「いらっしゃい、カナヲちゃん、禰豆子ちゃん」
「お邪魔します」
「いつ見ても素敵なお屋敷だね〜」
玄関先で可愛らしい洋服に身を包んだカナヲちゃんと禰豆子ちゃんを出迎え、私はそのまま奥の客間へ案内する。
今日は久しぶりに二人が遊びに来てくれたのだ。
アオイさんは残念なことに、今日は所用で来られないそう。この前も会ったところだけれど、残念だな。
本当ならば炭治郎さんや伊之助さんたちもお誘いする予定だったのだけれど、善逸さんが「俺のいない間に野郎を呼びすぎじゃない!?」と反論したため、無くなってしまった。
……本当は自分も会いたいから、怒っていることは百も承知である。
案外可愛らしいところもあるのだとほくそ笑んだ。
「今日は来てくれてありがとう」
客間の座布団の上に座ってもらって、用意していた茶菓子を目の前に広げる。
禰豆子ちゃんはさっそく目をキラキラさせて茶菓子と私の顔を交互に見つめる。
「これ、金平糖? 可愛い!」
「善逸さんが買ってきてくれたの」
「そんな大切なもの頂いてもいいの? 真琴ちゃん」
「いいのいいの。善逸さんだって、女の子に食べてもらうのは大歓迎なんだから」
そう言って二人に微笑めば、カナヲちゃんと禰豆子ちゃんは苦笑いを浮かべてお互いの顔を見る。
どことなく異様な雰囲気に私は小首を傾げた。
私、何か変なこと言ったかな?
「どうしたの…?」
「ううん、なんでもないよ、真琴ちゃん」
「だったら、いいんだけど」
どことなく気まずい雰囲気の中、新しい茶葉も出してきて、私は出来たお茶を二人の前にことりと置いていく。
二人は先ほどと同じような顔でお茶に口をつける。
やっぱりどこかおかしい気がする。
禰豆子ちゃんはとてもわかりやすいんだけれどなぁ。
カナヲちゃんは昔、表情の変化があまりなかったらしい。そんなカナヲちゃんを癒してくれたのは言わずと知れた炭治郎さん。
だから、最近はころころ表情を変えてお話してくれるから、カナヲちゃんの表情の裏に何かがあるのか勘ぐってしまう。
「…ねえ、二人とも本当にどうしたの? 何か変だよ」
目を細めて二人をじーっと見つめてみると、最初は二人は首を横に振っていたけれど、私があきらめずにずっと見つめるものだから、最終的には禰豆子ちゃんが溜息を吐いて、正直に口を開いてくれた。
それを聞いた私は、完全に凍り付いてしまったのだけれど。
◇◇◇
「……善逸さんがいつも何処に行っているか、って?」
「うん、そう。真琴ちゃん、知ってる?」
「知ってるも何も、この前だって作業場にお邪魔させてもらったし、お外に働きに出ているよ?」
「…そ、そっか」
カナヲちゃんと禰豆子ちゃんは眉を顰めて、私と同じように首を傾げた。
お互い、何が起こっているのか分かっていないのだろう。
そこでカナヲちゃんが決心したように、小さく口を開いた。
「あのね、私達、さっき見たの」
「見たって、何を?」
「真琴ちゃん、落ち着いて聞いてね」
今度は禰豆子ちゃんが真剣な表情で呟く。
「善逸さん、赤ちゃんを抱いて女の人と歩いていたの」
「……」
言われた言葉を理解しようと試みたけれど、すんなり耳に入ってこなかった。
えっと、なんだって?
私の表情が鬼の形相になるのを目の前で見たからだろうか、カナヲちゃんと禰豆子ちゃんがあわあわと口を痙攣させ、大慌てで私の肩を掴んだ。
捕まれた私はそれでも抵抗し、鼻息荒く呼吸する。
「お、落ち着いて! もしかしたら、他人の空似かも!」
「空似って、あんなに目立つ髪色した人なんてそうそういないよ…。それって善逸さんだったんでしょ?」
「も、もしかしたら、何かあったのかもしれないし…ね!」
「善逸さん、今日はお仕事って言って出て行ったんだよ。……どこにお勤めしに行ったのかな」
どんどん自分の声色が低くなっていく。
でも、どこか冷静な自分も頭の中にはいて、落ち着くために私は大きく深呼吸をする。
……まあ、結局私は、善逸さんの事を信じているんだけれどね。
「…なーんちゃって。あの善逸さんが浮気とか隠し子とかできる人じゃないから、何か事情があると思うの」
そう言って笑うと、明らかに目の前の二人は安堵の息を漏らした。
禰豆子ちゃんなんて、わかりやすく胸を撫で下ろしている。
少し頬に冷や汗を伝ったカナヲちゃんが、こくりと頷く。
「そうだね。真琴ちゃんという相手がいるのに、そんな事するとは思えないね。まるで身内を守ろうと威嚇する野生動物そのものだもの」
「…確かに、昔は善逸さん、真琴ちゃんに酷い事をしていたけれど、今は絶対にないってお兄ちゃんが言ってたっけ」
「酷い事…?」
「ほら、女の子に求婚したりとか」
「……」
確かにカナヲちゃんと禰豆子ちゃんの言う通りだ。
あの人は私に男の人が近づくだけで今にも噛みつきそうな顔で睨んでくるし、昔は他の女の子のお尻を追い駆けられたりしたけれど、最近はむしろ。
……いや、余談だった。
ともかく、善逸さんが浮気なんてするはずない事は分かっているので、何かの間違いだろう、と三人の中で一致した。
そんな話題をいつまでも引きずるわけにはいかないから、すぐに近況報告という恋バナで花を咲かせたけれど、他の話をしている間も私の胸の中はモヤモヤが広がっていた。
信じている、信じているけれど、でも。
善逸さんがよその人と一緒に歩いているなんて、想像もしたくないな。
善逸さんの事を言えないくらいに、私は独占欲が強くなってしまったらしい。
「…いやだな」
二人に聞こえないようにぼそりと呟いた。