【前書き】
DCがドラマ作品である世界の演者パロ。
来年の映画について触れるところがあります(タイトルネタバレなど)。
公式発表後に掲載しておりますが、知りたくない方はバック願います。
【劇場版第22作 『名探偵コナン ゼロの執行人』】来年春公開!!
「おっふわぁー、もうタイトル告知の季節ですか。1年ってホントはやー」
撮影の休憩中、お弁当を食べながらスマホのニュースアプリを開く。
カテゴリ別速報のトップに上がってきた記事を見て思わず何とも言えない声が出た。
「一昨年も凄かったけど来年はもっと凄そう」
何せ今回ある意味メインとしてあの人が据えらているのだ。
50は超えるとして…下手したら100とか行きそうで怖い。
「あの人のことだから前回よりも更に磨きかけてくるんだろうな…うぅ、役の作り込みに関しては鬼スパルタだからなぁ」
正直、まだまだペーペーな私はお小言を頂く未来しか視えない。
精進しているつもりでもいつも必ず一度は指導(と言うなの雷)を頂いてしまう。
その様子を思い出すと、口の中にある唐揚げがなんとも苦く感じた。
ふと、コツンと後頭部に何かが当たる感触がして何かと思い振り返る。
そこにいたのはなんと、つい今し方思い浮かべていた人物がレモンティーの缶を持って立っているではないか。
「っえ?!」
「お疲れ様です」
ニッコリと音が付きそうな笑顔でそこに立っていたのは話題の渦中の人物ーー人気ドラマ『名探偵コナン』に出演し、来年の映画のメインとも言える役を演じる人物ーー安室透さん。
その容姿もさることながら文武両道、社交性も高く何でもマルチに熟すその超人振りからメディアに出演した直後より老若男女問わず高い人気を誇っている日本屈指の俳優である彼。
長寿番組であるコナンには『安室透』『バーボン』『降谷零』とトリプルフェイスと1人3役いう誰よりも複雑な役を演じている。
因みに私は人気そこそこの女優。このドラマには彼の演じる役のひとつ『公安の降谷零』の部下の1人として出演している。……風見さんより端役だけど。
業界の先輩であり、ドラマ内では役柄上ではあるが上司の彼は尊敬する私の憧れの人でもあったりする。
「お、お疲れ様ですっ!…と、言いますか、今日って安室さんも撮影入りの日だったんですかっ?」
「いえ?僕は隣のスタジオで写真集の撮影があったので、今日は偶々です」
「しゃ、写真集…っ!?」
「アイドルでもないのに需要あるのか?って…正直、この歳で写真集とか恥ずかしいんですが」
「…いっいえ!いえいえいえっ!?何言ってるんですか!全然恥ずかしくないですよっ?!寧ろ私、絶対買います!……って、」
「……」
や っ て し ま っ た !
つい、目先の欲に目が眩んで我を忘れて素の状態(いちファン気質)で迫ってしまった…一応プロ(同業者)なのに。
でもだって安室さんの写真集だよ?!そんな垂涎もの発売する前から予約重版決定でしょっ!間違いなくみんな最低でも3冊は必須で買うよ!
私はそんなことを考えながら役と同じく仕事に厳しい彼になんと言われるか…っ!と内心ビクビクしつつ彼の出方を待った。
「ーーふっ」
「え?」
「ふ、ははっ!いえ、なんと言うか…ありがとう」
「ーーっ!」
「色んな人達から太鼓判を押されてたけど改めて、今の君の反応を見て安心したよ」
「?は、はあ?…私でお役に立てたのなら光栄、です?」
「ふふっ、やっぱり君は面白い」
「っ?」
ーーでは、そろそろ僕は次の撮影があるのでこれで……と言って、彼は来た時と同じく素敵な笑顔で爽快にスタジオから去って行った。
さり気無くだけれどスタッフにも挨拶と差し入れしてた。しかも私への差し入れ、私の好きなレモンティーなんですけど……イケメンの鑑かな?
「…いつもの事ながら、あんまり上手く喋れなかったなぁ」
いつも役越しでないあの人と喋る時はどうしても、未だに緊張してしまう。憧れが先行して言葉が吃るし、つっかえる。
役越しなら全然大丈夫なのに、自分のことながら不思議だ。
「私もまだまだ経験不足の若輩者ってことよねー…」
幼い頃から演じることに憧れて入った芸能の世界。常に前進し続けなければ生き残れない
弱肉強食の厳しい世界だ。
そんな殺伐とした中で、オーディションを受けまくってやっと掴んだ一筋の糸。
人気長寿ドラマへの出演。
役柄は名前すら無い役で、他の人から見れば端役も端役かも知れない。けれど、私からすれば大事な役のひとつ。
ーー妥協なんかしない、全力で喰らいつく。
半ば殺気立ちながら臨んだ初のスタジオ撮り。そこで私は初めてあの人に会って、その演技に気圧され、打ちのめされた。
ーーなんという…演技をする人だろう。
圧倒的なポテンシャルにそれを活かすテクニックと実力。全てにおいて、予想を遥か上。まるで役が彼に乗り移っているかのよう。
間近で見たその血の通った演技は私が今まで見た誰よりも1番、衝撃を受けたものだった。
触れられてもいないのに思い切り頬を張られたような感覚がした。あまりの格差に、同じく場に立つことすら烏滸がましいと思った。
ーーでも…それでも、
ここで膝を折るだなんてこと、やっと掴んだ糸を自ら手放すなんてことは…私には出来ないし、何より私は諦めたくない。
そう思い、それから恥を偲んで何振り構わず意地で与えられた役に喰らい付いた。
ーーいつか、あの人と同じところまで行くために。
ボンヤリとかつての出来事を思い返していたらいつの間にか食べ掛けのお弁当が冷めてしまった。なんだかそのまま食べるのも味気なく感じ、手の中のまだ温かいーー先程安室さんから頂いたーーレモンティーを飲むことにした。
「……あれ?と言うかそもそも私がレモンティー好きだって、言ったことあったっけ?」
そう不思議に思って手にあるそれに視線をやる。今時珍しい、細身の缶のそれはご丁寧に(多分口紅が落ちないようにだろう)ストローまで付いていた。
何となしにパッケージの後ろを見ようとクルリと缶を回転させると、そこに書かれていたものを見て私はピタリと固まった。
【“ ”】
「ーーっ!………ずるいなぁ、ホント」
曲面で書きづらい筈なのに油性マジックで流暢に書かれた彼の綺麗な文字。
それを見て、目頭がぶわりと熱を持って泣きそうだ。
ーー甘やかしてくれない癖に、こんなところだけ優しいだなんて。
「ハァ………よしっ!」
とりあえず、お弁当を食べて今日の仕事に集中しよう。
彼からのメッセージとふわりと香った甘酸っぱい檸檬の香りに、トンッと背中を押された気がした。
2017/11/30
2018/5/3改稿