「ギルガメッシュ王?…と、先輩?どうしたんですか?」
「マシュか。此奴をメディカルルームに連れて行くのだ」
「え、…先輩、どこかお体の調子が悪いんですか?私もお供させてください」
「フォウ、フォーウ!」
「………?!!?(展開についていけない)」

俺を起こしに来たらしいギルガメッシュ、そしてロビンフッドとキャスニキ。さっき廊下ですれ違った2人だ。いやいや待ておかしいだろ、これだけでも開いた口が塞がらずに2人をガン見してしまったのに、さらにマシュプラスフォウ君まで登場したんですけど!?マシュが俺のこと先輩って呼んでるんですけど?!何なの、俺何なの?!ぐだ男?!ぐだ男なの?!

「…うん、顔色が悪いし、心拍数も少し高いからちょっと心配だけど…。それ以外のバイタルサインも正常だし…少し安静にしていれば良くなると思うよ」

まさかの鯖ラッシュに頭を抱えそうになっていたらまさかのダ・ヴィンチちゃんとドクターも登場して本格的に頭を抱えたくなった。そして俺が混乱している中ドクターがメディカルチェックをしてくれた。なんだか泣きそうになったけどめちゃくちゃ我慢した。ちなみに顔色が悪いのと心拍数が高いのは今この状況のせいなんですけどね?!

「なまえ君、ちょっと待っててくれるかな?」
「ぇ、あ、はい」

メディカルチェックを終えた後、俺に薬を飲むように言ったドクターはそう告げて部屋から出て行った。診察室だろうか、そこには俺1人がぽつんと残される。診察結果を話しに、そして俺をここに連れて来たギルガメッシュに事情を聞きに別室に行ったのだろう。はあ、余命宣告を待つ患者ってきっとこんな気持ちなんだろうか。すごく不安だ。

「……消えない」

自分の右手の手の甲を見つめて、その赤い令呪をなぞる。ギルガメッシュに起こされた時も、腕を掴まれた時の感覚も、さっき夢かどうか確かめるために自分で頬を抓ってみた時の感覚も全てリアルだった。ああ、これはVRとかそういうんじゃなく最早現実なのかもしれない…。まじか…。まじか…。推しに起こされたいっていうのは夢だったけど、ネタのつもりだったんだがなあ…。どこかで聖杯にでも願っちゃったのかなあ…と冗談半分にそう考えて、我ながらシャレにならない冗談だと、重いため息を吐いてしまった。そうして悶々とこうなってしまった何かをやらかしたのだろうかと昨日の俺の行動を朝から夜まで遡っていたら、

「ごめんね待たせて」

ドクターの声とともにドアが開いてぞろぞろと皆が入ってきた。うわあ緊張する!!なにこれ!!
耐えられず視線を下に向けていると、俺の向かいの椅子に座ったドクターがなまえ君、と神妙な面持ちで聞いてきた。

「確認したいことがあるんだけど、いいかな?」
「……はい」

それからドクターに色々なことを聞かれた。名前や生年月日とか基本情報から、今までの特異点のこととか、カルデアにいるサーヴァントのこととか、色々。質問攻めだ。
そして質問が終わった後、何かをダ・ヴィンチちゃんと確認してからドクターが徐に話を切り出した。

「ギルガメッシュ王から今朝のことを聞いて、ボクとレオナルドは大きく分けて2つの可能性を考えたんだ。1つは記憶障害か、もしくは、何者かがなまえ君に扮しているか、それか意識を乗っ取ったか。まあ、後者に関して元からその線は薄かったし、今その可能性はなくなったんだけど」
「メディカルチェックや質問の答え、受け答えの際の君の細かい仕草や癖も確認したけど、完全になまえ君のものと一致してたからね。ごめんね、疑って」
「いえ…」

それで、とドクターは話を続ける。それに俺は頷いた。

「今朝の君の行動の原因の、残るもう1つの可能性は記憶障害だ。が、今までの質問の受け答えから、君に欠落している記憶はないと考えた。だから記憶障害の線も消えた。」
「それじゃあ、先輩の奇行の原因は不明ってことですか?」
「奇行って…」

マシュの言葉がさりげなくさくりと胸に刺さった。俺はそんな変なことをしてただろうか…。と、俺のことを伝えただろうギルガメッシュの方を見てしまった。あ、鼻で笑われた。

「そうではない、マシュ。答えはなまえが知っている」

そうであろう、とギルガメッシュは俺を一瞥した。

「ボクもそう思う。なまえ君、君が今分かることだけで大丈夫だから、何があったのか、話してくれる?」
「………。」

それから話した。何をって、もちろん全てだ。俺の世界のことと、今日の朝突然起きたこと、全て。支離滅裂だったけど、ドクターやダ・ヴィンチちゃんが所々で話を理解してまとめてくれたから、俺の混乱していた脳内も整理されて、段々と落ち着いてきた。そしてすべて話し終わった時、ダ・ヴィンチちゃんは、

「面白い、実に興味深いじゃないか!」

と目を輝かせてそう言った。いや、まあそうだよな。ダ・ヴィンチちゃんだもんね予想はしてた。

「そうか…、起きたら君にとってはゲームの世界にいたってことになるんだもんね、それは驚くだろうなあ…しかも目の前にギルガメッシュ王だろ?」
「そうですね…それはもう驚きましたよ…心臓が止まるくらいに」
「ハ、あの時の貴様の阿呆顔は写真にでも収めておきたいくらい見事なものだったぞ」
「やめてくださいめちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか…」

