セックスを始めてどれくらい経ったのだろうか。快感でぐずぐずになった頭ではそれすらも分からない。この二人との絡み合いがもう何時間も続いている気がする。

「ぁ、っあ♡ぁ……♡蘭く、」
「んー? きもちいだろ?」

きもちくなんかない。そう言ってやりたかったが、悔しいことに実際気持ちいいから何も言えない。
あれから竜胆くんに続けて二発キメられてただでさえ腰が死んでるのに蘭くんの長いガン勃ちちんこを挿れられてマジでヤバい。このままじゃ本当に死ぬと危機を感じて最初は「やめろ」と言っていたのだが、どうせやめてくれるわけがないし体力の無駄だからすぐに抵抗することを諦めた。今はただ蘭くんの好きなように揺さぶられるがままだ。ああ明日の俺さよなら。一日中ベッドから動けないこと確定だ。もう限界なんてとっくに超えて、行きすぎた快感というのも問題だと身をもって実感している。救いがあるとすれば、蘭くんの動きが竜胆くんよりもゆっくりなことだろうか。

「は、っぅ♡ン♡んっ♡んぅ♡」

腰に手を添えられ、バックの体勢でとんとん、浅いところを軽く抜き差しされる。先に竜胆くんに激しくされたせいか、蘭くんの動きが物足りなく感じてしまう自分がいやになる。それでも本能のままはしたなくねだろうとは思わない程度には、まだ理性は失ってはいなかった。

「あー良い景色」
「エッロいカッコ」
「っう、るさぃ、っン♡ぅ♡」

ホントコイツら覚えてろよ。そんな殺意はすぐ甘い快楽に塗り潰されてしまう。体の力が抜けて上半身はへたり、蘭くんによって腰だけ上げさせられた状態は側からみればかなり恥ずかしい格好だと分かっているのに、腕に力が入らないからどうにもできない。動けない俺をいいことに竜胆くんは胸を弄ってくるし蘭くんは尻を揉みながら腰動かしてくるしで散々だ。それにしたって蘭くんのやつ、前立腺避けて突いてくんの絶対わざとだな。意地が悪い蘭くんは俺を焦らして、俺にどうしてほしいか言わせるのが好きなのだ。全く趣味が悪すぎる。

「ぁ……っ♡なに、」

もどかしくてじりじりとした感覚を体に募らせていたら、不意に脇から手を入れられ体を起こされる。うなじから耳に唇を這わされたかと思えば、蘭くんの細長い指が顎を掴んだ。後ろを向かされ一瞬目が合ったのも束の間、そのまま唇を塞がれる。

「んむ、っン、ぁっン♡」
「なまえ、舌出して?」
「ぁ………んぁ♡ぁ、は、♡ンむ、っぁ♡」

半開きの口から言われるがまま舌を出せば、じゅ、と強く吸われてぞくぞくと腰が震える。気付けばその先を求めるように衝動的に自分から舌を絡ませていた。蘭くんの手が俺の耳を覆うものだからぷちゅ、くちゅといやらしい音が脳内に響いてくらくらする。

「ぁ、ンっんぅ、ン♡ん♡む、ぁ…♡」
「は、……なまえ、」
「ん、っんゥ、ぁ、りんど、くん、♡ん♡んぅ♡」

蘭くんとのキスが終わったら休む間もなく竜胆くんに顎を掬われ口付けられる。下唇を柔く食まれ、そのままちゅう、とかわいらしい音を立てて触れるだけのキス。蘭くんと比べたら竜胆くんのキスはかなり優しい。腰使いは容赦ないが。

「かわい……」
「ン♡んぁ、ぁ♡」
「は、なまえはかわいいって言われンの好きだなァ?」
「ぁ、……っ♡」

「ナカ、きゅうって締まった」、なんて耳元で囁かれて甘い痺れが背骨を走る。ああ、竜胆くんと比べて蘭くんの方が救いがあるなんて思ったけど前言撤回だ。考える余裕が少し出てきてしまって羞恥で死ぬ上、気持ちいいところに当たるようで当たらないような、焦らされる感覚が辛すぎる。ゆっくり腰を動かされるのもたまったもんじゃない。

