ドキ☆女子だけのパジャマパーティ!「さあて、今日は寝かせないわっ」
パジャマを腕まくりし、何やら意気込んでいる様子の蜜璃ちゃんに、私はこっそりふう、と息を吐いた。
他の皆は何も言わずににこにこしている。
今日を一番楽しみだったのは蜜璃ちゃんだというのが手に取るように分かる。
それぞれが用意された布団の上に腰を下ろし、まるで円になるように向かい合った。
「皆が先生だから、会える時間がなくて本当に寂しかったのー!!」
「そうだね、蜜璃ちゃんは大学生だから、時間が合わないね」
「本当によろしかったのでしょうか、私達まで…せっかくのお泊り会なのに」
「いいのいいの!! 在学生から聞きたい事もあるのよ! だから今日は朝まで恋バナしましょ!」
「私は先に寝るけどねー」
蜜璃ちゃんのお家に集まった女子、総勢5人。
蜜璃ちゃん、カナエちゃん、しのぶちゃん、カナヲちゃん、そして私。
元々年の近い私たちは住んでいる家も近くて、幼い頃からよく一緒に遊んでいた。
蜜璃ちゃんは卒業後、芸術大学へ、私とカナエちゃんは教師の道へ。
カナエちゃんの妹、しのぶちゃんとカナヲちゃんは高校生だ。
高校卒業後から会う機会がめっきり減ってしまい、やっと集まれた会だったのだ。
蜜璃ちゃんが声かけをしてくれて、本日は皆でパジャマパーティ。
夜更かしするつもりでやってきたけれど、朝まで語らうつもりはない。
私、それでなくとも寝不足なのに。
「誰からお話しましょうか!」
一人ハイテンションの蜜璃ちゃん。
身体が左右に揺れて、見た目からも楽しそうなのが良くわかる。
私ははあ、とため息を吐くと「一番楽しそうな蜜璃ちゃんからどうぞ」と呟いた。
それに賛同するようにカナエちゃんも「それが良いと思うわ」とにこにこ。
しのぶちゃん、カナヲちゃんは言わずもがな。
「わ、私っ!?」
ポンと音を立てそうな勢いで顔を赤らめる蜜璃ちゃん。
とはいいつつも、絶対話したい事、あるはずなのよね。
「伊黒先生とはどこまでいったのー?」
「い、伊黒さんとは…その」
「私も聞きたいわ。学校では女子嫌いオーラを放ってる伊黒先生が、プライベートではどんな感じなのか」
私がにやにやと悪い笑みを見せる横で、カナエちゃんが変わらない笑顔で首を傾げる。
蜜璃ちゃんは暫くモゴモゴしていたけれど、意を決し口を開いた。
「こ、この前…水族館デートしたの」
「水族館デート!? めちゃくちゃ雰囲気良い所選んだねー」
「流石伊黒先生。意中の女性を射止めるための下調べは完璧ね」
「…泳いでいるお魚さんが可愛くて…それから、おいしそうで」
「……美味しそう?」
「その後、美味しいお魚料理に連れて行ってくれたの」
きゃー!と両頬に手を当てて恥ずかし気に言う蜜璃ちゃん。
私は思わず目を細めて「あ、そう」と呆れた声を上げた。
カナエちゃんは笑顔のまま「水族館行った後に魚料理を食べるなんて、流石ね」とよくわからない言葉で褒めていた。
「そう言えば、伊黒先生、自習の時間にお魚料理のお店の乗ったパンフレットを見ていました」
「うわぁ」
しのぶちゃんが思いだしたように呟いた言葉に、私は思わず引いてしまった。
自習とは言え、授業中に何をやっているんだ、伊黒先生。
「私の事はもういいの! 次、次!」
いい加減恥ずかしくなったのか、蜜璃ちゃんは声を上げて天井を指さす。
さーて、次の恋バナは誰かな、と思った時、ふと思い出したので口にした。
「そう言えば、不死川先生と手を繋いで無かった? カナエちゃん」
「見てたの? 一緒に帰ろうって言われたの」
「えっ!! あの怖い不死川先生と一緒!?」
にこにこ笑って耳に髪をかけるカナエちゃん。
だけど何となくそれ以上は聞くなと言われているようで、あまり突っ込んだ事は聞けなかった。
軽やかに「まだお友達なの」と言われると、その内その関係が変わるんだろうなと思うけど。
蜜璃ちゃんは惚けたような顔で「素敵〜」と呟いていた。
確かに、あの不死川先生が手を繋ぐくらい甘えるなんて、この目で見るまで信じられなかったけれど、両想いっぽくて安心した。
「手を繋ぐ、と言えば…この前カナヲも後輩の男の子と一緒に手を繋いでいたわね」
「あら、カナヲ。もしかして炭治郎くん?」
カナエちゃんが自分の話のついでにカナヲちゃんに話を振る。
突然ぶっ飛んできたカナヲちゃんは笑顔を凍らせて、カナエちゃんを見ていた。
追撃とばかりにしのぶちゃんが言葉を発すると、カナヲちゃんの頬が色づいていく。
私は思わず微笑ましくなった。
「…そう言う姉さんも、この前冨岡先生と楽しそうにお話されて……」
「あれはただ付きまとわれていただけよ」
「あらあら、冨岡先生はしのぶ狙いなのね〜」
