私達は似た者同士
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後輩の男の子、見た目は清潔感あって爽やか。
事実彼はサッカー部だそうだ。
さぞモテモテだろうと思われるけれど、何故か最近彼は私によく絡んでくる。
最初がどんな出会いだったかすら覚えていないのに、彼は朝の挨拶から帰りの挨拶まで。
私を見かけると即座に飛んできて一言二言話してどこかへ行く。
イケメンに相手して貰えるのは嬉しいところもあるけれど、残念ながら彼は人気過ぎた。
周りの女子の目が気になる。
…まあ、残念だけど彼には全くもって興味がないんだけどね。

「かなり懐かれてんじゃん」
「…善逸」

丁度サッカー部の彼と話した後、後ろから湧いて出てきた同じクラスの善逸がニヤニヤと口角上げていた。
何が楽しいんだか。
私にとっては迷惑と言っても過言ではない。

「…ちょっと最近多いかな」

絡まれる回数が。
それは色んな所で色んな勘違いを生む。
だって周囲の女の子には彼と私が付き合っているのでは、なんてあり得ない噂まで飛び交っているし。
申し訳ないけどそれは本当に迷惑だ。

「イケメンと知り合えるんだからさ、喜ぶところじゃね?」
「そうね。でもイケメンならここにもいるじゃん」

今度は私がニヤァと笑うと、唇を尖らせた善逸が私を見る目を細めた。
ちょっとだけ照れてる、そういうのが最近分かってきた。

「あんまりそういう事言わない方がいいよ」
「何で?」
「ガチで勘違いする奴が出てくるぞ」

上履きを履き替えながら、善逸がぽつりと零す。
私もその隣で同じように靴を履き替えた。
別に私は勘違いされてもいいんだけどね、あんたになら。
だけどそれは口にはしないで「そうだね」と呟いておく。
外は残念ながら雨が降っていた。

傘立てから傘を取り出そうと、自分の傘を探した。
善逸はさっと自分の傘を見つけて取ってしまったけど、私の傘が全然見つからない。
隣に立っている善逸も一緒になって探してくれているけど、本当にない。

「盗られた…?」
「うわ」

そうとしか考えられなくて、私は片手で頭を抱えた。
嘘でしょ、だってこんなに雨降ってるんだよ。
ちらっと外を見ると、通り雨なんかじゃなくて、朝からずーっと降ってる雨。
信じられない、誰だよ私の傘盗んだ奴。
はあ、とため息を吐いた。

「善逸、先帰ってて。私、職員室に寄って傘余ってないか聞いてくる」
「……あー、それなんだけど」

ぽりぽりと善逸が後頭部をかく。
言いづらそうにそっぽを向いて言う姿に私は首を傾げた。

「俺の傘デカイからさ、嫌じゃなかったら、さ…」

善逸の言いたいことが分かって、私は一瞬ポカンとしてしまった。
それはつまり、相合傘しようってこと?
ドキドキと僅かに鼓動する心臓がばれないよう、私はふ、と笑う。

「そういうの、ガチで勘違いされるよ?」
「…仕方ないだろ」

さっきのお返し、とばかりに言ってやる。
少し頬を赤らめている善逸を見るのはとても楽しい。
善逸の申し出を有難く受けて、私は一緒に入れてもらう事にした。
帰りの方向は一緒だから、特に問題はない。
それまでに雨が止んでくれたらいいけど、無理そうだな。

二人より添いながら、一つの傘に収まった。
善逸は傘を私の方に傾けてくれて、肩まで濡れないように気を使ってくれている。
その代わり善逸が濡れているんだけど。
…優しい男だこと。

「そう言えば、今日は炭治郎や禰豆子ちゃんと一緒じゃないんだね」
「…うん、先帰った」
「珍し。いつも一緒に帰るじゃん」
「……今日は、お前が絡まれてたから…」

ちらと善逸の視線が私に飛んでくる。
最後の一言が聞こえなくて「なんて?」と尋ねたけれど、善逸は教えてくれなかった。
サッカーグラウンドの横を通り過ぎ、校門を出ようとした。
サッカー部の部室がここから見える。
部室の前で雨宿りをしていたあの男の子がこちらを見ていた。
善逸もそれに気付いたみたいだ。

「手くらい振ってやれば?」

とぶっきらぼうに言うのだ。
この男は本当にもう…。
このままだとサッカー部の彼は私と善逸が付き合っていると勘違いするだろう。
そんな事実はないんだけど、是非そうして頂きたいくらい。

