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水の中だからやっぱり陸にいる時みたいに普通に歩くのは難しくて、ゆっくりと足を進めながら夜の海の景色を楽しむ。ゴーグルも何も隔てずに海の底を歩けるなんてそうそうできない経験だし、魔法で溢れているこの世界の海は見たことのない生き物で溢れていて。結果俺は大興奮、あちこちに目移りしながらこの魚は何、あの海藻は、あそこの大きな貝は何?と散歩を始めてジェイド先輩を質問攻めに遭わせてしまった。それに先輩はひとつひとつ丁寧に教えてくれたけれど、あまりにたくさん質問するものだからはじめての海の世界を目にした稚魚みたいですね、と笑われてしまった。が、言い得て妙だ。まさに俺はそんな状態である。
最初の大興奮も少しは収まったところで自分の手に水かきが生えていることに気づいた俺は、泳ぐのを試してみたくて地面を蹴った。バタ足をしたり、平泳ぎをしてみたり、ドルフィンキックをしてみたり。ジェイド先輩にアドバイスしてもらいながら色々試してみたけれど、やっぱり水かきが生えているだけでは泳ぎやすさはそんなに変わらない。服も着たまま来てしまったから体が重いし。かといって脱ぎ捨てていくわけにもいかないので、結局はジェイド先輩に手を引いてもらい一緒に泳ぐことになった。…正直、これが一番楽しいアトラクションだったかもしれない。
「連れて行きたいところがあるんです」。しばらくそうして遊んで、不意にジェイド先輩が俺にそう告げた。それに連れて行ってくださいと手を繋ぎ、先輩が長い尾びれをくねらせ高速遊泳(これが中々にスリルがあった)を始めて数分。目的の場所は珊瑚礁のはずれ、海の色が段々と濃くなっていき、岩場が目立つエリアにあった。

「わ、中々大きい洞窟ですね」
「僕の隠れ家です。人間の姿が窮屈だと感じたときに来るんですよ」

フロイドもここは知らないんです、と先輩は続けた。子供の頃から同じ時間をずっと一緒に過ごしてきたのだから一心同体みたいな存在なのだろうけど、こんな場所があるのだからきっと一人になりたい時間もあるんだろうな。フロイド先輩もジェイド先輩の知らないところがあるということだ。そんなことを思いながら、先輩の後に続いて洞窟の中へと入っていく。

「へえ……」

ジェイド先輩の秘密の場所をぐるりと見回してみる。先輩自体が人間の時よりも大分大きい(というか長い)からか、奥行きがあって結構広い。
洞穴の中はぼんやりとした光に包まれていて、その光の元は色々だ。棚に置かれている珊瑚や鉱石、大きな貝殻を鉢植えにした海藻だったり、壁に生える苔だったり。その光はどれも淡く儚げで、でも温かい。洞窟の壁面、荒く削り取られたのだろうか、棚らしいところには見たことのない貝殻や珊瑚の破片がきれいに陳列されている。
月並みな言葉しか思いつかないが、温かくて心地の良い場所だと思った。テラリウムが趣味な先輩らしい、まるでこの空間がひとつの箱庭のようで、手が込んで、大切に作り上げられた空間だというのがよく分かる。だからこそ思うのは、こんな場所を俺に教えてもいいのだろうかということだった。

「いいんですか?フロイド先輩にも秘密なのに、こんな大切な場所を俺に教えても」
「ええ。教えても貴方一人ではこの場所には来れないでしょう?」
「……」

俺が戸惑いがちに聞いたのに対して先輩は即答だ。まあ、それはそうなんだが。ここに先輩の断りなしに来るとしたら、あの魔法薬を調合するところから始めなければならない。例え調合に成功しても、くらい海の底を誰かの案内なしにこの場所に辿り着くのは無理だ。絶対に迷って死ぬ。

