年上主
詳しくは
これを参照
※別サイトに飛びます
「はーーー風呂上がりの牛乳って最高だわ」
大きく息を吐いて、パンツ一丁首にバスタオルを掛けたまま腰に手を当てて一言。
なんという贅沢、なんという至福の時間だろう。
キャンプ大好きなグラディオには悪いが、久しぶりにキャンプではなくホテルに泊まれてアツアツのシャワーを浴び、ふかふかのベッドで寝れるのだからこんなに最高なことはない。
普段お財布に余裕のない時は一部屋しか取らないのだが、今日はラッキーなことに少し余裕もあり、かつ二部屋を格安で取ることができたので分かれて寝ることになったのだ。今日はあっちこっちへと移動した上にモブハントで魔獣退治を何件もこなした日だったので、中々に歳(といってもまだ20代だが)な俺にとってはホテルはとてもありがたかった。それに、流石に一部屋に男5人状態が続くとむさ苦しいし取れる疲れも取れないしな。結果、俺とグラディオが一部屋、ノクトとイグニス、そしてプロンプトが一部屋という風に分かれることになった。
「(にしてもグラディオのやつ遅いな)」
時計を見ればもうすぐ短針が真上に来そうな結構いい時間である。グラディオは酒を一杯引っ掛けてくる、なんて言ってレスタルムの繁華街で俺たちと別れてまだ帰ってこない。グラディオのことだし、きっと酒ついでに可愛い女の子も引っ掛けてるんだろうなーなんて思いながらぐびぐびと牛乳を飲み終え、ぷはあ!とまるで酒を飲んだ時のようにため息。明日はそんなに早くはないがこなす依頼が中々にヘビーなので、さーてそろそろ寝るかと洗面所に向かい、歯ブラシを口に突っ込んだところで部屋のドアが開く音が聞こえてきた。歯磨きを始める前にグラディオ?と名前を呼べばおうと返事が返ってくる。
「おはえりふはでぃお」
「何言ってんのか分かんねーよ」
洗面所から顔だけ出しておかえりって言ってやったのにさっさと歯を磨けと呆れ顔で返された。
しょうがないとグラディオの言うことを聞いて素直に歯磨きを済ませて洗面所から出る。酒を飲んで酔っているのだろうか、ソファに座ってぼんやりとしているグラディオの頭をぽんぽんと撫でた。意外とふわふわなんだよなこいつの髪。
「お疲れグラディオ」
今日も色々ありましたなあ、なんて言えばプロンプトのマネかよ、なんて笑みを含んだ言葉が返ってくる。
「早くシャワー浴びて来いよ。俺もう入ったし、明日も大変だからさっさと寝ようぜ」
「おう、そうするわ………、」
そこでばちり、そんな音がしそうなほどに振り返ったグラディオとぴったりと視線がかち合う。そしてなんなのか、言葉を途切れさせ、無言のまま俺を爪先から頭の先まで凝視である。
「……………何?」
パンツ一丁なので流石にそんなにじっと見られると恥ずかしいというか気まずいというか。何かを取り繕うようにバスタオルを弄って、体が変な風に身動いでしまう。
そしてお互い黙りこくったまま、奇妙な沈黙が続いてしばらく。
「…今日という今日こそは我慢しねえぞ」
「は?何か言ったか?」
ぼそりと何やら呟いたグラディオの言葉を聞き直す俺の問いには答えず、なまえ、と俺の名前を呼んでグラディオが立ち上がる。そしてつかつかと俺の前にやってきて、またじ、俺を見た。なんだ、何かされるのだろうか。身長ほぼ2mの男が身長約175cmの俺の前にいるって目の前に筋肉の壁が立ちはだかってるみたいで中々に怖いのだが。え、なに、もしかして俺怒られるの?いきなりのグラディオの行動に若干ビビりながら恐る恐る口を開く。
「ぐ、グラディオ?どうした?」
「ヤらせろ」
「……はいい?」
が、俺が想像したものとは全く違う言葉がグラディオの口から飛び出した。
なんて言ったこいつ。聞き間違いかと思ったが間違いじゃなかった。もう一度「ヤらせろ」と、きれいな形の口が動く。
ヤらせろとはつまり、そういうことだ。
…嘘だろ。
「…冗談だよな?」
ひくりと口を引きつらせながらの俺の言葉にグラディオは真顔でいいやと首を振る。グラディオとはそれなりに長い付き合いのつもりだが、まさかこんなことを言われるとは。これは現実か?
「や、ヤらせろって」
「戦闘の興奮が収まらなくてよ、ヤらせろとは言ったが別にケツに突っ込ませろとは言わねえさ。抜くのを手伝ってほしいだけだ」
「……………。」
たしかに、今日は中々に血がたぎる熱い戦闘を繰り広げたけれども。
いや、…いやいやいや。
「1人で抜け!!!!」
「1人より2人で抜いた方が気持ちいいだろうが」
「じゃあ俺じゃなくて女の子どっかで引っ掛けてこい!!ていうか引っ掛けてこなかったのかよ!グラディオなら朝飯前だろ!」
「いーやお前がいい、お前とヤりたい」
「はあ?!」
ああ言えばこう言うでラチがあかないしなんで俺とヤりたいんだ全く意味不明なんだが!?混乱した頭で必死に思考を巡らすがどうすればいいのか分からないしそもそもこの筋肉バカに「ヤりたい」と言われて真っ先に嫌悪感が浮かばない俺もどうかしてる!!!!大体が一体どうしてこんなとんちんかんなことを言い出したんだこいつは!……あ!そうか!