胡蝶姉妹の恋バナはとても白熱しているようだ。
それにしても知らない間にあの冨岡先生までしのぶちゃんを狙っていたなんて。
今度飲み会があったら散々弄ってやろうと心に決めた。
「いいなぁ…そんな青春送りたかったぁ」
ぽつりとつぶやいた一言に、カナエちゃんと蜜璃ちゃんがこちらを見る。
そして、カナエちゃんが「あら、」と口を開いた。
「青春なんて。今まさに煉獄先生に口説かれている女子が何を言うのかしら」
「……えっ!? なんでそれをっ!!」
「ええええっ!! 名前ちゃん、殿方に口説かれているの!?えええ!!!」
カナエちゃんの一言に、背中に冷たい汗が流れる。
ドッドッドと心臓が一気に鼓動を早めた。
まさか自分の話を言われると思っていなかったし、カナエちゃんが誰も知らない筈の話を知っている事に驚いたからだ。
蜜璃ちゃんは私の肩を掴んで「えええ!!」とまだ叫んでいた。
「煉獄先生がね、この前言ってたの。『苗字先生の好きなものは何だろうか?』って。適当にビールと枝豆って言っておいたわ」
「…っ! それじゃあ、オッサンだと思われるじゃん!」
「いいじゃない! それで居酒屋デートに誘われるんじゃないかしら」
デート、と言われて私は思い出したようにスマホを取り出した。
皆がにこにこ笑う中私のスマホを横から覗き込む。
「あら、メッセージが山盛りだわ」
「しかも全部煉獄先生からじゃない? きゃあ! 愛されてるのねー!」
「…未読27件。熱いですね、煉獄先生」
「……」
四人が私のスマホ画面を見て、三者三様のコメントを口にする。
段々と私はスマホを持つ手がぶるぶると震えていくのが、自分でもよく分かった。
私がワナワナとしている事に気付いたカナエちゃんが「返事はしないの?」と笑う。
「だ、だって…これただただ『好きだ!』とか『ビールが好きなのか!』とか短い文ばっかりで、なんて返していいのか分からない、じゃん…」
「ストレートに送ってくるのね! 早く返事をしてあげて名前ちゃん!」
「やだやだ、無理無理!!」
「どうして?」
カナエちゃんがうっすら目を開けて、口元を緩める。
私は自分の頬に熱が籠るのを感じながら、少しだけ俯いた。
「……だ、だって…そういうのは、顔を見て言って欲しい、し」
恥ずかしいから消え入りそうな声で言った。
そしたら、一瞬皆がポカンとした様子だったけれど、いち早く蜜璃ちゃんが抱き着いてきて「可愛すぎるわ!!」とぎゅうぎゅう締め付けてくる。
カナエちゃんはその隙に私のスマホを取り上げて、何やらタップした。
「あっ、カナエちゃん!」
「…これでよし。名前、そろそろお迎えが来るんじゃないかしら」
「全然良くないんだけど!! 何したの!? それにお迎えって何?」
私が一人ぎゃーぎゃー喚いていると、途端に鳴り出すスマホ。
カナエちゃんの手にあるスマホをそっと渡され「煉獄先生よ」とにこり。
言われ名前と画面に表示された名前が一致している事に驚愕する。
声にならない声を上げていると、さっとカナエちゃんが通話ボタンをタップしてしまった。
「っ!? も、もしもし」
勝手にタップされたとはいえ、出ない訳にはいかない。
私は大慌てでスマホを手に取り、後ろでにやにやしている彼女らから逃げるように、部屋から飛び出した。
『名前か?』
「そ、そうです、けど」
『今から会えるだろうか』
「い、い、今ですか?」
『会いたい』
煉獄先生のストレートな言葉に思わず胸が高鳴った。
自然と口からは「はい」と出ていた。
スマホを切ると、私は部屋に戻り一目散に持ってきた荷物をまとめ始める。
適当にカバンに詰めて、皆に「ごめん」と言うとみんなは「行ってらっしゃい」とにこにこ手を振ってくれた。
何も考えられないけれど、会ってから考えよう。
私はそのまま蜜璃の家のドアを乱暴に開けて駆けだした。
「…今日は戻ってくるかしら」
「まさか朝までコース!? やだ恥ずかしいわ!」
「それにしても、メッセージ27件は正直気持ち悪いですね」
「しのぶ、分かってても口にしてはいけないわ」
女子たちの夜更かしはまだまだ続く。
あとがき
きむらさま、リクエストありがとうございました!!
あんまり煉獄に焦点がいっておりませんが、女子会をメインにさせて頂きましたのでこんな感じです。
この後は煉獄氏がヒロインちゃんに告白して晴れて付き合うという王道パターンです。
終始楽しく書かせて頂きましたー!!
こんなもので良ければお納めくださいませ〜
この度はありがとうございました!
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色いろ