「……なんて、それもありますが」
「え?」
「貴方と一緒に過ごしたかったんです、この場所で」
「………そう、ですか」

凪のように穏やかな表情で、先輩は俺を見つめる。
ああ、こっちが先輩の本音だ。真っ直ぐ見つめられたまま改めてそう言われると、なんか照れる。じわじわと顔が熱くなっていくのを感じて、ああきっと顔赤いんだろうなと思っていたら、案の定ジェイド先輩に指摘されることになった。

「おや、顔が赤いですね」
「ちょっと、分かって言ってるでしょ!もーやめてください!」

腕で熱くなった顔を隠すけれど、この状況、元の姿に戻ったジェイド先輩はまさに水を得た魚な訳で、水中で不慣れな俺は圧倒的に不利だ。俺に勝ち目はない。つまりジェイド先輩の思い通り、されるがままだ。
ジェイド先輩はふふふなんて楽しそうに笑って俺に尾を伸ばす。その長い尾が俺に絡みついたかと思えば強い力で引き寄せられ、あっという間に俺は先輩の腕の中だ。更に言うならまるで逃さないとでも言うように、先輩の尾びれは俺の体に巻きついたまま。この間約数秒である、なんという早技、そしてウツボの人魚ならではの技だ。
逃げられないし、この尾びれに力が入ればたちまち絞め殺されてしまいそうなのに。このみっちりとした密着感がどこか心地良いとも思ってしまうのは、俺も相当この人にやられているのだろう。

「……」

俺が抵抗しないのを感じ取ったのか(元より抵抗するつもりはないが)、ジェイド先輩は薄く笑みを浮かべたままその手を伸ばし、何も言わずに俺に触れる。胸、首筋、魔法でできたエラをなぞって頬へ。輪郭を確かめるように優しく撫でられる感触を享受する。
これも魔法薬のおかげなのだろうか、冷たい水に適応して俺の体温が低くなってきているのか、先輩のひんやりとした肌が触れ合って気持ちがいい。触れ合ったところからぼんやりと微かな熱が生まれるのも、どこか満ち足りて、温かな気持ちになっていく。

「……なんか、こうして人魚姿の先輩をまじまじと見るのは初めてかも」
「おや、そうですか?」

しばらくジェイド先輩が好きなように俺に触れる時間が続いて、俺はそんな先輩をじ、と見つめていて。それからなんとなく、ふと思ったことを口にする。俺の言葉に首を傾げたジェイド先輩にそうですね、と頷いた。
俺が今までに先輩の人魚姿を見たのは三回だ。期末試験の騒動で珊瑚の海で先輩たちと対決をした時、ウィンターホリデーの騒動でジャミル先輩にドッカーンされた後、カリム先輩が作った川を上った時、そしてその騒動がひと段落してオアシスで水浴びをした時。けれど、その時は物珍しげに不躾な視線を送るのは失礼だと思って自然な振る舞いをしようと心掛けていた。だからこうして近距離でじっくりと観察するのは初めてだ。
人の肌色ではない青白い肌。人のものではない耳。その小さい口の中に隠されているのは、やはり人のものではない、人間の時よりも更に鋭いギザ歯。黄色のオッドアイが薄暗い洞穴の中でも爛々と輝いて、俺を捉えて離さない。

「…こわいですか?」

俺が先輩を見る視線に何を感じ取ったのだろうか、そう聞いてきたジェイド先輩の表情は揺れることはない。口元には僅かな笑みを称えて、俺のことを静かに見つめている。
先輩が何を考えているのか分からなくなるのは、こういう時だ。まあ、俺が先輩の考えを読めるのなんて明らかに悪いことを考えている時とエッチでとろとろになった時くらいだけだが。
先輩は俺にどう答えて欲しいのか、先輩が俺に求めるものは何だろう。……そんなの分からない。こういうことを考えるのは苦手だ、頭がこんがらがって、胸がもやもやとするから。

