Let's date
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「偶にはデートをしましょう」

そう言ってお休みの善逸さんを誘った。
善逸さんは「でえと?」と首を傾げて、ポカンとしていたけれど、たまにはこういう日があってもいいだろうと、私が無理矢理誘ったのだ。
偶には、少し可愛い着物を出して、藤乃さんから送ってきて貰った新しい袴を履いて。
いつもはしない化粧をほんのり。
髪型もお洒落にまとめ上げてみた。
だから今日はシュシュじゃなくて、善逸さんから貰った簪が後頭部で揺れている。
可愛らしい鈴の音が聞こえて私は大満足だ。

「お待たせしましたー」
「…本当に待ちわびたんだけど、一体何にそんな時間が…」

いつもの筋肉化け物三人が固まって畳の上に居た。
それを見つけて折角用意した晴れ着を見せると、最初に気付いた善逸さんが言葉途中で固まってしまい、
その隣で胡坐を組んでいた伊之助さんが「あ?」とこちらを見て、二人の真向かいに座っていた炭治郎さんがにこりと微笑んで「凄く似合ってる」と言ってくれた。

「本当ですか? ありがとうございます」

野郎が三人居て何故「似合う」と言ってくれる人が一人しかいないのだろうか。
しかも一番言って欲しい人は何の反応もせずにポカンとしているし。
私は炭治郎さんにお礼を言って、未だ固まっている善逸さんの腕を引っ張った。

「ほら、行きましょ!」
「…あ、うん」

なんとも反応の薄いことだ。
善逸さんのはっきりしない態度に私は頬を膨らませて抗議してみる。
だけどこの金髪はそんな事に気づきもしないで、のっそり立ち上がるとじーっと私の姿を上から下まで見つめた。
言いたい事があるなら口で言えばいいのに。

「気を付けて、善逸、名前」
「いってきますね、炭治郎さん、伊之助さん」
「土産買ってこいよ」
「はいはい」

進んで動かない金髪の背中を押して、私は部屋に残された二人に手を振った。
廊下に出るときよちゃんが私達を見て「楽しんできてくださいね」と言ってくれたので丁寧にお礼を言っておく。
蝶屋敷を出ても固まったままの善逸さんにいい加減嫌気がさしたので、普段はあんまりしないようなことをしてみる事にした。

筋肉質な腕にそっと絡まる様に身体を密着させると、流石に善逸さんは驚いたのか「うぇっ?」と声を上げる。

「なんです、その反応」

わざと目を据わらせ善逸さんを下から睨む私。
善逸さんの瞳には戸惑いが感じられた。
失礼な男だ。

「……もう、勘弁してよ」

はあ、と頭を抱えるようにため息を吐く善逸さん。
それは一体どういう意味なのかと何時間も問い詰めたいところだけれど、今日は折角のデート。
こんなことで気分を害するのは勿体ない。
ブツブツ文句を言われようとも、私は離すものかと更に強く善逸さんの腕に掴んだ。


◇◇◇


「たい焼き、食べる?」
「食べます」
「待ってて」

街について段々いつもの調子を取り戻した善逸さんは、視界に映った屋台の看板を見て呟いた。
美味しそうな匂いがこちらまで香ってくる。
善逸さんは私を見るとくすりと笑って、屋台の方へ歩いて行った。

どきん。

ちょっと笑っただけなのに、そんな笑みでさえときめいてしまう私は相当善逸さん脳なのかもしれない。
言われた通り大人しく待つ間も、ずーっと頭の中は善逸さんで一杯だった。
今日はお休みの日だから、いつもの隊服じゃなくて、着物を着ている。
それが何か新鮮で、まるで旦那様のお屋敷に居たときみたいだなと思うけれど、あの時と違うのはこの関係に名前が付いたことだろうか。
最近は任務やら鍛錬やらで忙しかったから、こうして恋人らしいことをしていると気分も上々だ。

それにしても。

ふと街の中を歩く人たちに目を向ける。
最近は外国の方も増えたのか、ちらほら日本人らしからぬ色の髪が目立っている。
…まあ、私の取り巻く環境は髪色の珍しい方しかいないので、特段目を引く訳ではないけれど。
こうやって異国の文化が取り入れられていくんだなあと、なんとも歴史を感じて呆けてしまった。

ぐう。
そのタイミングで私の腹時計が音を立てる。
いい加減お腹がすいたみたいだ。
隣に善逸さんがいなくて良かった。
…にしても、善逸さん、たい焼きを買いに行くだけなのにどれだけ待たせば気が済むんだろうか。
ちら、と善逸さんが歩いて行った方向へ視線を向けた時、見慣れた金髪が両手にたい焼きを持った状態で立ち尽くしているのがわかった。
あ、いた。

居た。
だけど、善逸さんの真向かいに立っているのは善逸さんより一回りも二回りも大きな異国の男の人だった。
えっ?外国の人に絡まれてる?

