「……ぜん、」
いつもよりも、数倍格好よく見えるその姿に私は目を奪われるばかり。
私が名前を予防としたけれど、すぐに善逸さんに唇の上から人差し指を当てられて、先に言われてしまった。
「似合ってる」
言われた瞬間に、沸騰するように全身の血液が顔面へと集結する。
誰に言われるよりも一番嬉しい、一言。
それを一番素敵な場面で言われて喜ばない女なんていない。
思わず言葉を失ってしまった私に代わって、善逸さんが皆様の方を向き、何か挨拶をしていた。
けれど、私はそれどころではなくて、ただただ善逸さんの隣で顔を赤くするばかりだった。
ずるい、本当に。
こんな人が私の旦那様だなんて、夢みたいだ。
花嫁が顔を俯かせてばかりではダメなことは分かっていたけれど、参列してくださった方々も理解はしてくれたようだ。
途中で「見せつけてくれるじゃねーか」という伊之助さんの声が聞こえた気がした。
善逸さんと参列したお客様と一緒に盃の儀を行った。
小さなお皿の上に少量のお酒が注がれる。
「これはね、夫婦、親子の誓いで、それから皆に結婚の承認を貰うためのものだよ」
横に居た善逸さんが小声で教えてくれる。
そういう意味があったんだ。知らなかった。
夫婦としてこれからも添い遂げていく、という約束と、嫁いでも親子の絆は変わらないという誓い。
それから、私たちが夫婦として認めてもらうための、大切な儀式。
皆様に見守られて私たちは、夫婦となる。
現代の神に誓う結婚式もいいけれど、こうして周りの人たちに誓う祝言も素敵だ。
私たちには神様よりも、その方があってる。
お皿に口をつける直前、善逸さんの方を見ると善逸さんも私の方を見ていた。
二人同時にお酒を口にして、無事に儀式は終了した。
「さあ、この後は会食ですよ。皆様ご準備を」
藤乃さんの一声で、参列していた方々が一斉に立ち上がる。
そして、長テーブルをそれぞれ廊下やら、隣の部屋から持参して部屋をセッティングしていく。
私もその中に混じって手伝おうとしたけれど、すぐに善逸さんに止められてしまった。
「真琴ちゃん、君はこっち」
「…でも」
「ほら、早くしないと」
善逸さんに背中を押される形で私は部屋を後にする。
会食なのに、主役が席を外していいのだろうか。
いや、良くはないはずだ。
だけども、善逸さんは穏やかに微笑んだまま、私を連れて隣の部屋へ。
困惑しつつも私はされるがままだった。
「…あの、善逸さん」
「ん?」
「いつから計画してたんですか?」
「あぁ」
誰もいない部屋の真ん中。
やっと二人きりになれたので、私は思っていたことを尋ねた。
善逸さんは「んー」と少し考え込んだけれど、後頭部に手を置いて苦笑いを見せる。
「実のところ、俺も祝言の事は頭になくてさ。もちろん、いつかはしたいって思ってたんだけど、色々急に動きすぎて、そこまで頭が回らなかったんだよね」
「……いえ、私もそうでしたから」
「でも、愈史郎さんに『釣った魚に餌の一つや二つ、やらないでどうするんだバカが』って言われて、ちょっと考えてみようかなって思ってさ」
その言葉を聞いて、やっぱり、と私は心の中で納得した。
やっぱりあの人は私たちの背中を押してくれたらしい。
今も、これからも。
「……そうだったんですね」
胸の前で両手をきゅっと握ると、その上から善逸さんが重ねてくる。
顔を上げて善逸さんを見つめた。
「善逸さん、私、とっても幸せです」
ありがとう、と消え入りそうな声で呟くと、握られた手に力が籠った。
これ以上の幸せを毎日更新していっている。
今死んでも、何の後悔もないくらいに。
「真琴…」
善逸さんの熱がこもった声が聞こえて、私は瞼を閉じた。
自然と善逸さんの顔が近づいてくるのが分かる。
ほんの数センチで口づけが交わされる、というとき。
誰もいないはずの部屋の中から、もう一つの声が響く。
「……オイ、人を待たせるのもいい加減にしておけよ、バカ夫婦」
ピタリと私たちの身体が止まって、慌てて声の方へ視線を向けた。
扉の前で腕を組んで、超絶不機嫌です、と言った顔で立っていた、その人は。
「真田、さん?」
見事に自分の髪を整髪剤で固めてオールバックにして。
参列された方が皆和服の正装の中、彼だけが洋風の正装でその場に立っていた。
いつか、善逸さんと出かけた鹿鳴館での鬼の任務の時に、お世話になった真田さんだった。
何故彼がこんなところに、と喉のすぐそこまで出ていたけれど、私が口にするよりも先に善逸さんが口を開く。
「チッ、わざわざ雰囲気ぶち壊すことなくない?」
「うるせぇ、こっちは頼まれたから来てやったんだからな」
善逸さんはどうやら真田さんもご招待していたらしい。
はあ、と溜息を吐いた真田さんがトコトコと私たちの前にやってきて、その不機嫌そうな表情を引っぺがすように緩く微笑む。
「結婚、おめでとう」
「……ありがとうございます」
祝福の言葉に私はまた涙が出そうになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。
それにイケメンの微笑み程貴重なものはない。
眼福とはこういうことをいうのだろう。
そんな私に気づいたのか、善逸さんがまた隣で舌打ちを零した。
「時間がねーぞ、早く着替えろ」
「え、着替え?」
てっきり言葉の祝福を頂いて、それで終わりかと思っていたら、真田さんの後ろに大きな箱がいくつも積み重なって置かれていることに気づいた。
首を傾げる私に、真田さんが床の箱を一つ開けて、中からシルクの綺麗なドレスを取り出した。
「輸入物だ、綺麗に着ろよ」
言葉は乱暴だが、丁寧に私の手に渡されたドレスは、私のよく知るウェディングドレスそのものだった。