06. 白いお着物

男たちは見事善逸さんの手によって縛り上げられ、警察に引き渡された。
逃げた男も程なくして見つかったとか。
男たちは皆、大きな体に似合わずガタガタと震えた状態で連れて行かれたのを見て、心の底から同情した。
私と一緒に捕まっていた女の子は、すぐにご両親が迎えに来てお家に帰ることができた。
私と善逸さんに向かって大きく手を振る女の子を見ていたら、何事も無くて本当に良かったと思う。
なんやかんや対応していたら日の上っていた外もすっかり日が落ちて。
折角善逸さんとデートに出ていたというのに、あっと言う間に帰宅時間となってしまった。
善逸さんの固い手を握りながら、とぼとぼと屋敷への帰路に着く。

「どうしたの、元気ないけど」

さっきから何も言わない私に向かって、善逸さんが顔を覗き込む。
普通の女の子なら、身の危険を感じた後だと元気があるわけないのだが、生憎私は普通の経験をしていない。
これくらいの命の危険くらい、今までに比べれば可愛いものだ。
善逸さんもそれが分かっているから、私がここまで表情を暗くしているのを不思議に思ったのだろう。

「折角、善逸さんと買い物に出かけたのに、あっと言う間に一日が終わってしまいました」

自分で言ってて余計腹立たしい。
あの悪党共が悪さをしなければきっと私は今日一日、幸せで過ごせたはずだったのに。
とんだ邪魔をしてくれたものだ、と今更になって苛立ってくる。
そんな私を見て、安堵したように小さく善逸さんが息を吐いた。

「なーんだ、そんなこと」
「なんだとは何ですか!」
「だって、そんなのこれから沢山機会があるんだから、一日くらい潰れたっていいじゃん」
「……まあ、そうですけど」

沢山機会がある、という何でもない一言で、苛立っていた私の心は少し晴れた。
それは特別でもなんでもないように、いつも傍にいてくれると言われたようで。
私はボソボソと声を小さくして唇を尖らせる。

「あ、でも人攫いに会うのはこれっきりにしてね。俺だって帯刀できないんだから」
「私の努力でどうにかなります? それ」
「知らない人についていかない、知らない場所に行かない、勝手にうろちょろしない」
「まるで幼子のようなんですけど」

そんな簡単なことすら守れてないんでしょ、と善逸さんに追い打ちをかけられ、私は何も言えなくなってしまった。
でも私の手を掴む善逸さんの手は優しかった。
掌に伝わる熱に心まで暖かくなる。


「何があっても守るからさ」


私にしか聞こえない声で、そう呟かれたら。
この先に不安なんて何一つ感じることはないだろう。

緩む口元をそのままに私は少々筋肉質な腕に抱きついた。


◇◇◇


それから数日後。
善逸さんから「たまには藤乃さんのお家に遊びに行っておいで」と言われ、お言葉に甘えて藤乃さんのお家にお邪魔することにした。
家を出る直前、善逸さんから私の顔くらいの風呂敷に包まれた荷物を渡された。

「これは何ですか?」
「藤乃さんの忘れ物。しっかり届けて」

あ、中身は見ちゃダメだよ、藤乃さんのだからね、なーんて言われたから私は疑いもせずにそれをぶら下げ、お屋敷を後にした。
藤乃さんのお家に到着して早々、お屋敷から持ってきた高級茶菓子(何故か善逸さんが用意していた)をお土産に風呂敷と一緒にお渡ししたところ、藤乃さんが満足そうに頷いた。

「これは後で使いましょうね」
「後で? それは藤乃さんのものじゃないんですか?」
「いいえ、これは善逸さん…真琴さんのものですよ」
「それって、どういう…?」

にこにこ微笑む藤乃さんに向かって首を傾げても、藤乃さんは変わらずにこにこするばかり。
後で教えてくれる、とのことだったので、しばらく二人で仲良くお喋りに花を咲かせることにした。
先日の人攫いの話をしたら、それまでニコニコしていた藤乃さんが一瞬真顔になって「なんですって…?」と目を皿のように細めたので、慌てて話題を変えざるを得なかった。
藤乃さんも善逸さんと同じで偶にビックリするぐらい殺気立つ時があって、怖い。

一通り、話すことも無くなり、茶菓子も胃袋へ消えた頃。

「そろそろですかね」

と言って藤乃さんが立ち上がる。
そして、奥の部屋から上質な桐の箱を持ってきて、それを私の前に優しく置いた。

「これは?」
「ふふ、善逸さんも粋ですねぇ」

相変わらず私の疑問には答えるつもりがないらしい。
藤乃さんはそーっと桐の箱を開けた。
ぱか、と開かれた先に入っていたのは…


「お着物…?」


まるで雪のように白い、着物だった。