ニヤニヤしながらギルガメッシュがそう言うもんだから恥ずかしくて顔を覆った。辛い。

「うーん、ボクも目が覚めて目の前にマギ☆マリがいたら悲鳴を上げるくらい驚くだろうなあ、なまえ君が挙動不審だった理由も分かる気がするよ。だって画面越しの存在だったものが目の前に、しかも触れられる距離にいたんだからね。それが大切に育ててきたサーヴァントであれば尚更だ」

ドクターはうんうんと頷く。うん、分かってくれたみたいで嬉しい。ギルガメッシュは我をどこぞのネットアイドルとやらと一緒にするなって顔をしてたが。

「まあロマニのマギ☆マリの話は置いといてだ。つまり、異世界の君の意識が何の因果かこの世界の君の身体に乗り移った、という感じかな。異世界の君とは言ったが、この世界の君とは別人ではなく、性格から考え方、仕草や癖まで何から何まで全く同じの同一人物だ。君の話からすると、異世界の君が本体で、この世界の君がアバターということか」
「めちゃくちゃ分かりやすいですダ・ヴィンチちゃん」
「そうだろうそうだろう、私は天才だからね。
…そして、本体の君はこの世界での今までのほとんどの出来事をアバターを通して経験をしている。ゲームの物語として、ね。けれどただ1つ君が経験していないこと、それはゲームでは語られていないこと。例えばカルデアでのサーヴァントとの細やかな日常だ。」

こんな感じかな?というダ・ヴィンチの言葉にそんな感じです、と返した。

「うーん、記憶障害というのは強ち間違いじゃないかもだね、君にはサーヴァントたちと過ごした記憶がないんだし」
「…はい。すみません」

ダ・ヴィンチちゃんの言葉に言葉が詰まる。願わくばこの世界の俺がサーヴァントたちと過ごした日常を俺も体験したかったが、こうなってしまった以上そんなのは無理な話で。こんな意味が分からないことになったせいで記憶がすっぽりない俺がきっと彼らを困惑させてしまうし、夢にまで見た彼らとの交流も、彼らと過ごした記憶がないのが申し訳なくて、…顔を合わせられない。

「先輩が謝ることじゃないです」

申し訳なさで眉間にシワを寄せて俯いてしまう。するとす、と肩に優しく手を置かれた。振り向くとマシュが柔らかく微笑んでいる。

「マシュ、」
「これから一緒に新しい思い出を作っていきましょう、先輩」
「フン、記憶が無くなったのならまた0から積み重ねていけば良いだけのこと。それはそれで一興だ。なぁ雑種」
「そうそう、マシュとギルガメッシュ王の言う通りだよなまえ君」

ここにいる2人のように、きっと他のサーヴァントの皆もそう思ってくれると思うよと、ドクターが笑顔でそう続ける。皆の優しい言葉にじわりと胸が熱くなった。

「…さっき私は意識が乗り移った…という言い方をしたが、全くの同一人物なのにそれは少し変だね。むしろ君が本体なのだし、戻った、の方が正しいのかな。」
「ぇ、」
「ようこそ、そしておかえりなまえ君」

そしてふ、と微笑んでそう言ってくれたダ・ヴィンチちゃんの言葉に追い討ちをかけられて涙腺が崩壊してついにぼろぼろと涙が出てきてしまった。目の前の視界がぐにゃりと揺らぐ。しゃくりあげそうになりながらお礼の言葉を伝えると、男の子なんだから泣かないの!と言われてしまった。

「う"っすいませ…俺涙もろくて」
「あはは知ってるよそんなことは!だからちょっと泣かせてみたかったのさ☆」
「ううう…ひどい…」
「全く人騒がせな…余り余計な心配をかけさせるでないわ」

ダ・ヴィンチちゃんなんて非道なんだ…。ごしごしと袖で涙を拭っているとマシュがこれ使ってくださいとハンカチを貸してくれた。その優しさにめちゃくちゃときめいていたら、不意にギルガメッシュがそんなことを言うので目を丸くしてしまった。まさか、

「あ、え、?」

心配、って、この人俺のこと心配してくれてたのか?!しかもなんかいつもよりも声のトーン優しくない?!

「なんだ雑種。貴様は我の小間使いであるのだから当然であろう。家臣の世話もできずして何が王か」

目を細めてそう俺に言ったギルガメッシュ。なんか言い方が如何にもアレだけど!小間使いって言われたけど!でも心配してくれてたという事実が、ギルガメッシュの言葉が嬉しすぎて、引っ込みかけていた涙がまたぶわっと出てきてしまった。

「あ、あああありがたき幸せです…」
「良いぞ、存分に喜ぶがいい」
「良かったですね先輩」
「う"ん…マシュありがと………」
「なまえ君、鼻水すごいことになってるからハンカチじゃなくてティッシュ使う?」
「やっぱり君たちってほんと仲良いよね」

ああ、何の因果か分からないけど、折角この世界に来れたんだ、目が覚めたら夢でしたみたいなオチじゃありませんように!






20170509