「こわい……どうでしょうね、まだ見慣れないかもしれないです。俺がいた世界では、人魚は空想上の生き物だったので」

だから俺は正直に答えるしかない。嘘を吐いたってどうせ先輩にはバレてしまうから。
気を悪くしたならすみません、そう続ける俺に先輩は気にする風でもない。そういえば言っていましたね、と口元に手をやって思い出したように呟いた。指先にかけて暗い灰色に染まっている先輩の指。その先の黒い爪は鋭く尖っている。

「人魚が空想上の生き物だったのなら、僕たちを見た時にさぞかし驚いたのではないですか?」
「それはもう。ある意味感動すらしました、いるんだ!と思って。でも、魔法がある世界だし、人魚がいてもおかしくないかとも思って。…まさかその人魚とこんなことになるとは思いませんでしたけど」
「ええ、僕も思っていませんでしたよ、異世界から来た陸の人間と、まさかこんなことになるなんて」

その口調はどこか面白がっているような口ぶりだが、先輩の表情は柔らかい。

「…珊瑚の海で初めて先輩の元の姿を見た時、正直、怖いと思ったのかもしれないです。自分とはあまりにも違うから。でもその時はいっぱいいいっぱいだったから、どうなのか…あんまり覚えてなくて。」
「今はどうなんです?」
「今は、……、今は、怖いとは思わないです」

俺にくれる温かな視線も、優しく慈しむように触れるその手つきも、すべてジェイド先輩のものだ。これは彼が元の姿に戻っても変わらない。
怖いとは思わない。寧ろ今は──、

「……触ってもいいですか?」

気が付けば自然とそう聞いていた。確かめたいと、そう思ったからだ。
俺の言葉に先輩ははい、勿論と快く了承してくれる。それから眉を下げておかしな人ですね、と笑った。

「いつもこうして触れ合っているのに、今更聞くんですか?」
「だって人間の時と勝手が違うから、変なとこ触っちゃったら申し訳ないし…」
「ふふ、どこを触ってくれても構いませんよ?」
「ますます触りにくくなるじゃないですか…」

と言いつつも、やっぱり触りたさには勝てず、失礼しますとおずおずと手を伸ばして自分の体に巻きつく胴体をそっと撫でてみる。人間で言う足──、尾に近いところは鱗がしっかりついているが、腰や腹、所謂胴体に近いところは柔らかく、人間の時の肌の感覚に似ている。…ちょっと、ぬめっとした感触はするが。鱗についた発光体がぼんやりとした光を灯していてきれいだ。ここよりももっと暗い海の底で光っている様はきっときれいで幻想的なのだろう。
尾びれをそっと撫で、腰のあたりに入った青い模様を縁取りつつ、下へと遣っていた視線を上へと持っていく。人間の時と変わらずしっかりとした体づきだけれど、その肌はやはり青白い。脇腹の辺りにはいくつか細い裂け目が入っていて、それが僅かに動いているのが見えた。

「エラですか?」
「ええ」

エラがゆっくりと開閉する度に緩やかな水の流れを感じる。手を近づけてみて、そこから水を吐き出しているのだと分かった。呼吸している。当たり前のことなのに、それにちょっと感動した。

「…おそろいですね、あと耳も、水かきもおそろい」

先輩の手を取って自分のものと並べる。先輩ほど立派なものではないが、魔法薬のおかげで第二関節くらいまで半透明の水掻きが生えてきている。
この姿の先輩と共通点を見つけて何だか嬉しい。こればかりは魔法薬に感謝だ。頬が緩んだ状態でジェイド先輩を見遣れば、先輩はぱちくりと目を瞬かせた後、なぜか顔を手で覆った。

