楽しい時間もあっと言う間に過ぎていく。
真夜中近くまで大騒ぎしながら行われた結婚式は、私の胸の中に大切な思い出として残して終わりを告げた。
お家に来てくださった皆様にぺこぺこと頭を下げてお見送りをした後。
あんなに騒がしかった屋敷には私と善逸さん、ただ二人だけとなった。
最後の最後まで藤乃さんと宇髄さんたちが居て、お片づけを簡単に済ませたあと。
やっぱり皆自分たちのお家へ帰ってしまった。
「素敵な時間でしたね」
白いウエディングドレスと白無垢。
それを二つ横に並べて私は幸せな表情をしているに違いない。
長い時間そうしていると、ひょこひょこと善逸さんがお茶を入れてやってきてくれて、そのまま隣に腰を掛けた。
「どうぞ、花嫁さん」
「……揶揄ってます?」
「本当のことでしょ」
入籍して結構時間が経っているのに、未だに花嫁と呼ばれるのは実は少し恥ずかしい。
今日一日でどれだけ花嫁と呼ばれたかはわからないけれども。
頂いたお茶を一口。善逸さんの肩にこてんと頭を傾けた。
今までも夫婦だった、でも、確かなことは今日で私達は本当の意味で夫婦になった気がする。
大好きな人達に祝福され、そうして夫婦になった。
これが幸せでないはずがない。
「いつ死んでも、いいくらい」
ぽつりとドレスたちに視線を落としながら言うと、隣の善逸さんはすぐに「だめ」と反論する。
それが嬉しくて、私は口元を緩めた。
「…真琴ちゃんが死んだら、会いたい人に会えなくなるよ」
「そうでしたね。私は長生きしなければいけないんでした」
「……俺と一緒に死んでくれるんじゃなかったっけ?」
「気が変わりました」
「酷いよね、ほんと」
じゃあ、俺も長生きしないとなーと呟いて、ずずとお茶を口に含む善逸さん。
勿論長生きしてもらわないと。
ずっと一緒に、歳を重ねていきたいから。
「ねえ」
善逸さんが、お盆の上にお茶を置いてこちらを見る。
私も上目遣いでそんな善逸さんを見つめる。
「真琴ちゃんの、生まれた時代の話が聞きたい」
「……あら、珍しい。今まで聞いたことなかったじゃありませんか」
「俺は、真琴ちゃんのこと、知っているようで知らないんだよ。これから先、ずっと一緒にいるために色んなことを共有したいって思うから」
「別に共有しなくても、あと数十年経てば似たような時代になりますよ」
「意地悪しなくていいから」
ピン、と額を軽くデコピンされて、善逸さんがくすりと笑う。
私もつられて笑ってしまった。
「私だけじゃなくて、善逸さんの昔話も聞きたいんですけれど」
「俺の…? 何にも面白くないけど」
「聞きたいんです。どんな悪い女性に引っかかったのか、とか。お友達はいるのか、とか」
「…旦那様に失礼じゃない?」
私の手からお茶をすっと取り上げて、お盆の上に置かれてしまった。
そして、気が付いたら善逸さんによって肩を押されて、そのまま畳の上に寝かされていた。
あ、と思った時には善逸さんに抱きかかえられ、そのまま持ち上げられる。
「寝室でゆっくりお話ししようか?」
ニヤリ、といやらしく笑う顔を見て、決してお話合いで済むはずがないと確信した。
それでも悪い気はしないのは、少なからず私も善逸さんと同じことを考えているから。
胸の前にあった手をそっと善逸さんの首に回して、ぎゅうっと抱き着いた。
「おっと」と言いながら一瞬ふらりと身体が不安定になったけれど、すぐに立て直す。
「今日は甘えてくるね、どうしたの」
「善逸さん」
「ん?」
どこか余裕のある善逸さんの表情を、ほんの少しでも変えてみたくて。
私は善逸さんの首元に顔を埋めて、それから小さな小さな声で呟いた。
「愛しています、善逸さん」
言葉にして数秒。
善逸さんの反応がなかったので、埋めた顔をそっと上げて善逸さんの見た。
その表情を見て懐かしさを覚えたのは内緒だ。
「あら、こんなところにリンゴが」
「うるさい。この後覚えててよね」
プイっと顔を逸らしても、耳が赤いのは隠せていない。
善逸さんにお姫様抱っこをされたまま、私は寝室へ連れて行かれてしまい、額に薄っすら青筋を見せた善逸さんに、朝まで可愛がられたことで、当分は「愛してる」なんて口にはしないと決めたのだった。