「蘭く、っそれ、やめろ、っぅ♡」
「ああ? そう言う割には腰揺れてンぞ?」
「ぁ、ちがっう、これは、っは、ぁ……っ♡あぅ♡」
「これは、なに?」

本日何回目の殺意だろうか。にやり、確信犯の笑みを浮かべる蘭くんを睨みつけるがその表情は変わらない。頭が回らず言葉が思いつかなくて、ついには情けない呻き声を上げて子供のような悪態を吐いてしまった。

「ぅ、っう〜〜………この、ッ馬鹿! マジで君趣味悪いぞ!」
「違うって、優しいんだよオレは。」
「あっ……?!」
「オレにどうしてほしーんだ? 言ってみろよ、その通りにしてやるから」
「っ………、」

そうしてどんなに文句を言ったって、結局いつも、蘭くんの言う通りになってしまう。そんな自分が本当に情けないし悔しい。

「も、物足りないから………もっと動けよ………」
「……」

半分泣きそうだったのをぐ、と喉に力を入れながら屈辱の言葉を口にした。だが、今にも消え入りそうな声なのが気に入らなかったのか蘭くんは無言で片眉を上げただけ。なんだそのもっとなんかあるだろみたいな顔は! マジでムカつくなこいつ!

「……ッだから」

もういい、どうにでもなれ。明日の羞恥より今日の快感だ。早く終わって自由になりたいんだ俺は!

「だから、蘭くんのちんこで、俺の奥、もっと突けってぇ……っ! んあ"ぁっ♡♡」
「今回は、これで、言うこと聞いてやるよ、おらッ♡」
「〜〜〜〜ッ……!!♡♡♡」

こうなったら半ばヤケだと吐き捨てた「おねだり」は及第点だったらしい。蘭くんは口角を上げばつんと俺の奥を突き上げた。瞬間ビリビリと強烈な快感が体を突き抜け、頭の中で閃光が弾ける。びくびくと腰が痙攣し、もう何度出したか分からない精液が先っぽから押し出された。ああ、またイってしまった。

「ぁ、は、………ッ♡ッあ"♡んッぉ"おっ♡♡」

でもこれで終わらなかった。イったせいで中をぎゅうぎゅう締め付けたからか蘭くんの動きが一瞬止まったけれど、数秒もしないうちにピストンが再開される。ばちゅ、どちゅ、なんて激しく突き動かされて目の前の竜胆くんに逃げるようにしがみつくが、蘭くんは勿論逃してくれるわけがない。

「ぁ"ッ♡や、っあぁ"っ♡だめ、っおれ、っいってぅ♡♡いってるから、っ♡ッこの、っ♡うごかすなぁっ!♡ぉ"っ♡あぁああっ♡」
「なんだよ、オレのちんこで奥突けって言ったのオマエだろ〜?」

マジでこいつふざけんな! 喘がされる中でなんとか文句を言ったが、これでやめてくれるほど彼は優しい人間ではない。寧ろ楽しそうに口元を歪めながら蘭くんは俺の弱いところを強く、的確に穿ってくる。竜胆くんはといえば、俺の体を支えつつも下に手を差し入れ、確かめるように下腹部へと手を伸ばしてきた。鈴口から漏れ出た精液を塗りたくるように全身を扱かれ、それにまた腰がおののく。

「あーマジでイってんのな、ガマン汁と精液でぬるぬるじゃん」
「い、やだっ♡や、りんど、くっ♡っぁ"、いうな、ぁあッ♡」
「っは、素直になれって、こんな誘うみたいにきゅうきゅう締め付けてくんだから、オレも応えてやんねえと、なぁッ!」
「あ"、ぉ"ッ…………♡♡♡」

ごり、そんな音が外に聞こえてしまうのではないか。そう感じてしまうくらいの衝撃に声すらも出ない。このままじゃマジで腹上死するかも、なんてセックスの度に思っているが今回は割とガチだ。今日は順番が逆だったから尚更そう感じるのかもしれない。

