「おはよなまえ」
聞き慣れた声にこれほどまでに敏感になったことはない。思わずびくりと肩が跳ねた。ゆっくりと顔をユーリの方に向けるが、目を合わせられない。
「…お、おはよ…ユーリ……」
「なんだよその引きつった顔」
「ひ、引きつってねえよ!…今日はいつもより早いんだな」
「ん?ああ、ハンクスじいさんの手伝いすんだ。昨日頼まれてさ」
「……」
この場合なんて言えばいいのか。気をつけて?頑張れ?行ってらっしゃい?…………。
「(全部違う気がする…)…ふーん、」
「…ふーんてなんだよ」
「いや、特に意味はないけど………ってユーリ!」
足音がすると思ったらすぐ目の前にユーリがいた、すげえびっくりした。そしてなんとなく恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまう。俺何も悪いことしてないのに。
「(近いってば……!)ちょ、ユーリ…!」
「なに?」
にっこりと笑うユーリ。有無を言わせない笑顔である。言えってか!!
はあ、とため息をついて俺は口は開いた。
「……なんつーか、気をつけてっていうのも変だし、頑張ってっていうのもおかしいし、行ってらっしゃいっつーのも違うから………ふーん、て言っただけ」
なんでこんなこと言わされなきゃなんないんだ恥ずかしい……。そもそも、告白される前は普通にしてたやりとりのはずだ。「いってらー」とか、普通に言ってたはずなのに、なんで照れるんだよ俺…なんで「恋人みたい」なんて思っちゃったんだよ俺……意味分からん…。
「…行ってらっしゃいで」
「は?」
言えってこと?「行ってらっしゃい」って?ていうかユーリ、なんでちょっと顔赤いんだよ。
「……、い、行ってらっしゃい」
とりあえず言ってみた。ら、ユーリは嬉しそうに笑った。が、その笑みは段々と悪戯っぽい笑みに変わる。
「…行ってらっしゃいのキスは?」
「……………しねーよバカ!!!!」
勢いで殴ろうとした拳はひらりとユーリにかわされる。こいつ調子に乗りやがって!!!ちょっとかわいいとか思った俺が馬鹿だったちくしょう!!!
「はは、じゃーな」
そう言って俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でてったユーリに、少しずつ流されているような気が、しないでもない。