「何を言い出すかと思えば、貴方は本当に…」
「な、何ですか」

なんだ、バカにされるのか。ていうかバカにされてるよな。この感じからして多分ため息を吐かれているのだろうが、音がしないから分からない。

「……はあ。いえ、なんでも」
「あ、今明らかにため息──、」

吐いたでしょう、そう言いかけたが言葉が呑み込まれる。先輩が顔を近づけてきたと思ったら、ひんやりとした唇が俺のそれに触れた。

「、ん」

そのまま角度を変えて唇をくっつけ合う。水の中でキスって、変な感じだ。唇同士が触れ合った時の音がしない。でも新鮮だ。戯れのようなキスを繰り返し、段々とそれが深くなっていく。人間の時よりも歯が鋭い。気をつけないとな、とは思いつつもやめる気はさらさらなかった。歯列をなぞればん、ん、先輩からくぐもった声が漏れ、舌と共に水も絡め合う。次第に交換し合う水の温度が温くなっていって、お互いが触れているところから熱くなっていって。体の中に残っていたのだろうか、こぽ、小さい空気の泡が天井へと昇っていく。

「ぁ、ん、──、」

舌を絡め合う口付けのときも、いつもの扇情的な水音はしない。先輩の小さい声が熱を帯びていく音だけ。
海の底は静かだ。だからか、先輩の反応がいつもよりもしっかりと感じ取れる。だからというわけではないけれど、ひとつ、気づいたことがある。

「ん、ッ」
「………なんか、先輩、いつもより敏感じゃないですか?」
「ぁ、うっ気のせ、です、っン」
「そうですかね…」
「ッ!」

否定の言葉に釈然としないまま胸に手を這わせる。すると先輩の体がびくりと震えた。ここは先輩の一番の気持ちいいポイントだけど、いつも触れる時よりも反応が大きい。声は出なかったけれど先輩の鋭い歯が唇に食い込んでいる。口を引き結んで辛うじて声を我慢したのだろう。

「ぁ、っう、ぅ、ン……ッ!」
「…先輩、やっぱりいつもよりも感じてる。…もしかして、変なキノコでも食べました?」
「っひ、ぁっ食べてな、っぁう、っこんな、知らな、んぅう…っ!」

何しろ先輩には前科があるので一応聞いてみたが、キノコのせいではないらしかった。というか先輩も自分の体のことが予想外らしい、その表情からは若干の戸惑いも感じる。ここで止める選択肢もあるが、こんな状態の先輩を前にしてはどうしても止まることはできなかった。据え膳食わぬはなんとやらだ。

「……続き、してもいいですか?」
「…っ」

行為を続けたい。けれど先輩が嫌だと言うならやめる。多分、俺の本音は顔から滲み出ていることだろう。そんな俺の顔を見て、きゅ、と先輩が口を引き結ぶ。空気があったらたぶん息を呑む音が聞こえるのだろうけれど、この音も今は聞こえない。惜しいなあなんて考えていると、はいと先輩が返事をする代わりにそっと唇が重なった。

「ン、っぁ、ん」

肉厚な舌と絡め合う。気持ちがいい。もっとと強請るように先輩の腕が首に巻きついてくるのが好きだ。キスの合間に指の腹で頸を撫でられるのが好きだ。こうして密着して、ゆっくりとお互いの熱を高め合っていくのが好きだ。後は、そう、

「っあ、!ナマエさ、っひ、ぁン、ッんぅ……!!」

キスの最中、性感帯に触れた時の先輩の反応が好きだ。びくりと体を震わせて、薄く開いた唇からぁう、とゆるゆるになった声が漏れる。その反応がエロくてかわいくて、ああもう一度と何度でも見たくなってしまう。だから悪いとは思いつつ不意打ちみたいなことを毎回してしまうのだが、やっぱり堪らないのでやめられない。…けれど。