「ぁ、ッ、♡あー……♡」

何も言わずに動きを止めた蘭くんがちんこをずるりと抜いた。引き抜かれる時にさえ感じてしまって力の抜けた声が口からこぼれる。まだイってないから体位を変えるつもりなのだろう。案の定くったりと竜胆くんに預けていた体はいとも簡単に反転させられ、仰向けの体勢にさせられた。

「なに、オレに見惚れてんの?」
「ぁ、っん、〜〜…………♡」

久しぶりに蘭くんの顔をちゃんと見たかも、なんてぼんやり綺麗な顔を見つめていたら、そんなことを冗談混じりに言って蘭くんが再び俺の中に入ってくる。最初は確かに圧迫感があったはずなのに、今では腹を埋められるような不思議と満たされる感覚に熱の籠った息が出てしまう。

「あー………やっぱ正常位だわ」

また間髪入れずに動かれる、そう思って自然と身構えたけれど、何の気まぐれか蘭くんが動くことはなかった。突然何をと思ったが、「こいつのエロい顔見れるし、」そう続けて蘭くんが俺の頬を指でなぞる。それに竜胆くんは「オレバックだな」なんて言いながら汗で肌に張り付いた金髪をうざったそうにかき上げた。

「竜胆次どうすんの?」
「あー、上乗ってもらおうかな…兄ちゃんは?」
「んー……オレは座位だな」
「すんなら背面にしてよ、オレキスしたい」
「竜胆オマエホントちゅー好きだよなあ」

動かされないうちにと息を整える俺の傍らでそんな空恐ろしい会話をしつつ、獣のようにギラギラとした二対の瞳はどちらも俺を射抜いている。言わずもがな、俺の意思は毎回関係なしだ。

「座位とか、騎乗位とか、なんでもいいから……早く終わりたい……」
「え、マジ? なんでもいーの」
「……いや、なんでもは、よくない……」
「どっちだよ」

げんなり気味な俺の言葉に顔を輝かせた竜胆くんに嫌な予感がしたので前言を撤回した。一体どんな体位をするつもりなのだろうか。怖すぎる。

「オマエは何が好きなの?」
「え、何が…っあ、」
「だから体位。オレらの話聞いてたか〜?」
「聞いてたけど、そ、んなの…っ、ぅ、聞いたところでどーすんだよ…っ」
「いーだろ別に。教えろよ」
「っぁ、」

俺の腰を引き寄せた蘭くんが、しめった肌に手を這わせながら聞いてくる。より密着したせいで奥に刺さるペニスに息が詰まった。

「……わ、かんない、」

そんなの今まで聞いてきたことなかったくせに、今更何なんだ。そもそもが体位も何もかも、いつも二人の好きなようにさせられるのだから言ったところで意味がない。その上での「分からない」だったが、俺の答えに蘭くんは不満らしい、「分かんないわけねーだろ」と頬をつねられる。

「だって、そんなのいきなり言われても、」
「じゃあ質問変えてやるよ、どれが一番気持ちいい?」
「は……、」

どれが一番気持ちいいか。そう聞かれて今までの数々の行為が脳内で再生される。どうしても答えなければ駄目なのか。駄目だろうな……。

「……正常位」

悩んだ末に出した答えはあえて言うのであれば、というものだった。一番オーソドックスな体位だが、変な体位を答えて二人に揶揄われるのも嫌だし。それにあながち嘘というわけでもなかった。けれど、ぼそりと小さく出した俺の答えに兄弟は顔を見合わせる。なんでだよ。

「へえ、意外」
「竜胆じゃねーけどバックかと思ってたワ」
「兄ちゃんそれどういう意味。…まあバックだと正常位より中締まるもんな」
「うるさいな……」

あけすけな言葉に思わず耳を塞ぎたくなる。自分のケツの穴の締め付け具合なんて聞きたかない。

「ていうか、もう体位のことはいいだろ、蘭くん動かないでいいのかよ」
「あ、何動いてほしーの?」
「違う!」

話を終わらせたくて別の話題にしたのに墓穴を掘ってしまった感が半端ない。揶揄うような笑みを浮かべて俺を見つめる蘭くんを睨み付けるが、当の本人は気にする素振りも見せない。全く、このやり取りももう何回目だ。

