04



「そんなに睨みきかさなくてもいいんじゃない?」
「……うーん」

我妻くんがくすくすと笑いながら、ジュースを口に含む。
私は先ほど撮ったプリクラを眺めながら険しい顔だ。
それもそのはず、だってこんな不自然な表情でプリクラを撮る女子なんていないだろうから。

プリクラを撮った後、暫くゲームセンターで過ごして、少し疲れたなと思っていたら、
我妻くんを気を利かせてくれて近くのハンバーガー屋さんに来たところだ。
空いたテーブルに二人で座って、注文したポテトとジュースを摘まむ。
そして冒頭に繋がるという訳である。

「すっごく不細工」
「よく言うよ」

自分の顔を見て眉間に皺まで寄ってしまう。
あれだけ緊張して撮ったプリクラ。
勿論それは表情にバッチリ出ていた訳だから、そう言いたくなるに決まってる。
何が楽しいのか我妻くんは私の一言を、笑いながらまるで否定するように言った。

「俺はそう思わないよ、名前ちゃんは…その、か、可愛い、し」

じゅーっとストローを口に含んだまま、私から目線を逸らして言う姿に、少しときめいてしまった。
初めて男の子に可愛いって言われた気がする!
純粋に嬉しくなって「ありがとう」と微笑んだ。

…それにしてもだ。
私と我妻くんが繁華街に来てから1時間30分は経っている。
いつになったら竈門くん達と合流するんだろうか。
トレーに寝かされたポテトを拾って、口にぱくりと放り込む。
もうそろそろいい時間帯である。言うなれば帰る時間帯。
私がこっそり思い詰めていると、我妻くんがそれに気づいて「どうしたの?」と優しく問いかけてくれた。
何と言えば角が立たないだろうか、と悩みつつ口を開いた。

「い、いや…いつになったら竈門くん達と合流するのかなって思って」
「炭治郎達?なんで?」

遠回しに聞こうとしたけれど、いい言葉が思いつかなかったので、正直に尋ねた。
案の定、我妻くんは少しだけ険しい顔をして、私を見る。
やっぱり適当な事言っておけば良かった。
我妻くんだっていい気はしないはずなのに。

損ねてしまった機嫌を直してほしくて、頭の中で言い訳を必死で考える私。

「えっと…皆で居る方が楽しい、から?」
「……俺と一緒じゃ、楽しくない?」

適当に口にした言葉を聞いて、我妻くんの表情が一瞬で変化する。
それはどこか悲しげで、見た瞬間にしまった、と思った。
首を盛大に横に振って「違う違う違うの!!」と否定する。
我妻くんが悪いように聞こえてしまった。
違うんだ、ただ私は私なんかと一緒じゃなくて、竈門くんと一緒の方が我妻くんは楽しいだろうと思ったから。

「今も楽しいんだけど、ほら…大人数の方がもっと楽しいというかなんというか」
「……そう」

すぅっと我妻くんの目が細められる。
やらかした、やらかしてしまった。
もっと気を利かして発言すればよかった。まるで竈門くんと遊びたいと言っているようなものだし。
我妻くんからすれば相当気が悪いだろう。
さっきまでニコニコと笑ってくれていた我妻くんが、無表情で何も喋らなくなってしまった。

これはいよいよまずい。
彼女役をおろされることになるかもしれない。
…まぁ、それは別にいいっちゃいいけれど、折角我妻くんと仲良くなれたから寂しい気はする。
こんな私とこうしてフリだけでも遊んでくれる、そんな奇特な人だし。


「思ったんだけど、名前ちゃん」
「は、はいっ」


抑揚のない声が放たれた。
私は思わず背筋がピンとするくらいの衝撃を受けて、泣きそうになる。
コトン、と我妻くんがジュースをテーブルに置いた。


「もしかして、炭治郎の事、好き?」


細められた目がそのまま私を射抜く。
言われた言葉が耳に入った瞬間に、私は食い気味で口を開けた。

「ぜんっぜん」

勿論本心だ。
いい人だとは思うけれど、竈門くんには恋愛的な好意は一切ない。
だって我妻くんの彼氏なんだから、おいそれと好きになる筈がない。
そこを勘違いされると我妻くんからすれば、私はとんでもない女だ。
全力で否定する私に、我妻くんはポカンと口を開けて数回瞬きをした。

「本当に?」
「もちろん!…それに(仮にも)私は我妻くんの、彼女だし」
「……うん」

必死で否定したのが功を奏したのか。
我妻くんは満足そうに頷いて、それから私の方に手を伸ばしてきた。
ポテトを掴んでいた手を上から握られて、そしてにこりと微笑む。

「ごめん、嫉妬してるんだと思う」
「ううん、私も紛らわしい事言ったから…」

そりゃ嫉妬しますよね、ですよね。
一瞬背中に冷たい汗が流れたよ。本当に。
でもなんとなくだけど、

こんなに嫉妬してもらえるなんて、素敵なカップルだなぁと思う。

私には縁遠い話だけれど。
いつか、そんな相手が出来たなら。
その人は我妻くんのように優しくて、嫉妬してくれるような相手なのだろうか。

漠然と思った未来予想図に私は戸惑った。
こんな事、今まで考えもつかなかった。
きっと我妻くん達を見ていて、羨ましいと思ったからだね。
本当に素敵な、人達。
はぁ、恋っていいなぁ。


チクリ。


その時感じた胸の痛みに、私が気付いたのはかなり後になってからだった。



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