「んっ、ふぅ……ッ!ん、っん”、っン、〜〜ッ……!」
「(──ああ、まただ)」

付き合い始めて不思議だなあと思うことがいくつかある。その内の一つは先輩の喘ぎ声だ。付き合い出してからなんというか、こう、お淑やか?慎ましい?声が控えめになってしまった。
付き合う前、行為中に口を噛み締める先輩を見て、尖った歯で唇が傷付かないほうがいいだろうと気を遣って「声を我慢しないでほしい」と言っていたことがある。そうお願いした後は比較的我慢をせずに声を出してくれていた。が、それが付き合いだしてからまた我慢し始めた。
声を我慢しないでほしい。唇を傷つけてほしくないから。でも理由はそれだけじゃない。

「ジェイド先輩、声、聞きたいです」

何よりも、俺が先輩の声を聞きたい。俺が触れて、先輩が感じ入った声を聞きたい。

「ぁ、……」

とろん。まさにこんなオノマトペがぴったりだろう。眉を下げた先輩が困ったように、それでいて期待の篭った瞳で俺を見つめる。
鋭い歯が食い込んで、痕が残る唇を指でそっとなぞる。お願いします、先輩のオッドアイを見つめて触れるだけのキスを落とせばほぼ完璧だ。こうお願いして、先輩が聞いてくれなかったことはない。

「っぁ、あぅ、ぁ、っひ、ぅ♡」

ほら。その証拠に、先輩の半開きの口から控えめな喘ぎ声が漏れ出した。

「…かわいい」
「っ!う、あっン、む、っんゥ♡」

ついでに俺の心の声も漏れてしまったが、別に聞かれて困ることでもないのでよしとしよう。先輩もかわいいと言われるのは嫌いじゃないと知っているし。なんて考えながらキスを続け、先輩の胸へ手を這わせる。今までの行為ですっかり興奮したのだろう、先輩の乳首はつんと硬く主張している。肌の色が変わってそこはいつものピンク色じゃないが、それでも充分エッチだ。

「ぁあっぁ♡あぅ、んぁ、っナマエさ、」
「ずっと期待してました?ここ触られるの」
「っん、ぁ、はい……っもっと、♡」

とろりと快感に溶けた瞳が俺を見つめる。もっとだなんて、そんなことを言われたらもっとたくさんしてあげたくなってしまう。先輩のおねだりに頬の筋肉はゆるゆるで、だらしない顔で俺はもちろんと頷いた。
もともと素質はあったのだと思う。けれど先輩がここまで胸で感じられるようになったのは俺が手塩をかけて育てたからと言っていい。まあ、その頃の俺は開発したくて胸ばかりを弄っていたわけではなく、どちらかというと自分の(ケツの)保身のため先手必勝という意味合いが強かったのだが。結果最高なので万々歳だ。
胸全体を揉み込むように触れてから乳輪のふちを勿体ぶるように指の腹でなぞる。それだけでも感じ入った声を漏らしていたが、胸の頂きをくにくにと捏ね回せば、腰をひくりと震わせながら甘い嬌声が上がる。

「ぁ、っんあぁ!あ、っぁあっ♡」
「かわいい、」
「っあぅ♡あ、っあンぅうっ♡ぁうっナマエさ、♡気持ち、い、ですっ♡」
「ん、良かったです」

だめだ、エッチすぎてちんこが痛くなってきた。以前、この先人魚の姿でやることがあったとして、果たして俺は興奮するのだろうかとちょろっと不安に思ったことはあるのだが、全然興奮する。寧ろ興奮しかしない。何より普段の三割り増しくらいで感じているのでは?と思うほど感度が良いし、そのお陰で既にとろとろだ。この様子だと普段感じないところももしかしたら感じるかもしれない。キスをして片手は胸を弄りつつ、もう片方は先輩の上半身全体を確かめるように撫でていく。腹筋の筋やへそや脇腹。そしてエラの部分をそっと指でなぞっていくと、