「はいはい分かったって、動いてやるよ、っ」
「だからちが、っぁ"、っぁあ! い、っきなり、そこ、っつくな、ぁ"っ♡」

で、こんな風にいきなり奥を突かれるのも毎度のことだ。その激しさといったら、思わず助けを求めるようにそばにいた竜胆くんの手を握ってしまうくらいである。竜胆くんは竜胆くんで握り返してはくれたけれど、代わりとでもいうかのように腹につきそうなほどそそり立ったソレを唇に押し付けてくる。クソ、何興奮してんだこいつ!

「っなまえ、舐めて……?」
「ぇあ、っあ、んぶっ♡ん、っんぅ、ッむ♡ン♡ん"ん〜〜ッ♡♡」

言うが早いか半ば強引に口に突っ込まれる。合計三発出してるのにまだ元気なのか、と彼の有り余る性欲に最早脱帽だ。しかも竜胆くんのチンコはでかいし太い。手を添えてなんとか咥えようとはするが、とてもじゃないが全部は口に収まりきらない。

「ぁ、っん♡んぅ、ッふ、っん”ん♡ぁう、っむ、♡」

どくりと口内で脈打つペニスに舌を這わせながらも、鼻につくむわりとした雄臭さと息苦しさに生理的な涙が滲む。一方で抜き差しされる度に前立腺を押しつぶされて、その度にイったみたいな感覚に襲われる。上と下どちらの穴も兄弟に犯されている現状に気が狂いそうなのに、与えられる快楽で体が蕩けてしまいそうだった。

「んッふ、っ♡んあっ♡あっも、っむり、っむりぃっ♡かんべんして、っぁあっ♡」
「まだイけんだろ? ほうら」
「いけな、あ"っ♡♡いけなぃってぇ……ッ♡」

ぱん、何度も腰を打ち付け肌がぶつかる音が行為の激しさを物語る。あまりの壮絶さに口からペニスが離れてしまうが、蘭くんはそんなことお構いなしだ。

「お前のココはオレのこと離したくないって言ってンぞ〜?」
「う、っ…ぁう、♡そんなの言ってな、ぁ、♡う、ン♡っんぅ、ぁ、あ"っ♡♡」
「なー、兄ちゃんの番長すぎ。そろそろ交代してよ」
「なまえ次第だなァ、オレのこと離したくないって言うから」
「言ってねえだろそんなこと」

「やっぱ兄ちゃん遅漏じゃん」、と不貞腐れた口調で文句を垂れる竜胆くんにこの時ばかりは心の底から同意した。そうだ、「離したくない」なんて俺は断じて言っていない。ツッコミたかったがそんな気力は微塵もない。弟頼む、俺の代わりにもっと言ってくれ。

「はあ……っ、っせえな、オマエは喘いでるなまえより見てシコってろ、よっ!」
「ん"、〜〜〜〜ッ…………♡♡♡」

ばつんと勢いよく奥まで叩きつけられ、俺の中で限界まで膨れ上がっていた凶器が爆発する。その瞬間、俺の中でも何かが弾けた。

「……っは、ン………♡」
「ぉ"ッ♡♡っあ、ぁあ〜〜〜ッ………♡♡♡」

それはあまりにも突然だった。今までとは確実に違う、段違いの鋭く深い快感が全身を襲った。あまりの気持ちよさに足先が空を切って、びくびくと体全体が痙攣する。ドクドクと中のちんこが大きく脈打つ感覚も、薄い膜越しに注がれる熱い精液も、ぎゅうぎゅうと中が収縮して嫌というほど感じてしまう。