こちらからは善逸さんの背中しかわからないけれど、明らかにワタワタと慌てている様子が分かった。
外国の方も必死に善逸さんに何か尋ねようと身振り手振りで説明しているけれど、全く通じていないのかその表情は焦りが見える。
あ、まずい。
そうだ、善逸さんの髪は金髪。
あのナリで「英語なんて一言も喋れマセーン」というのを理解するのは、外国の方からしたら難しいだろう。
私は小走りで善逸さんに近付いた。

「Hi(あの)」

善逸さんの後ろからそっと声を掛けると、青い瞳がこちらを見たのが分かった。
それから泣きべそかいた善逸さんが振り返る。
私を見ると、少しほっとしたのか、表情が緩んだ。
なんて情けないんだ、と思ったけれど流石に口には出さなかった。

「Is there anything I can help you with?(どうかしましたか?)」

私の中学英語と海外ドラマで鍛えた英語力はどうやら通じたらしい。
私の口から英語が飛び出したことで、目の前の男性は「Oh…」と声を上げ、ペラペラと流暢に話し始めた。
所々知らない単語が出てくるので、私は何度も聞き返したけれど、男性は嫌がることなく丁寧にゆっくり話してくれた。
おかげで何が言いたいのか、よくわかった。

「…名前ちゃん、異国語話せるの?」
「少しだけですけどね」

どうやら男性はホテルを探しているようだった。
この辺で外国の方が泊まれるホテルのアテが一つだけ頭に浮かんだ私は、善逸さんと並びつつ案内する事にした。
その間も男性は感情を込めて感謝の気持ちを伝えてくるけれど、横の善逸さんは不安げな視線を私に向ける。

「Is that person a boyfriend?(隣の彼は恋人かい?)」

男性がにこにこ笑いながらそう呟く。
私は一瞬言葉が詰まりそうになったけど、コクリと頷いて「yes」と口にした。
私がほんのり顔を赤らめている事に気付いた善逸さんは、ムっとした表情を見せていたけれど、こればかりはどうしようもない。
横で説明するのが恥ずかしかったので、その場では何も言わなかった。

ホテルの前に到着すると、男性はこれまで以上に喜び、私の両手をぎゅっとその大きな手で包んだ。

「Oh my god! I'm so happy I could cry!! Thank you so so much! (凄く嬉しいよ、本当にありがとう!)」
「Any time(どういたしまして)」

ただその様子にぎょっとしたのが善逸さんだ。
異国の方のカジュアルなお礼の仕方に大変驚いた様子で、男性と私の間に急に割って入り、私を背にして男性を睨みつける善逸さん。
男性はぱちぱちと数回瞬きをして、それから「Oh sorry」と口角を上げて笑った。
恥ずかしいやら、嬉しいやら。
私は顔面に集まった熱を見られたくなくて、善逸さんの背中に隠れた。

男性は私達に大きく手を振ってホテルへと消えていく。
やっとその姿が見えなくなって、善逸さんは大きくため息を吐いた。

「…ま、マジ怖かった…」
「普段鬼を相手にしている方が何を言いますか」

どうやら外国の方の空気にやられたらしい。
ダラダラと気持ち悪い汗をかきながら、善逸さんは荒く呼吸をする。
それがおかしくて、私は笑ってしまった。

「それより、さっきあの人なんて言ったの?」
「さっき?」
「……名前ちゃんの音がおかしくなったから」
「あー…」

ぐるんと私の方を向いて、善逸さんが唇を尖らせる。
来た方向へ歩きながら、私は善逸さんの手をそっと握る。


「こーんな素敵でカッコイイ恋人が居ていいですね、って」


ふふ、と善逸さんに笑いかけると、善逸さんはボンと沸騰するように顔色が変化した。
本当はそんな風に言われた訳ではないけれど、それくらい別にいいだろう。
だって、本当に素敵でカッコイイんだもの。

ぎゅうっと握り返された手に幸せを感じて、私はそっと腕を引いた。

「わ、」

善逸さんの頭が下がったと同時に、その頬にちゅっと口付けを落とす。
さらに茹蛸になった善逸さんを見て、私は声を上げて笑った。



たまには異国の交流もいいかもしれない。






あとがき
秋月さま、リクエストありがとうございました!
善逸、外人に絡まれるというとっても楽しい楽しいネタ!!
こんな感じでよろしいでしょうか?
あんまりラブラブしてない(´;ω;`)
めずらしくヒロインちゃんが甘えに甘えている…。
朝から何故か私が幸せになってしまいました…
こんなものでよければお納めくださいませ(/・ω・)/

この度は誠にありがとうございました!


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色いろ