03





竈門くんは本当に通りかかっただけのようで、そそくさとどこかへ行ってしまった。
残った私と我妻くんでお昼ご飯を食べ、あっという間にお昼休みの終了。
もっと彼らの話を聞いてみたかったなと思う。
まるで恋バナする女子みたいで、ワクワクしているのは内緒。
口に出したら嫌な気分にさせてしまうかもしれないからね。

教室に戻る時、我妻くんが何か緊張したような顔で、チラチラと何度もこちらを見る。
何か気になるのかと我妻くんが喋るのを待っていたけど、いくら待っても意味深な視線しか飛んでこない。
いよいよ私から尋ねようかと思っていた頃。
やっと我妻くんの口が開いた。

「名前ちゃん、あのさ…今日帰りにどっか寄らない?」

少し視線を外して、俯きがちで言う姿。
あ、もしかして竈門くんたちも一緒なのかな。
我妻くんたちの仲間にさせて貰えたようで、お誘い自体は凄く嬉しい。
勿論断る理由はないから「いいよ」と微笑んだ。
それを見て嬉しそうな顔をした我妻くんは「ありがとう」と照れくさそうに笑った。

お昼からの授業も始まった。
お腹がいっぱいだから、いい感じで眠気が私を襲う。
一応真面目な生徒なので、私は寝ることはしないけど、眠いものは眠い。
そう言えば、我妻くんはたまに授業中に眠って、各々の先生にしばかれているところを見た事があった(主に冨岡先生に)。
今日も寝ているんだろうか、と我妻くんの席の方に視線を飛ばした。
寝ている時は机に突っ伏して、鼻ちょうちんを作るから皆にバレバレなんだけども。
今日は、起きていた。
我妻くんの金色の髪が机の上に無かったからだ。

だけど、それだけじゃなくて。

我妻くんの視線が私の方にあったから、一瞬ドキっとした。
バチっと私と我妻くんの視線がぶつかる。
まさかこっちを見ているなんて思ってなかったから、凄く驚いた。
目があった瞬間に慌てて視線をずらしたけど、我妻くんにはバレているだろうね。
恐る恐るもう一度我妻くんを見ると、なんとまた目が合った!
ここまで来ると流石に私も恥ずかしくなってくる。
頬に僅かに宿る熱がバレないように、頬に手を当てて黒板の方を見た。
我妻くんからしたら、こんなに見られて迷惑だろうに。
本当に申し訳ない…。
ただ起きてるか気になっただけなんだ。

その後は我妻くんの方を見ないように、放課後まで過ごした。

ーーーーーーーーーー

「じゃあ、行こうか」

我妻くんがわざわざ私の机までやって来て、ニコニコと笑う。
本当に嬉しそうだ。
そうだよね、人の目を気にせず好きな人と過ごせるって、きっと凄く嬉しいよね。
残念ながら私には好きな人がいた事なんてないから、その気持ちは分からないんだけど。

それでも我妻くんの嬉しい気持ちが私に伝染したようで、思わずこっちまで微笑んでしまう。

「名前ちゃんって、ゲーセンとか好き?」
「あんまり行ったことないんだよね」
「そっかー…ゲーセン行こう思ったんだけど、どうかな?」
「いいよ、私も行きたい!いつも皆で行くの?」
「偶にね。伊之助と一緒に行ったら、筐体壊しそうななくらい暴れるからさ」

凄く自然な感じで竈門くん達のことを聞けた。
よしよし。
お昼の時のように会話に困ることも無く、2人で当たり障りない会話をする。
その間に靴に履き替え、校舎を出ていく。
会話に夢中になっていて、私はその時気づいていなかった。
竈門くん達と合流していない事に。

「あれ?」
「どうかした?」
「…ううん」

やっとその事実に気づいたのは、繁華街に足を踏み入れた時だ。
思わず口に出してしまうくらい驚いた。
だけども竈門くん達が居ないことを口にしたら、我妻くんが気を悪くするかもしれない。
きっとそのうち合流するだろうと、思い直すことにして、私は我妻くんについて行く。

我妻くんは何かに気づいたように、口を開きかけては閉じてを繰り返している。
また、何か言いたいことがあるんだろう。

「歩きにくい、よね」
「え? そんなことないよ」

我妻くんの歩幅は、私なんかよりも大きい。
加えて歩くスピードも早いから、私は少し小走りで我妻くんについていた。
それに気づいた我妻くんが、申し訳なさそうな顔をして、スピードを緩める。

「ありがとう」

私に気を使ってくれた。
こちらこそ申し訳ないなと思ったけど、ここはお礼を言っておく。
すると我妻くんは少し顔を赤くして「…あの」とまだ何か言い足りないよう。

「手を、繋いでもいい?」
「誰と?」

言われた瞬間、誰に言ってるのかと思って首を傾げた。
酷く驚いた顔で我妻くんが私を見る。

「…名前ちゃんしかいないんだけど…」

くす、と笑って私に右手を差し出す我妻くん。
え?え?

差し出された手を見つめて、本気で驚いた。

「わたし、と?」

何で?と、口にしてしまいそうだった。
ハッとなって周囲を見渡す。
周りには同じようなカップルがあちらこちらに居て、手を繋いだり、腕を組んだりして歩いている。
そ、そういうことかぁ!

一応私と我妻くんは仮初とは言え、カップルだった!
今は竈門くんもいないし、周囲にカップルだと見せつける為にも必要なのだろう。
流石に竈門くんの前で手を繋ぐ勇気はない。

だけども私自身、男の子と手を繋いだことなんて無い。
いくらフリだとしてもどうやって繋げばいいのか分からない。
なので、差し出された右手の制服の袖をちょんと摘んだ。

「…袖だけど」
「ひ、人と手を繋ぐの慣れてなくて…」
「まあいっか」

少し思う所はあるようだけど、我妻くんはにこりと笑って、私の横を歩き始めた。
恋愛経験値が少ないので、とりあえずこれで我慢してほしい。

我妻くんの袖を摘んで数分。
プリクラが表に出ている小さなゲームセンターに到着した。
中は学生がちらほら。
竈門くん達、いるかな?

自動ドアに目を向けていたら、我妻くんが「こっち」とプリクラ機の前に誘導する。
ん?もしかして…?

「プリクラ、一緒に撮ろうよ」

恥ずかしいのか頬を赤らめている姿は、今日何度も見たけれど。
私だって緊張するんですがそれは!
我妻くんが(私のフィルターでは)優雅にプリクラの暖簾を捲っている。
慣れている…!我妻くん!
竈門くん達とプリクラを撮ったことがあるんだろうか。

「ぷ、プリクラ慣れてないけどいい?」
「プリクラに慣れてないってどういう事」

JKあるまじきだけど、プリクラで証明写真並のクオリティしか生み出したことは無い。
ラクガキなんて、何書けばいいの?

引きつった顔でブンブンと首を横に振る。
何が楽しいのか分からないけど、それをケラケラと屈託のない顔で笑う我妻くん。

「大丈夫、一緒に撮るだけだよ」

なんだか積極的にも思える我妻くんの腕に引かれ、私は暖簾の向こう側へ。
慣れた手つきで我妻くんが小銭を入れて、スタート。

「ほら、笑ってよ」
「……」

パシャリ、とフラッシュが過ぎった。
笑ったよ?一応ね。
まあ、見てみなよ、不自然な笑みだけどね。

それを見てまた我妻くんが笑うんだけどさ。


私じゃなくて竈門くんと撮ればいいのに、と胸の中で呟いた。
そしたらきっと、もっと楽しいよ我妻くん。



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