「っあー………すげえ締まる、」
「ぁ、………っ♡♡う、ぁ……♡なに、これ………♡♡」

精液を注ぎ込むようにぐいぐいと腰を押し付けながら、蘭くんが恍惚とした表情で呟く。その些細な動きにも内壁が擦られて感じてしまう。
おかしい、変だ。確かにイったはずなのに、これで終わりだという気がしない。なんだ、これ、

「……あー、もしかしてドライでイった?」
「マジ?」

俺の様子をまじまじと見ていた竜胆くんが、ぽつりとそんなことを言って俺のペニスに手を伸ばす。ドライ? なんだそれは。そんなのしらない。

「ガマン汁ダラダラだけど出てねえじゃん、ちんこビンビンだし」
「ぁう、っや、いま、さわんな……っ、♡」
「あーホントじゃん。できるモンなんだな」
「なに、しらない、俺、」

俺を無視して二人の会話が進んでいく。どういうことだ。この二人はなにを知っているんだ? 自分の体に未知のことが起こったからか、さっきまでの体の熱が嘘のように冷めていく。

「安心しろって、変なことじゃねえから。気持ち良すぎて出さずにイったんだよ」
「ぁ、え……?」

困惑する俺に蘭くんがそう説明してくれたが、それでも情報を上手く処理できない。射精せずにイった? そんなこと可能なのだろうか、でも実際自分の身に起きている。しかもそれは甘くて深い、底無し沼のような射精とは明らかに違う感覚で。どうしてそれが俺に起こる?

「後ろだけでイくのもうちょっとかかるかと思ってた」
「二人がかりだからかかる時間も半分だしこんなモンじゃねえ? まーあとはなまえに素質があったってことだろ」
「あーそれはあるな」
「ちょっと、待って、なんの話、」

一体なんの話をしているのか分からない。自分のことなのに、当事者である俺だけが置いてきぼりにされている。

「だから、オマエがめでたくケツの穴だけでイけるようになったってこと。しかも、女みたいに感じまくってさ」
「は……?」
「メスイキできてえらいな〜なまえ♡これからもっと気持ちよくなろうな♡」
「…………ッ」

変なことじゃないなんて嘘だ。どう考えても変じゃないか。メスイキなんて、そんなのしらない。後ろだけでイくなんてどうかしてる。なのに。

「ぁ、う…………っ、う、〜〜………っ!」

屈辱だった。「メス」だとか「女みたいに」だとか言われて嫌なはずなのに、先程の絶頂が飛んでしまうくらい気持ち良かったと感じている自分がいる。蘭くんと竜胆くんにいいようにされて怒りを感じているはずなのに、もっととその先を望んでいる自分がいる。
自分が分からない。矛盾した感情に振り回されて、涙腺が壊れてしまったかのようにぼろぼろ涙が溢れ出す。

「おい、」

まさか泣くとは思っていなかったのだろう。竜胆くんはギョッとして俺を見つめ、蘭くんは僅かに眉を寄せる。蘭くんが俺に手を伸ばしてきたが、その手を振り払って顔を覆った。まさか俺だってこうなるとは思っていなかった。年下相手にケツ掘られて前後不覚になって、更にはこんな年甲斐もなく泣きじゃくるなんて。蘭くんのちんこをケツに入れたままなんて馬鹿みたいだし、人間としても男としてもプライドズタズタだ。

「っ、ひ、ぅ、も、やだ、したくない……っ!」

こんなことを言ったら殴られるかもしれない。そう思ったけれど限界だった。案の定、蘭くんは硬い声で俺を問い詰める。

「したくない? オレらとのセックスが嫌なワケ?」
「……ッい、やだよ、っだってやめろって言ってもやめてくんないし、このまま君らとしてたら俺、おかしくなる……っ」

まるで幼い子供のように嗚咽を漏らして、思いのまま言葉をぶつける。二人の顔は怖くて見れなかった。重く長い沈黙がその場に流れていたが、やがて「なまえ」と蘭くんが俺の名前を呼ぶのが聞こえた。顔を覆っていた腕に触れられる手つきも俺を呼ぶ声も、恐ろしいほど優しかった。