「ぁあっ♡んひ、っ♡あ、っぁあ!だめ、でっ♡そこだめ、ぇ、〜〜〜…ッ!♡♡」

胸を弄っていた時よりも大きな反応が返ってきた。敏感なところなのだろう、俺も触れられていた時にこそばゆい感覚があったが、こんなにびくびく体を震わせるほどなのか。

「エラ弱いんですね」
「や、っあぅう♡ぁ、っぁあ♡そこは、っ人魚なら、誰でも、っん、ン♡」

人魚なら誰でも弱いのか。イメージ的に獣人属の耳や尻尾と同じような感じなのだろうか。普段脇腹は触ってもそんなに反応を示さないので、人魚の時限定での性感帯なのだろう。…いいな、ソレ。

「ぁ、あ♡ぁう、っン、ん♡」

唇が恋しくなったのか、キスを強請られ強請られるまま口付けを繰り返す。先輩も先輩で大概キスが大好きだなあと思いつつ、そろそろ俺の太腿あたりに当たる硬く熱いものが気になってきた。これだけ密着していたらいやでも分かる。先輩の下腹部(と見られるところ)に熱が集まっている。ていうか押し付けられてるしなんならゆらゆら腰が揺れている。つまりこれは、アレだ。ちんこだ。
人間で言うなら性器がくっついているところには何もない。が、キスの合間を縫ってちらちらと観察してみると下腹部にスリットが入っているのが分かった。そのすぐ下に膨らみが。これが当たってるのか、多分これが先輩の息子なのだろうと思いつつ手を下に伸ばしていく。

「ぁ、っ!ナマエ、さ♡っン、んぅ♡」

そこに触れた瞬間、ジェイド先輩の体が大きく震えた。

「や、っまってくださ、そこ撫でちゃ、ぁあっ♡っあ、っあぅ、ぁ、だめ、やっ出ちゃ、……っ!」
「でちゃう?」

出ちゃう。何が?もしかしなくてもナニが?この流れからしてそういうことだよな?先輩は半泣きでやめてと言っているけれど、好奇心の方が勝った。ごめん先輩、許して欲しい。
で、先輩の制止を聞かぬままそこを撫で続けた結果。

「ぁっ…ぅう、」
「……すげえ」

そして思わず漏れた感嘆詞。いやだっておそらくナニであろう盛り上がりを撫でてたらスリットから本物のでかいナニがにゅるにゅる出てきたらそれは驚くだろう。驚きを超えてある意味感動した。体躯に合ったその大きさは普段の時よりもかなりでかい。人間サイズの時も凶器だなとは思っていたが、これはガチの凶器だ。これで殴ったら人殺せそう。ぅう〜…なんて可愛らしい唸り声が耳に入ってくる中、俺はスリットから出てきた巨大な御本尊をガン見していた。

「わーすごい、普段は隠れてるんですね…人魚の体にこんなものが…神秘だ……」
「まじまじと見つめなくていいです…!は、恥ずかしいので…」

あんまり見ないでくれますか、と俺に言う先輩の声はか細い。これはガチのやつだ。聞いてあげたいが、さっき俺は好奇心に負けてしまったのだ。もう勝てない。結局俺がガン見を止めようとしないので、ついにはブツを手で隠されてしまった。まあ、でかいので隠しきれてないのだが。

「そんな隠さなくてもいいじゃないですか、普段どれだけ先輩のちんこ見てると思ってるんです?」
「っそれとこれとは話が違います」
「ええ、違います?…分かりましたって、じゃあこれでおあいこですよ」

真っ赤な顔で睨まれたので、それじゃあとばかりに俺もズボンを寛げて自身を取り出す。水中でも俺の息子は元気だ。いいことである。

「………」
「…なにまじまじと見てるんですか。興奮したんですよ、ジェイド先輩があまりにもエッチだから」

で、そんな俺の息子を先輩もガン見である。人のこと言えないぞ。何も言わずに目線を下へと遣る先輩にもぞもぞと動きたい恥ずかしさはあったが、密着してるからろくに動けないしもはや開き直りだ。ていうか先輩も嫌なら俺に巻き付く尾びれを緩めればいいのに、そうはしないあたり先輩も先輩である。

