ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし
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「前から思っていたけど、カナヲちゃんの隊服ってとっても可愛いね」

ここの所忙しかったカナヲちゃんが蝶屋敷で一息つけるということで、私もご一緒してお茶を楽しんでいたある日。
カナヲちゃんが私の袴姿を見て「素敵ね」と笑ってくれた。
ふふふ、そうでしょうそうでしょう。これは私のお姉ちゃんが私の為に見繕ってくれた袴なんだよね。
善逸さんはあんまりイイとも悪いともはっきり言ってくれないけれど、自分では結構気に入っている。

でも素敵と言えばカナヲちゃんの隊服だって可愛いのだ。
この時代には珍しい可愛らしいスカートの隊服。
しのぶさんはパンツスタイルなんだよね。好みの違いかな?

「そういう部隊の人が作ってくれるの」
「へえ、器用な人もいるんだねぇ。私も今度教えてもらいたいなぁ」
「…止めといたほうが良いと思う」
「どうして?」
「…多分、炭治郎達もいい気はしないと思うよ」
「そうかな?」

言葉を濁してにこりと微笑むカナヲちゃん。
この時の私は何故カナヲちゃんがそんな事を言うのか不思議だった。
まあ、鬼殺隊の人達って忙しいもんね。
私みたいなのが気軽に訪ねていったら迷惑極まりないよね。

「でもカナヲちゃんの隊服って、私の時代の服にとても似ていて可愛いの、懐かしいなぁ」
「名前ちゃんの時代の?」

中学生のセーラー服みたいな。
この前まで着ていたけれど、血で汚して捨ててしまったから、もう着る事はない。
あのまま高校生にでもなればこんな制服を着ていたんだろうけれどね。
ずず、とお茶を一口頂きながら脳裏に可愛らしい制服を思い浮かべる。
少しだけ羨ましい目でカナヲちゃんを見ると、それに気付いたカナヲちゃんが自分の隊服と私の袴を見比べる。

「ねえ名前ちゃん、そんなに着たい?」
「機会があればいつか着てみたいかな」
「だったら、少しだけ…着てみる?」
「えっ?」

少しだけ照れた様子で上目遣いにこちらを見るカナヲちゃん。
その様子が可愛すぎて、一瞬なんの話をしていたか忘れた。
えっと…なんだっけ。

「隊服だから、この屋敷を出て着る事は駄目だと思うけど、屋敷内だったら大丈夫だと思うの」
「…え、カナヲちゃんの服を着ていいの?」
「うん、その代わりに…」

目の前の天使は私に隊服を着せてくれるという。
そして、それだけじゃない。
ちらりと私の袴に目をやって「私も名前ちゃんの服、着てみたい…」と消え入りそうな声で言われてしまっては、私としては「どうぞどうぞ!」と言う他ない。
カナヲちゃんに絶対似合う!!
それに炭治郎さんに見せたらきっと喜ぶと思うし!

頭の中で炭治郎さんの喜ぶ顔を思い浮かべ、私はコクリと頷いた。

絶対後で炭治郎さんに見せてあげよう。
こっそり誓って私達は服を着替えるために立ち上がった。

―――――――――――

鏡の前に二人で並び、お互いの服を見比べた。
か、可愛い。
既に着替える最中に何度も口にしてしまったが、改めて見てもやっぱり可愛い。
隊服もそうだけれど、袴姿のカナヲちゃんの似合う事。
何でこの時代にスマホがないんだろう。あれば速攻で写メって炭治郎さんに送りつけてやるのに。
カメラが一般化するのを心の底から望んで、息を吐いた。

少し恥ずかしそうにモジモジしている姿なんて、とっても愛らしい。
善逸さんも絶対喚き散らすに違いない。
…それはそれで腹が立つなぁ。

「名前ちゃん、隊服似合うね」

私の姿を見て、カナヲちゃんがぽつりと呟く。
一番似合ってるのはカナヲちゃんだよ、と叫び出してしまいそうだった。
だけどそれを言うのは私ではない。
あとで野郎に言わせればいいのだ。
私は「ありがとう」と笑ってもう一度鏡を見た。

うん、やっぱり制服みたいだ。
規律性を重んじる隊服と学生の制服は似ている。
鏡の前でくるりと回ってみると、スカートが可愛く舞った。

髪を下ろしていたけれど、ポニーテールの方が似合うかな。
シュシュを取って括り直した。
あとついでにカナヲちゃんの髪もセットする。
袴には問答無用でハーフアップが似合うのだ。
異論は認めない。

「うん、やっぱり可愛い」

カナヲちゃんの髪のセットが完了し、手鏡を渡すとぼーっとそれを見つめるカナヲちゃん。
髪を下ろすのも珍しいけれど、とてもよく似合っている。
これできっと炭治郎さんは私に感謝する事だろう。

「じゃあ、炭治郎さんに見せようね」
「えっ?」

ポカン顔のカナヲちゃんの手を引いて、私達は部屋を出た。
目指すは炭治郎さん!…あと、おまけに金髪も。

――――――――――――

炭治郎さんはあっという間に見つけることが出来た。
庭でいつもの三人が鍛錬に勤しんでいたからだ。
屋敷の壁からこっそり頭だけを出して、炭治郎さんに念を送ると、彼は思いのほか早く気付いてくれた。

