05. 子供の見ている前です

残念だけどもこうなった善逸さんを止める方法なんて、ほとんど存在しないだろう。
私だって下手に間に入ってやけどを負いたくないのが本音だ。
ほんの少し、彼らには同情してしまうけれども。

「お、おいっ!」

ズザ、と途端に後ろへ下がる男たち。
同時に善逸さんが一歩前に出る。
ポキポキと拳を鳴らしながら近づく様は、悪人のようだ。

「…ふざけんなガキがぁッ!!」

一番前に居た鎌を持つ男が、大きく振りかぶりながら前に出た。
表情は先ほどと打って変わり、脂汗が流れ、青ざめている。
あ、と思ったときには男の鎌は空中で止まっていた。
善逸さんは背中に私の短刀を刺し、片手で男の鎌を止める。
ぴくりとも動かない鎌、男の表情は青いのを通り越して白くなっていた。

「んなにしてんだ!」

後ろで見ていた男が声を掛ける。
傍から見ればただ二人とも動きを止めているだけに見える。
だけども、その鎌は前に押し出すことも、後ろに引くことも出来ないはずだ。
それだけあの人の腕っぷしは強いのだ。

「…よっわ」

ぼそりと呟かれた言葉。
それが耳に入ったのだろう、鎌を構えた男は舌打ちをして「ガキィイッ!!」と声を上げた。
一瞬、鎌が動いた。
だけど、一瞬だった。
動いた鎌は華麗な手さばきによって、地面に弾かれ、弾かれた鎌を追った男を、善逸さんが蹴り上げた。

「ぐふ」

小屋の壁に叩きつけられた男は小さく呻いて、そのまま崩れ落ちた。
死んではいないとおもうけれど、残念なことに意識はないだろう。

あと残り、二人。

大柄の男の前に居る身体の小さい男がビクビクと肩を揺らす。
次は自分の番だと理解しているようだ。

「おい、やっちまえ!!」

大柄な男が余裕のない声を出し、前に立つ男を奮い立たせる。
が、残念なことに声を掛けられた男は、そのまま手に持つこん棒を地面に落として、大柄な男の横をすり抜け駆けていく。

「む、無理だぁあああ」

背中しかみえなかったけれど、その逃げ足はとんでもなく情けないものだった。
昔善逸さんが旦那様との修行の時に逃げ回っていた様子よりも。

最後に残るは大柄な男ただ一人。
男は部下が逃げた先を少しの間見つめていたけれど、キッと善逸さんの方を睨み、腕のように太いこん棒を構える。
まだ武器があるだけ有利だと考えているようだ。

「さて」

善逸さんはすう、っと息を吸う。
脳内で警鐘が鳴り響く。
これは本気でまずい。
慌てて私は口を開いた。

「あの、早く自首した方が」
「うるせぇアマァ!!」

私の良心の一言は、切羽詰まった男の罵声により掻き消えた。
本気の本気で心配してあげたのに。
そっちがその態度なら、もう知らない。

はあ、と溜息を吐くと、さらに善逸さんの纏うオーラがどす黒いものに変化した。
私に向かった罵声でさらに怒りを増幅したらしい。
むしろ私は余計な事をしたのではないかと、頭の隅で思ったがすぐにどうでも良くなった。

この人たちに誘拐されたんだった。

あまりの惨劇にその事実を忘れていた。
犯罪者は皆死なずとも、イイ感じに懲らしめられればいい。
結構私は薄情だと思った。

「あああああ!!」

男は大声を上げながら、善逸さんに向かって突進してくる。
身体の大きさで言えば完全に向こうの方が上だ。
まともに当たればそれなりに大変だろう。

当たれば。


案の定、善逸さんはさらりとそれを避けて、男の背中に蹴りと入れる。
そして、男は私たちの前に体を倒し、自分の身に何が起こったのかと混乱した様子で顔を上げた。
私と目が合うと、ぎょろりと動いた目が一瞬で獲物を捕らえるように鋭くなる。
ああ、私たちを盾にしようとしているんだ、と理解した。
私が女の子を抱いて、後ろへ下がる前に男の手が伸びる。
私の腕を掴み「女ァ!!」と声を上げたまでは良かった。


男の首元にはいつの間にか刃が添えられていた。
自分の首に触れる冷たい金属の感触に男は一瞬で青ざめた。


「よそ見厳禁」


それは、私に言っているのだろうか。
冷たく放たれた言葉に苦笑いを見せると、ふう、と善逸さんが息を吐く。
男はもう動くことはできない。
少しでも動けば私の短刀を持った善逸さんが、容赦なく彼の首を落とす。
短刀で人の首なんて落とせるわけがない。
が、この人ならきっと軽々とこなしてしまうだろう。

「殺してはダメですよ」

もう一度はっきり善逸さんの方を見て言うと、善逸さんはつまらなそうに唇を尖らせた。
私を見る男が怯えた表情を見せた。
自分の命の危険を今更になって理解したんだろう。

「……なんで」
「なんでもくそもありません。善逸さんは鬼狩り様でしょう」
「鬼みたいな人だっているよ」
「そんな屁理屈聞いてません」

私の自惚れでなければ、善逸さんは私を攫ったこの人たちを地獄に送ってやりたいのだろう。
それだけ愛されていると思えば、嬉しいんだけれども。
流石に自分の旦那様に人を殺すようなことをさせるわけにいかない。

「私は無事だったんですから、もうその辺で」

ね?と首を傾けて微笑むと。
善逸さんが納得いっていないという顔で、そのまま男の首から刃を外す。
その代わり、男の背中には善逸さんの足が下ろされて「ぐえ」とヒキガエルのような声を上げて、男が失神した。


「善逸さんなら、酷いことをしないって分かってましたよ」


女の子を解いて、私は男の上に立つ善逸さんに駆け寄った。
そして、その頬に手を伸ばしたら、善逸さんに手首を掴まれ、そして。

少々強引に唇を奪われたのでした。


あの、子供の見ている前なんですけど?