「ん……ッ」
くちゅ、と生々しい音が部屋に響く。
伊月を壁に追いつめて、(まあいわゆる壁ドン状態なのだが)それから伊月の形の良い唇に食いついた。
漏れる甘い声がすごいエロい。それだけでも十分な興奮材料なのに、伊月がもっと、とでも言うように俺の首に腕を回してきた。普段、伊月からそういうことを求められるような行動があまりないものだから余計にヤバい。テンションが一気に上昇した。
乱暴にならないようにあくまでも紳士的に、丁寧に口内の中を蹂躙していく。ん、ん、というくぐもった甘い声と共に聞こえる水音が室内に響く。そうしてキスを繰り返していてしばらくして、伊月は身体に力が入らなくなったのか、へなへなと床に座りこんでしまった。それに俺も合わせて座り込む。
座り込んだ伊月は軽くM字開脚状態だ。もうダメだ、エロすぎて正直股間痛い。
「っは…、…ぁ…」
紳士的とか自分で言いながら相当がっついていたらしい、伊月は荒く息を吐く。それに、目元が少し濡れている。
「ご、ごめん伊月、ちょっとがっつきすぎた…。大丈夫か?」
「ん…いい、よ」
俺もなまえとしたかったし、と伊月は潤んだ瞳で頬を上気させながら、へにゃりとした笑顔で言う。なんだこいつ。ほんとに今日はどうしたのだろう、いつになく積極的である。というか、なんでこんなエロい表情でこんなかわいい発言ができるんだ。
「(やっぱりこいつ最強だわ…)」
なんてしみじみと思っていたら。
「なまえ」
「え、」
名前を呼ばれて、次の瞬間、視界に広がる伊月の顔のどアップ。
「ん、…?!」
唇に柔らかい感触を感じたと思ったら、ちゅう、というリップ音が部屋に響く。
「…(なんということだ)」
…キスされた。それも、伊月から。
「…い、づき?」
「……なまえ」
伊月は戸惑う俺の唇からゆっくりと唇を離して、そしてお互いの鼻と鼻がくっつきそうなくらい近い距離で、劣情を含んだ瞳で熱っぽく俺を見つめる。いつの間にかまた首に伊月の腕が回っていて、そして、俺の耳元に伊月の唇が近づいてきて−−
「I'm totally in love with you.」
……………ん?
「やっと起きたな……おはよう、なまえ」
目の前には伊月…ではなく、氷室の顔のどアップ。
「………あれ、伊月は…?」
さっきまで目の前にいたのに、あれ?
「伊月くん?なに寝ぼけてるんだよなまえ」
ここにはいないでしょ、と氷室が言う。その言葉に、まだ寝起きでぼうっとする頭を働かせた。
ゆっくりと起き上がって、俺のベッドに腰掛ける氷室を見る。
そうだ、なんで氷室がいるんだと思ったら、この前氷室と寮の相部屋になったばっかりなんだった。すっかり頭から抜けてた。
…いわゆる恋人という関係の伊月とは、夏に会いに行ったっきり会ってない。中学が伊月と同じだった俺は両親の転勤の都合で秋田の陽泉高校、そして伊月は東京の誠凛高校に行った。遠距離は正直不安だったけれど、今はもう慣れた。メールもちょくちょくしているから寂しくはないし。ただ、電話はお互いに取れる時間がなかなかなくて、夏以来伊月の声を聞いていないのだが。
…要するにあれだ、
慢性的に伊月が足りないのだ。
「…………」
す、っと、頭が覚醒していく。
…そうか、夢だ。
夢を見てたんだ、俺は。
「……はああああ…(あんな夢見るなんて…俺伊月に対して欲求不満すぎるだろ……………)」
今まで見ていた夢を瞬間的に思い出してしまって、すごく恥ずかしくなった。顔がどんどん熱くなっていく。思わず両手で顔を覆った。
いくら慢性的な伊月不足だからといっても、アハンウフンな夢を見ちゃうくらいだから相当だ、軽く賢者タイムに入るレベルである。
「…伊月くんの夢見てたんだろ」
「…まあ」
だろうね、と氷室が笑いながら言う。
まさか俺も夢に見るとは思ってもなかったよ。
「もしかして淫夢?」
「いん、」
氷室の言葉に一瞬思考が止まる。
間違ってはない。あれは淫夢だった。おかげで俺のパンツはべとべとで気持ち悪い、最悪である。
「顔赤いし、図星みたいだな」
くそ、こいつ笑ってやがるちくしょう。無駄にイケメンだから様になってるのもムカつく!図星で悪かったな!
「うるせえ……つーかお前帰国子女のくせにどうしてそんな変な言葉知ってるんだよ……」
「本で読んだんだ」
「なんつー本読んでんだお前」
「ちゃんとした真面目な本だよ。それよりなまえ、このままだと学校遅刻するよ?」
にこり、と笑いながら言う氷室。
俺は時計を見た。
「……それを早く言えよ!」
(そういや氷室、お前俺が寝てるときになんか言ったか?英語で)
(………いや。
起きろとはずっと言ってたけど、英語では言ってないよ、なにも)
(…そっか)
きみはしらないままでいい