家に帰って勢いよくベッドにダイブする。このまま寝てしまいたいけれど、メイクも落としてないしお風呂にも入りたい。ベッドでもぞもぞ動きながら枕を見つけ抱きかかえる。瀬名くんは、あのあとそう、と呆れたような返事をしてその話をやめた。コーヒーショップを一緒に出て、じゃあまた、と言われまたね、と返した。コーヒーをかけられはしなかったものの、これで瀬名くんは私に幻滅したのではないのだろうか。もしかしたら、Knightsのプロデュースはもうさせてくれないかもしれない。いやいや、公私はわきまえるタイプだからそれはないかな……。どちらにせよ、瀬名くんにとって私の印象は地に落ちたと言っても過言ではない。とって付けたような笑顔でなんでもないよ、という私がフラッシュバックする。あんなこと言われたら私も、瀬名くんの立場だったら呆れてる。確実に何かある素振りで何でもないよは、かまってちゃんでしかない。無意識に、口から深い溜息が出てしまう。私は何がしたいんだろう。

「聞いて欲しかったのかな」

 静かな部屋に独り言が溢れる。たとえ苦手な瀬名くんでも、誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。私はそのまま睡魔に負けて目を閉じた。


 **最悪だ。何が「なんでもないよ」なんだろうか。苛立ちとともに、自分の歩くスピードは早くなっていった。転科してきてからそうだ。なまえは、上辺だけでしか自分のことを話そうとしない。俺が知っていることは、世間で話題にされていた話だけ。どうしてそんなに未練がましい態度を取るのか、何を話したくないのか。全然分からない。別に知ったって何もないけれど、あのままKnightsのプロデュースをされては、いずれ支障が出る。ただ、それだけ。

「ていうか、あいつの引退理由って何だっけ」

 そういえば、何で引退したんだろうか。おもむろに携帯を出し、検索をする。「みょうじなまえ 引退理由」、そう検索すれば多くのニュース記事や考察などが出てきた。その一つを開く。そこには、「もっといろんなことがしたい」「普通のみょうじなまえに戻りたい」など、当時なまえが発言したコメントが並べられていた。しかし、そのコメントはどれも曖昧。そのため、アイドルが嫌になったのではないのかと言った辛辣なコメントもされていた。そして目を疑ったのは、補足のように書かれた一言。

「高校、中退……?」

 まさか、と思って別のニュース記事も見るがその記事にも書かれている高校中退の文字。何を言っているんだ、なまえは今も夢ノ咲のプロデュース科に……。それと同時に思い出したなまえが転科した時の担任の言葉、「みょうじさんは元アイドルであるため、彼女のことについてはアイドル科内以外で情報を漏らしたりしないように」。最初何を言っているんだ、ここにはアイドルとして既にデビューしている奴もいるから当たり前だろうと思っていた。けれど、それがなまえを隠すためだったとしたら意味は変わる。曖昧な引退理由、高校中退の記事、そして、なまえ本人のあの態度。
 ふと、コーヒーショップで自分が動揺した際に一瞬だけ見たなまえの笑顔がよぎる。そういえばあいつ、転科してからずっと貼り付いたような笑顔でしか笑ってない。チョーウザい。この時ばかりは、自分の世話焼きな性格を恨んだ。
  

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