「…こうして見ると大きさが違いすぎますね、先輩のデカすぎ」
「ぁ、ぅッん、っンぅ…っ!」

で、お互いの性器を出したらやることは一つだ。
大きさの違う性器を重ね合わせ、ぐりぐりと刺激し合う。やめて欲しいのか、それとももっとして欲しいのか、先輩の手が俺の腕に添えられるけどその手には力が入っていない。よし、これは後者と見たぞ。腰を高さを調節して先っぽと裏筋をこすり合わせると嬌声が上がり、俺に巻きつく尾に力が入った。

「ぁっあぁっ♡ぁうっうンん♡ぁ、きもち、ぃ♡ナマエさ、ぁっン♡」
「っ俺も、ん、ぅ…っ」

人魚になってもちんこの感じるところは変わらないらしい。先っぽもそうだが裏筋をこすり合わせると特に感じるらしかった。俺の名前を熱に浮かされた声で呼んだジェイド先輩がキスで唇を塞ぐ。上唇を食まれ、誘うように唇を薄く開けられては誘いに乗るしかない。軽いキスと深いキスを織り交ぜて、でも上下に動かす手は止めない。ああやっぱり、ジェイド先輩のキスの合間に漏れる声が本当にかわいくて好きだ。

「ん、っんぅ♡ン、っんむ、んぁ、ぁ♡」
「は、っん…やば…」

先輩のが太すぎて俺のと一緒に扱くのがかなりギリギリなのだが、いつもとはかなりシチュエーションが違うのも相まってこれがかなり気持ちいい。見た目的にもかなりエロい。だって人魚のちんこと兜合わせだなんて、なんだそれ。我慢汁出てるのが分かったらもっとエロいんだろうな。先っぽに触れる限りでは出てるみたいだけど、しっかりとは確認できない。残念だな、見たいなあなんて思いつつシコシコ扱いていたのだが。

「あぁっぁ、ひぅ♡んぅうっ♡っだめ、いく、っいっちゃ、ぁ♡ああっ!」
「えっもう?!」
「ぁ、ん、ッ〜〜〜〜……!!」

嘘だろ早くね?!と驚いたのも束の間、先輩の声にならない声と共に腰が思い切り跳ね、白い液体が俺と先輩の間に勢い良く広がっていく。

「っは、ぁ………」
「………」

ひく、ひく、とイったばかりの先輩の腰が慄く。イった。いくら敏感だと言っても、これはいつもより大分ハイペースだぞ?しかも水の中だからなんとも言えないところはあるが、それでもこの量は人間の時よりも大分多い、し、なんか濃い。

「……随分、量が多いんですね…?」

大丈夫ですかとか身を案じる言葉が先だとは思うのだが、ついつい気になったことが口に出てしまった。射精の余韻に目を閉じていたジェイド先輩だったが、俺の言葉に薄らと瞼を開ける。

「……水中だと子種がすぐに広がってしまうでしょう。だから人魚の交尾は素早く一気に済ませる必要があるんです」
「ああ〜……」

なるほどね…これで俺はまたひとつ人魚の生態を学んだわけだ。ちょっとした保健体育の授業みたいだ…実技付きの。と、そこまで考えてはたと気付く。

「……素早く一気に、ってことは……つまり超早漏ってことですか?」
「……」
「…もしかして、感じやすかったのもそのせい?」
「……その言い方には納得いきませんが、…多分、そういうことです」
「多分て」

自分の体なのにどうして多分なんて。俺の突っ込みに先輩はふい、と目線を逸らしながらぽつりと言葉を口にした。

「自慰はしたことがありましたが、この姿で誰かと性行為をしたことが、……ないので」
「…………」

雷に撃たれたかのような衝撃だった。先輩の段々と小さくなって、ついには消え入りそうになった声が、耳にエコーのように残り続ける。
ああ、だから戸惑っていたのか。誰かとしたことがないのなら戸惑うのも頷けると、心の隅で納得した。でも、それ以上に俺の頭を占めていたのはそんなことではない。
人魚姿のまま、誰かと性行為をしたことがない。それってつまり、俺が初めてだということだ。陸に上がってからではなく、先輩の人生の中で、本当に、正真正銘、俺が、

