触りだす。私も私で携帯を開いて、溜まっていたメッセージを返していく。その中の一つに真くんからのメッセージがあるのに気付き、開いた。メッセージには、「昨日、調子乗ったこと言ってごめんなさい!」なんて謝罪の内容だった。そんな謝らなくてもいいのに。確かに、私は昨日真くんの言葉に大した返事が出来なかった。瀬名くんは、私のことなんて気にかけてる素振りもないし、むしろ嫌いなんだろうなって思ってる。第三者からは別の視点で物事が見れると聞くけれど、真くんの言葉は見当違いでしか思えなかった。しかし、今偶然出会ったとはいえ、コーヒーブレイクを一緒に過ごしてるのは瀬名くんだからちょっと分からない。

「なまえ」
「は、はい!」
「何無視してくれちゃってるわけ?何回も呼んでるんだけど」
「ごめん…メッセージ返すのに気を取られてた」
「あっそ……あのさぁ、昨日のこと、謝るつもりはないから」

 携帯のディスプレイを落として、瀬名くんは私を見据える。まるで威嚇するような目で見られ私は少し体が強張った。

「本当のことを言ったつもりだし、今のなまえに謝ったって腑に落ちないっていうか」
「今の私って、そんなにひどい?」
「そりゃそうでしょ、プロデュースはそこそこ出来てもどこかで自分の方がもっと出来るなんて敵対心抱いてくる。本当はアイドルに未練タラタラなんでしょ?」
「それはっ!」
「それは、何?」

 −−言葉に詰まる。瀬名くんの言う通り私はアイドルには未練タラタラ。プロデュース科なんて行きたくなかったし、アイドルを育てる立場なんてなりたくなかった。そう言ったら目の前にいる瀬名くんは手に持ってるコーヒーを私にかけ、どこかで見た少女漫画のヒロインのように「ふざけるな」と言ってきそうで。いや、本当のことだけど。私が本気でプロデュースを出来ていないことなんて。

 私は、昨日のように強気にはなれず瀬名くんから目線を泳がす。

「なんでも、ない」
  

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