「…分かった、酔ってんだろお前、そうなんだろ!」
「まあまあほろ酔い気分だが生憎酒には強えから正気だぜ。それにこんなエロいカッコのお前を見れるんだから女を抱く必要もないしな。あえて引っ掛けてこなかったんだよ」
「エロ…っ?!」
思わず絶句した。
「…ッ意味の分からないこと言うな!!!」
「分かるだろ、そのまんまの意味だよ」
「野郎のパンツ一丁姿にエロいもクソもあるか!大体風呂上がりで暑いんだからしょうがないだろ!っちょ、おい!」
文句を言い終わるか終わらないかで強引にそのでかい手で腰を引き寄せられ、お互いの身体を密着させられる。俺はパンツ一丁姿だしグラディオはいつも半裸同然だ。だから素肌同士が触れ合って、その感覚に顔が熱くなるのが感じる。ていうか当たってるんだが。まあわざと当ててるんだろうが、ちょっと熱くなってんのが本当に解せない。俺の心臓の鼓動も速くなってきたのも解せない。さっきからグラディオの言葉に翻弄されまくりだ。くそ俺より年下のくせに……!!
「なまえ、イグニスにも散々注意されてたろ?『風邪引くから風呂上がりは服を着ろ』って」
「うっ」
「軍師様の言うことはちゃんと聞くもんだぜ」
返す言葉もない。こんなことならちゃんとイグニスの言うこと聞いとくんだった……!この状況を招いた本人に言われるのは癪だが本当にそうだ。確かにイグニスには何回も言われていたが、風邪じゃなくまさかこんな事態に陥ることになるとは思いもしない。
「っ明日もハードなのに抜いたら寝るのが遅くなるだろうが!」
「さっさと済ませちまえばいい。それに寝る前に運動した方がスッキリしてよく眠れるだろ?」
「ぐっ…!」
何が運動だふざけやがって。ドヤ顔で言うな。グラディオに対する悪態しか思いつかないし、腰に回されている腕が熱い。いや俺が熱いのか。起こっている現象に理解が追いつかずに頭が回らなくなってきた。頭を冷やさなきゃ、冷静になれ。その為にはグラディオから離れないと。だから離せと言いながらグラディオの胸を押し返すがさすが筋肉ダルマ野郎である、ビクともしない。むしろ状況は悪化してより強く腰を抱かれて余計密着させられただけだ。にやりとどこかしたり顔のグラディオがなまえ、と俺の名前を呼ぶ。マジでその顔むかつくな!!
「なに!」
「あんた、最近全然抜いてないだろ?俺が気持ち良くしてやる」
「は、……っ!」
なんでお前に気持ち良くしてもらわなくちゃなんないんだ!!!!
言い放ってやろうとしたがそれは叶わなかった。「天国見せてやるよ」。なんて、そんなことを耳元で低い、艶やかな声で囁かれたせいだ。身体がぴくりと震える。ちらりとグラディオを仰ぎ見れば、仄かに熱を持った、濃い蜂蜜色の瞳が俺を見つめていた。
「……(ああくそ)」
その力強い瞳から逃れるように視線を逸らす。目を逸らすのはまずいとは分かっていたが、目を合わせていたら間違いなく流されるのも分かっていた。
ここしばらく抜いていないのも事実で、溜まっていることも確かだ。でもだからといって同じ仲間で、付き合いの長いグラディオとそんな行為をするのは、おかしい。「嫌だ」と一言言えばいいのに、口がその言葉を吐き出そうとしないのもおかしい。
「…また、風呂入らなくちゃいけなくなるから、」
代わりにこの状況をなんとかしようと理由を探して言葉にしてみたつもりだった。が、いざ言葉にしてみれば、その声は自分でも思うほど頼りない、まるで形だけの抵抗のようで。それに心の中で舌打ちをする。
「その時はまた入りゃいい」
ああ言えばこう返ってくることは、半ば分かっていたはずだ。理性では分かっていても、心が言うことを聞かない。こんなの間違っている気もするし、戸惑いだってある。なのに男同士で抜いたらどんな気分なのかとか、そんなちょっとした好奇心と、溜まったものを吐き出したいという欲が頭を侵していく。
それに、グラディオなら嫌じゃないなんて一瞬でも思ってしまったのだ。そんなことを一瞬でも思ってしまった時点でもう終わりだ。
「なまえ」
「お前がいい」。俺が迷っているのが分かったのか、もう一度、駄目押しをするようにグラディオは確かにそう言った。
その言葉がぐるぐると頭を回る。
女の子じゃなくて、俺がいい。そう考えてしまった途端、誰に対するでもない優越感が心を満たしていった。
「………(どうかしてる)」
口の中はいつのまにか渇いている。グラディオに力強い視線を投げられて、沈黙の後、拒絶の言葉の代わりに吐き出したのは、それとは正反対の言葉だった。
「………分かった」
その代わり、さっさと済ますぞ。
俺の静かな了承の言葉に、グラディオは満足気に笑う。熱くなった素肌をその剣だこだらけの手で撫でられることを甘んじて受け入れながら、俺は漏れそうになるため息を堪えて、せめてもの自らへの反抗に目を閉じた。
端的に言えば、誘惑に負けたのだ。
20180706