「…気付いてほしいな」

サッカー部の彼も、隣の金髪も。
この想いを口に出すにはまだ勇気が足りない。
だから、殿方が先に気付いてほしい。
ずるい女だと思うけど。

「明日くらいに絶対告られるんじゃねーの」

サッカー部の彼の方を見ながら、善逸が言った。
善逸は人の気持ちが分かる。
だから彼の気持ちも分かるんだろう。
残念な事に隣の女の子の気持ちには気付いてくれていないんだけどね。

善逸は炭治郎の妹の禰豆子にお熱だし。
欲しいのは禰豆子ちゃんの気持ちだけ。
私の事なんて気にする余裕ない。

「…まあ、告白される方が楽かな」

もしそうなら。
断る事が出来て、彼からも解放される。
善逸に勘違いされることもなくて、もしかしたら勢いで私も善逸に告白できるかも。
…まあ、無理か。
善逸は可愛い女の子が好きだし。
こんな友達みたいな女子はきっとご免被りたいだろう。

「何、彼氏欲しいわけ?」
「…好きな人が彼氏になるなら、ね」

少し怒ったように善逸が呟く。
傘が揺れた。
私だって好きでもない人と付き合うほど、大人な恋愛してない。
彼氏になって欲しいのは、一人だけ。

「ふうん」

興味無さそうな声が聞こえた。
別に意識されてなくてもいい。
まだ、私には善逸に伝える勇気がないから。
たまにこうして一緒に過ごせるだけで、今はいい。
少しでも善逸が意識してくれるようになるまで、頑張るつもりだ。

…でもその前に禰豆子ちゃんと付き合うのが先かもしれないね。

自分の想像で気分が落ち込む。
折角善逸の傘に入れてもらっているというのに。

そればっかりはどうしようもないね。私は禰豆子ちゃんになれないから。


――――――――――


最近名前の周りをうろつく男子。
サッカー部のレギュラーだかなんだか知らないけれど、顔見るとすぐに寄ってきて名前に絡んでいく。
今日は最悪だった。
いつまでたっても名前の前からいなくならないから、俺がその後ろからずーっと睨みをきかせていた。
それに気付いたのかわからないけど、奴は部室へ消えた。
あんな奴と喋ることないのに、にこりと微笑んで名前はいつも対応する。
そりゃあイケメンだし?恐らく名前のこと好きだろうし?

…ウザイ。

こうして一緒に帰る機会をなんとか作ったけれど、名前の目にはあいつしか見えてないんだろう。
隣にいる俺の気持ちなんて少しも知らないで。

校門を出るときに見えたサッカー部の部室前、奴は苦しそうな顔で俺たちを見ていた。
素敵な勘違いをしてくれているだろう。
俺にとっては願ったりかなったり。
だけど、名前にとってはどうだろうか。迷惑極まりないかもしれない。
そんなこと分かっているのに。

俺たちを見て、奴は何か決心したようだった。
それが手に取るように分かってしまい、腹立たしくて。
「告白されるんじゃねーの」と尋ねた。
名前はそれを嫌がる素振りもせずに「その方が楽だ」と言った。

こんな曖昧な態度をされる方が面倒ということか。
さっさと告白しろ、と言っているようだった。
ズキン、と俺の胸が痛む。
同じ傘に入って、隣にいるのに。
名前の想いはあいつに向いているなんて。

もしあいつが明日、本当に告白するとしたら。
名前は何て言うんだろうか。
俺に笑顔で報告してくるとか?

はあ、無理。

そんな事されたら、早退するわ。
…でももしも、名前が断ったら。

その時は、俺は何て言うんだろうか。
可能性は低いけれど、俺もそろそろ覚悟を決めないといけないかもな。
もし名前が俺の事、微塵も意識していなかったとしても、俺は俺の気持ちを名前に知っていてほしい。
俺も、名前の気持ちが知りたい。

肝心な時に俺の耳は役に立たねーんだから、さ。



私達は似た者同士



まだお互い、その事に気付くには時間が掛かるようだ。







あとがき
椋さまリクエストありがとうございました!
善逸で嫉妬ものということでしたが、如何だったでしょうか。
付き合ってすらいない上に、全然ラブラブしてないじゃぁん。と突っ込みどころ満載かと思われます…。
ちょっと書いてみたかったんです、両片思い。
付き合う前のじれったいこの感じ。好きなんです…ごめんなさい。
この後はきっとラブラブすると思うのでね。
どうか妄想で補完くださいませ(笑)

この度は誠にありがとうございました!


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色いろ