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あれから2週間経った。
クラスの人は私が我妻くんと一緒に居ない所を見て、別れたという事に気付いた人もいるみたい。
私は友達から聞かれはしたけれど「うん」と笑って言うと、それ以上なにも聞かれなかった。
気を使ってくれる友達に心から感謝をした。
何度か廊下で竈門くんと顔を合わせた事があった。
でも、竈門くんは今にも泣きそうな顔で私を見て、話しかけようとしてくれていたけれど、
私はそれに気づくと一目散で逃げ出した。
今はもう誰とも喋りたくない。
授業中にこっそり我妻くんの背中を眺めるのだけは続けていた。
見るたびに心臓の痛みを思い出して、すぐに逸らしてしまうけれど、それでも毎回視線を向けてしまう。
このままではいけないという事は分かっているけれど、誰にも何も触れてほしくはなかった。
その日の放課後。
ふと思い立って、普段は絶対行かない繁華街へ寄った。
勿論、一人で。
前に来たときは我妻くんと二人で来たっけ。
どうしてそんな気持ちになったのか分からない。
ここ最近の暗い気持ちを発散したかったのかもしれない。
でも、繁華街に来ると、我妻くんとの楽しい思い出が蘇ってきて、余計に気持ちが沈んだ。
トボトボと歩いて、自然とたどり着いた先は、ゲームセンターだった。
我妻くんと遊んで、プリクラを撮った小さなゲームセンター。
流石に一人でプリクラを撮る勇気はないから、横にある自動ドアを潜って中へ入る。
薄暗い店内の誰も座ってない筐体に腰を掛け、それから何となくお金を入れてみた。
前は我妻くんが色々操作していたっけ。
私一人でゲームなんて出来るんだろうか。
それでもお金を入れた以上、操作しないわけにはいかないから、私はそのまま適当にボタンを押してみる。
結果あっという間に私のキャラクターは、やたらパンチを繰り出すキャラクターにあっという間に倒されてしまい、
そこでゲームが終了した事を理解した。
何だか少しだけ腹が立って、もう一回お金を入れた。
今度はもう少し積極的に。
控えめに叩いていたボタンを強めに連打をしてみる。
そうすると、先程はかすりもしなかった攻撃が、いくつか当たるようになる。
それが少しだけ楽しかった。
でも、やっぱり私のキャラクターは倒されてしまった。
地面に転がるキャラクターの映像を睨みながら、もう一度お金を入れた。
そうして何分も、何十分もひたすらお金を入れてボタンを叩いていたら、苦節何回目かで相手のキャラクターを倒すことが出来た。
「…あ」
初めて勝った。
普段なら、絶対しないゲームで。
少しだけ手に汗が滲んでいる。
馬鹿みたいに真剣にやっていた証拠だ。
YOU WIN の画面を見つつ、ぼうっとしていたら、隣の筐体に人が座る気配がした。
「ねえ、君、一人?」
その人はどうやら私に話しかけたようだった。
ビクリと反応する私に、その人は笑いながら「驚かすつもりはないんだ」と手をひらひらさせている。
歳は同じくらいの高校生。
他校の制服の男の子が、私に身体を向けて顔を覗き込ませてくる。
「一人なら、これから一緒に遊びに行かない?」
「えっ」
人のよさそうな顔をしている男の子の口からは、この後のお誘いだった。
私は心の底から驚いた。
これが所謂ナンパという奴なのだろうか。
生まれて初めて声を掛けられた。
その事実にいつまでも驚いていると、いい加減返事がない私に男の子は手を伸ばしてきた。
私の手首を掴んで「暇だろ?」という姿は少々強引だ。
思わず手を引っ込めてしまった。
男の子は少し顔をムッとして機嫌を損ねたようだ。
「ちょっと遊ぶだけじゃん? 1人だと寂しいと思って声を掛けたのに」
そう言って、また私の方に手を伸ばしてきた。
こわい。
純粋に男の人に慣れていない私からすれば、知らない男の人が手を伸ばしてくるだけでも、相当恐怖だ。
それだから、身体がかちんこちんに固まって動けなくて、伸ばされた手から避けるくらいしか方法はない。
段々男の子の表情も険しくなってくる。
その時。
「1人じゃないから」
男の子の手は空中で別の手に掴まれたのだ。
男の子も私も、突然ふってわいた手の先を見つめ、それから絶句した。
そこにはいる筈のない人が、眉間に皺を寄せて、男の子を睨み利かしていたからだ。
「あ、我妻、くん」
名前を呼んだけれど、我妻くんは全然こっちを見てくれない。
ずっと視線は男の子に向かっている。
男の子は流石に状況を理解したのか、掴まれた手首を振り切って「連れならさっさと言ってよ」と言いながらどこかへ歩いて行ってしまった。
そこに取り残されたのは私と、何故かそこにいる我妻くんだけ。
ハッとなって足元に転がしていたカバンを持ち、私はそそくさと椅子から立ち上がり逃げようとした。
が、それも手首を掴まれ、また同じ椅子に座らされてしまう。
さっきまで男の子が座っていた場所に、我妻くんが座って、じとっとした視線を向けてくる。
逃げたい。猛烈に。
何でこんなところに居るの。
どうして助けてくれたの。
何で隣に座るの。
聞きたい事が山の様に出てくるけれど、私はどれから口にしていいの分からない。
ただ勘違いはしてほしくなくて、弁明のために口を開こうとした。
「何で?」
その前に我妻くんからは不機嫌な一言が繰り出される。
私は恐る恐る顔を上げて、我妻くんを見つめながら「何のこと?」と尋ねた。
「何でこんなところにいるの?」
私の聞きたかった質問をそのまま言われるとは思わなかった。
何でと言われても、何となくとしか答えられない。
少し勇気を出して、口を開く。
「気分、転換に」
……嘘。
実は、本当は、ほんの少しだけ、我妻くんに会えるかなと思った。
でも期待はしてなかった。
会えたとしても話しかけるつもりもなかったし、気付かれたくもなかった。
ただ、我妻くんと遊んだあの時の気持ちを思い出したかった、だけ。
「じゃあ…私はこれで」
用はない。
さっさと我妻くんの視界から消えないと。
私は今度こそ立ち上がりその場を離れた。
小走りでゲームセンターの扉を抜けて、外に出る。
「はあ」
大きく深呼吸して、ほっと胸を撫でおろした。
「待って」
もう振り切ったと思ったのに。
後ろから近づく声に私はまた動けなくなってしまった。
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