「ごめんなまえ、待っただろ?」
「ん、いや、そんな待ってねえよ」
申し訳なさそうに言う氷室にそう返しながら、俺は地面に置いていた鞄を肩にかけた。
最近、寮までの帰り道を氷室と一緒に帰るようになった。すぐそばにあるので長い時間一緒に居れるわけではないが、せっかくだし一緒に帰ることにしている。いつもは氷室が部活に出てる時は俺は自習していて、練習が終わる時間を見計らって体育館に行くのだが、今日は部活が早く終わるとかで俺は最初から部活見学していたのだ。体育館の入口で、氷室と待ち合わせである。
「部室の鍵返しに行かなきゃいけないから、寄り道することになるけど」
「おー、分かった。じゃ、行こう」
「室ちんー、鍵忘れてるー」
「………」
ものすごく間延びした声と共に体育館から出てきた奴と目が合う。すごくでかい。氷室だってでかいはずなのに、今出てきた奴のほうがもっとでかい。ばち、と視線が合った後、何故かそいつは俺のもとにのそのそと歩いてきて、そして、俺を見下ろした。
「(うわ、間近で見るとすげー迫力…つーかこいつ一年か…?)」
紫色の髪に、紫色の目。顔が整っている。あとお菓子みたいな甘い匂いがする。
背がでかくて、イケメンな一年っぽい奴と、見つめあって、数秒。
「…ああ、もしかして室ちんの彼氏?」
「え、」
「ちょ、アツシ?!」
「あ、やっぱそうなんだー」
室ちん顔真っ赤じゃん、とでかい奴、アツシというらしい、が笑いを含みながら言う。
確かに氷室を見れば顔が真っ赤だった。困ったように下がり眉で、りんごみたいだ。
にしてもアツシ、…どっかで聞いたことあんな
「アツシってもしかして、…むらさきばらあつし?」
「んー、そーだよ。俺のこと知ってんだー」
「ああ、女子が騒いでたからな、甘いもの大好きなかわいい一年がいるって」
そう言えば、紫原は
「甘いものは好きだけど、俺かわいくなんかねーし…。女って分かんねー」
なんて眉間に皺を寄せながら呟く。うん、女がよく分かんないことには俺も全面的に同意だ。こんなでかい奴のどこがかわいいんだ。
「…あ、そうだ、紫原、だっけ」
鞄に間食用のチョコレートが入っていたのを思い出す。残ってる量も中途半端だし、なんなら甘いもの大好きと言っている紫原にあげてしまおう。
「なにー?」
「これやるよ。間食用だったんだけど余ったから。少ししか残ってないけど」
はい、と差し出せば、紫原はぱああっと顔を輝かせて、
「これ新作のチョコレートじゃん!食べたかったんだーありがとなまえちんっ!」
「(なまえちん?!)うぐふっ?!」
抱きつかれた。
そして懐かれた
(んーなまえちんて良い匂いする…)
(っちょ、苦し…っ死ぬ…紫原っ…!)
(…………アツシ…)
(…あ.…。
……ごめんなまえちん、室ちん怒らせちゃった)
(…っげほ、…は?)