「あれ、名前?」

その声につられて金髪と猪もこちらを見る。
ふっふっふ、その間抜け面が今から変化するのが楽しみで仕方ないですよ。

私の後ろで「名前ちゃん…!」と顔を赤くして隠れているカナヲちゃん。

「どうしたんだ、名前。そんな所で隠れて」
「どうせ変な事でも考えてるんじゃないの…」

炭治郎さんが不思議そうに首を傾げる横で、呆れた顔で金髪が呟く。
半分以上当たっているので、私は何も言わない。

「…炭治郎さん、ちょっとこっち来て下さい」
「あ、あぁ…」

疑問符を頭の上にたくさん並べ、腑に落ちない顔でひょこひょこと炭治郎さんが近付いてくる。
何故か呼んでも居ない金髪も後ろから付いてくる。
まあ、いいけれど。

私の後ろでカナヲちゃんが無言になった。


「じゃーん」


ひょっこり隠れていたカナヲちゃんを前に出してにこりと笑う。
とっても恥ずかしいのだろう。カナヲちゃんが耳まで顔を赤くして顔を俯かせる。
手元はモジモジと動かしていて、可愛さ爆上げである。

最初は瞼をぱちぱちと数回瞬きをして、よく理解してなかった炭治郎さんが、カナヲちゃんの姿を捉えた時。
まるで太陽のように優しく笑って

「とっても可愛いよ」

と言った時には、私まで心臓が撃ち抜かれそうになった。
私でこれなら、カナヲちゃんなんてひとたまりもないだろう。
トントン、とカナヲちゃんの背中を叩いて、後は若い二人に任せるため、私は二人の横を通り過ぎる。

とってもいい事をした。
私は自己満足で一杯だった。

そんな私の手首を掴んで、目を細める金髪が一人。


「んで?何で名前ちゃんが隊服を着ているわけ?」


じろじろと私の頭の先から足元までを見つめて、むっと唇を尖らせる善逸さん。
…カナヲちゃんに気を取られて忘れてた。
猪もやっと様子に気付いたのか「何で着替えてんだ?」と首を傾げていた。

「カナヲちゃんと服を交換しまして…」
「見たらわかるけどさ。なんで隊服なの?」

何だか少しだけ怒ったような声色で顔を近づけてくる善逸さん。
隊服を勝手に部外者が来たのがマズイのだろうけれど、ちょっとの間だけだったから、いいじゃないですか!
恐る恐る善逸さんを見上げて「…着てみたくて」と零すと、はあとため息を吐かれる。

「着るのは良いんだけどさ。別に」
「じゃあ、何で怒ってるんですか?」
「……」

途端に口を噤んでしまう。
フイっと逸らされた視線に私は眉間に皺を寄せる。
何が言いたいんだ、この人。
勝手な時、私が可愛らしい服を着てもあんまり「可愛い」だの「似合ってる」だの言わない癖に。
難癖だけつけるのは何事か。

「名前、お前そんなに脚出してたら虫に食われるぜ」

善逸さんの後ろから伊之助さんが私の下半身を指さして言う。
ああ、そうだった。

「実は少しだけ丈を短くしました。ミニスカートです」

そう言って、目の前でくるりと回ってみた。
ほらね、可愛いでしょう?
と思って善逸さんと伊之助さんを見た。
伊之助さんは特段変わった様子はなかったけれど、問題は金髪の方だ。

一気に般若のような顔になって、わなわなと唇を震わせる。


「何してんのぉおお!! いいからこっちに来て!!」


突然の大声にビクンと身体が驚いた。
拒否する間もなく善逸さんに腕を引かれ、伊之助さんを残して私は人通りの少ない物置小屋の方へ連れていかれる。

連行されている間も金髪はプンスカプンスカと怒りまくっており、頭から定期的に湯気を出していた。

物置小屋を背にして立たされ、鋭い目をした善逸さんが前に立つ。
とても逃げ出したい雰囲気である。
その空気を感じ取った善逸さんが私の顔の横に手を付いて、逃げ道を塞いだ。
やばい、ガチで怒ってる。


「ねえ、どういうつもり?」


いつもより低い声にビクビクと背筋が凍る。
顔は仄かに笑ってる。
でも全然そんなことない。
めちゃ怒ってる。

「ど、どういうつもり、とは…」

苦し紛れに発言すると、ぴくりと金色の眉が動いた。
駄目だ、もう何も言わない方が良い。


「あのね、これだけ脚を出すってんなら…」
「いっ!?」


善逸さんの右手がすっとスカートの中へ入り込んできた。
思わず声を上げて善逸さんの顔と手を交互に見つめる。

口角を上げて、とても楽しそうに笑う顔に少しだけ怯えてしまった。


「触られても文句は言えないよね?」


善逸さんの指がつーっと私の太ももをなぞる。
思わず口元に手を当てて目を見開いた。
え、嘘嘘嘘!こ、こ、ここで!?
プルプルとまるで生まれたての小鹿のように震えはじめる私を見て、さらにくすりと笑う善逸さん。

「あ、ちなみに俺はさ。この格好好きだよ」

ついでのように言われても全然頭に入ってきません!



ミニスカートは好きですよ、脚が見えますし



果たして私はこの状況から逃げる事が出来るのでしょうか。






あとがき
なおさまリクエストありがとうございました!
最初リクを頂いた時はオリジナル善逸で書こうかと思っていたのですが、よくよく確認すると
善逸さんじゃないと書けない内容でしたね、申し訳ございません。
デートらしいデートをする前にど変態な善逸が顔を出してしまい、重ねてお詫び申し上げます。
…とっても楽しかったですとても。
かまぼこに焦点を置くために出した、炭治郎とカナヲが前に出過ぎ感。
伊之助が可哀想なことになってますね。。。
こんなものでもよろしければ、お納めくださいませ。

この度は誠にありがとうございました!

お題元「確かに恋だった」さま


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色いろ