「つ、………つまり、…俺が初めてってことですか…………?」

もしそうなら、かなり、嬉しすぎるのだが。
声が上擦る。先輩の言葉通りならそういうことだ。考えなくても分かるはずなのに、先輩の口から聞きたくて馬鹿みたいな質問をしてしまう。

「……何もかも」

目を逸らし、斜め下を向いていた先輩がこちらを向いた。色の違う瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。その声は俺と同じように上擦って、少しだけ震えていた。

「キスも、エッチも、その先も、全部そうです」

色々な感情が混ざり合って、なんだか泣きそうな顔だった。でもその表情があまりにもきれいで、胸がどくりと強く脈打つ。

「こんなに誰かを好きになったのも、執着するのも、求めすぎて全てを自分だけのものにしたいと思うのも、全部貴方が初めてです。…いけませんか?」
「………そんなの、いけないわけないじゃないですか」

きっと俺は泣いている。目から確かに涙は出ている感覚はするけれど、頬に伝って流れてはこない。じわじわ次から次へと湧き出る涙も、海水に混ざって消えていく。きっと空気があったら俺の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
だって嬉しくて、目の前のひとが堪らなく愛おしくて、顔はゆるゆるに緩みまくっている。大好きなひとの初めてをもらえるのが、こんなに嬉しいことだなんて。

「俺だって大好きです、ジェイド先輩のこと、全部、」

くしゃくしゃの顔でそう言ったら、今度はジェイド先輩が顔をくしゃりとさせる番だった。途端強い力で抱き締められ、俺の肩に顔を埋める先輩に俺も背中に腕を回す。見つめ合って額を合わせ、お互いの鼻を擦り合わせ。どうしようもなく幸せで満ち足りて、自然と笑みがこぼれる。ふへへなんて変な笑い声が漏れてしまったが、俺に釣られるように先輩も笑って、どちらからともなく唇を重ね合わせた。

「ん、ぅ、…っん、」
「ん、……」

ああ、心地がいい。口付けを重ね、確かめるように先輩が俺の肌をなぞり、俺も先輩の肌をなぞる。こうして触れ合っていれば、またお互いの熱が高まっていくのも自然というもので。腹に当たっている出したばかりの先輩の自身も再び熱を持ち始めている。これはもう一回だなと思いつつ腰を押し付ければ、ぁ、と小さい声が漏れた。ああ、水の中でのキスは新鮮だけど、やっぱり耳にいつもの興奮材料が届かないのは惜しい。なんて幸福感でいっぱいの頭の中で考えていたら、先輩に何やら感づかれたらしい。唇が離されて、熱の灯った瞳が俺を見つめる。

「……何を、考えているんです……?」
「……静かだなって」

そっと触れるだけのキス。いつものリップ音はしない。

「あの、…今度この姿でする時は、空気のあるところでさせてくれますか?」

想像してニヤリと口元を緩める俺を見て先輩は俺が何を考えているか分かったのか、ジェイド先輩は思い切り眉を寄せた。

「……今ので色々とぶち壊しです」

お前本気で言ってんの?的なかなり冷めた視線を送られてしまった。我ながら良い雰囲気をぶち壊してしまった自覚はある。でも今日行為が始まってからうっすらずっと考えていたことなので、今のうちに言っておきたかったのである。

「だって思いませんか?空気のあるところでしたら色々…もっと興奮すると思うんですけど」
「……変態」

先輩だって好きなくせに。とは思ったけれど、顔を僅かに赤らめて悪態を吐く先輩がかわいかったので何も言わないであげた。