「なまえ、顔見せろ?」
「っぃ、やだ」
「大丈夫、オレも竜胆も別に怒ってねえから」
「ぅ、……」

本当にそうだろうか。そう言いつつも怒っているのではないだろうか。蘭くんならあり得る。

「はあ〜信用されてねえなオレ」
「日頃の行いだろ。兄ちゃんいっつもなまえを困らせてんじゃん」

困ったような口調の蘭くんにそう言って、竜胆くんが俺に声をかける。「怒ってねえから、顔見せて」。竜胆くんの声からは、確かに怒気は感じられない。
恐る恐る、顔の前で組んでいた腕をそろりと外し、震える瞼をうっすらと開ける。ぼやけた視界の先では蘭くんがにこり、綺麗に微笑んでいて、そして。

「やめねえぞ?」
「な、…………、そんな、」

やっぱりだ、やっぱり怒ってる。散々やめろって言ってるのに、こんなの鬼畜を越えて外道だ。一瞬引っ込んだ涙がまたじわりじわりと瞳を覆う。これ以上情けないところは見せたくないのに。

「泣くなって、まーじで怒ってねえから」
「っうそつくなってえ……!」
「だーからウソじゃねえって。やめねえのは怒ってるからじゃなくてオマエが素直じゃねえからだよ」
「は、………?」

再び顔を隠そうとした俺の両腕は掴まれ、無理やり目線を合わせられる。濃い紫色の瞳が俺を真っ直ぐに見つめていた。

「オマエが本当はもっとしてほしいって思ってんの、分かってっからやめねーの」
「な、っ……!」

蘭くんから飛び出した言葉は、俺の予想の斜め上をいくものだった。
どうしてそうなるんだ。俺は君らに散々付き合わされている側なのに、まるで俺に付き合ってやっているみたいに。なんでそんなことを言われなければならない。
「もっとしてほしい」なんて、思っていない。
わなわなと喉が震える。否定してやりたいのに言葉が出てこない。そんな俺を見て竜胆くんがぽつりと一言漏らした。

「……兄ちゃん、駄目だって。こいつ自覚してねえよ」
「……まー知ってたけどな」
「っぁ、なに、」

そうため息まじりにこぼした蘭くんが俺からペニスを引き抜き、意味ありげに竜胆くんに目くばせをする。竜胆くんは「ようやくかよ」なんて文句を言いつつ、二人が場所を交代した。

「なまえ、脚開いて。それだと挿れらんねーよ」
「っ、何を、」

俺の前にやってきた竜胆くんは手際よくゴムを付け、ぐいと大きく脚を開かされる。

「っまだ、っすんの、」
「するよ、オレもまだし足りないし、なまえも欲しいだろ?」
「だから欲しくないって!」

ああもう人の話を全然聞いてない。泣きじゃくってまで「したくない」と言ったのに容赦がない。

「強情だな、認めれば楽になれんのに」
「そーそ。一度認めちまえばもっと気持ち良くなれんぞ〜?」
「っ、やだ、っ擦り、つけんな…」

竜胆くんにそそり立った肉棒をいやらしく擦り付けられ、蘭くんには性感を煽るように体を弄られる。悪巧みを考えついた悪戯好きの子供のような、それはもう悪どい笑みを浮かべた二人の動きは止まらない。

「っちがう……」

こんなの信じたくないのに、否定したいのに、俺の体にはさっきまでのいやらしい熱がぶり返し始めている。口に出して否定してみてもその声は妙に甘ったるくて、上辺だけの言葉に聞こえるくらいに滑稽だった。それに気づいているのかいないのか、竜胆くんは「しょうがねえな」と呟いて、ぐ、と自身の先端をひくつくそこへと押し当てる。

「こうなったら強硬手段だな」
「オマエが素直になれるまで、オレと竜胆がドロドロにとろかしてやるよ♡」
「………っ!」

ああくそ、最悪だ。
蘭くんのその言葉は俺にとって間違いなく死刑宣告なはずなのに、体の奥がどうしようもなく疼いた。