22. 若い二人の心境


あの後は、二人で他愛もない会話をしながら、屋敷へ戻ってきた。
我妻さんと別れ、自分の部屋の襖を閉じた瞬間、私は横に置いていた枕に顔面を押し付けて悶えた。

あぁぁ…私、何て言った?

何かこう、泣いてて凹んでる我妻さんを見てると、守ってあげたいなって気持ちになって。
貴方を大切に思う人が沢山いるんだよ、って事を伝えたくて「大好き」とか言ったような気がする。
それから最後に「私を守って」みたいな事言って…。

思い出せば思い出すほど顔から湯気が出てきそうだ。
いや、出てる、確実に。

何てことを言ったんだ私。

襖を背にしてすすすと座り込んだ。
この前から人工呼吸とか、藤乃さんの意味深なセリフとか考える事がいっぱいあって、頭がパンクしそう。
帰り道もドキドキしていて、平常心を装うのに必死だったし。(何て喋って帰ってきたっけ?)
素知らぬ振りをして別れたけど、我妻さんにはこの心臓の音、バレてるかもしれない。

誰も居ないのに、思わず両手で顔を隠してしまう。
恥ずかしい。こんな事誰にも今まで言った事ないよ。

そりゃ、我妻さんを好きとか言われれば嫌いではないし?
嘘は吐いていないんだけど、家族とか、旦那様とか、藤乃さんに対する好きと同じはず、だよね?


本当に?


あぁ、もう…やっぱり馬鹿なのは、私の方じゃん。
自覚しつつある気持ちを簡単に受け入れられるほど、私の恋愛経験値は高くないのだ。
明日から、どうすればいいの。
恥ずかしくて、我妻さんの顔見たら干上がりそうだ。



◇◇◇



名前ちゃんの話は今まで聞いた事が無かった。
どこに住んでたとか、家族はどんな人かとか、分かれて暮らす理由とか(聞いてもはぐらかされていた事もある)。
俺が孤児だから気を遣ってんのかなって思って、それ以上詮索しなかった。

それでも俺が弱気になって彼女に胸の内を零したら、成り行きで教えてくれた。
想像以上に重くて深刻な話だった。
彼女が家族に会いたいと泣いた理由を初めて俺は理解した。

ある日突然見知らぬ土地に連れて来られて。
この時代の知識なんて無いから、爺ちゃんに頼んで住み込み女中をしてきたんだ。
「諦めてる」と言いながら笑った彼女は、とても痛々しかった。
ずっと帰りたかったはずだ。本当は今も。
始めて泣き顔を見たあの裏で、そんな状況だったなんて全く知らなかった。

彼女は嘘を吐いていない。
音を聞かなくても、わかる。

名前ちゃんの話を聞いて、如何に自分の事しか考えてないか、身に染みて分かった。
女の子に慰めてもらうなんて、情けないな俺。
名前ちゃんの方が何倍もつらい筈なのに。

そしてもう一つ気になるのは、俺が名前ちゃんの夢に出てきたということ。
夢自体は幼い頃から見ているものだから、この時代に来る前から知っていたという。
何が起こっているか分かんないけどさ。

名前ちゃんは本質を理解していなかったけど。
それがもし予知夢のようなものであるならば。
俺が名前ちゃんを“守らなくちゃいけない状況”になるという事。

そうなると今のままじゃ、俺はダメだ。

自分だけで精いっぱいの状況じゃ、人を守りながら戦うなんて芸当できねーよ。

どうすればいいのか、なんて悩むほど馬鹿でもない。
やる事はわかっている。一刻も早く俺は最終選別で生き残る必要がある。


彼女を守るために。


あ、そう言えば慰めてもらってる時に「大好きな人を卑下しないで」みたいな事言われたよな。
あの時は聞き流してたけど、よくよく考えたら、大好きな人ってさ、

俺?

俺の事だよね?むしろ俺しかいないよね?


はああぁぁぁぁ!?
もう可愛いすぎない!?あの娘!!何なのもう、結婚するしかないじゃん。結婚しちゃう?

そ、そりゃぁ俺たちは口づけをした間柄(意識が無かったことが本気で悔やまれる)だし?
お互いのこと知ってるし?
何なら名前ちゃんは夢に見るくらい俺を思ってくれてるし?

あーもう結婚しよう。
明日朝一でじいちゃんに報告しよ。



結局俺は一睡も出来ず、また凄まじい隈を作って爺ちゃんに怒られた。
(ちなみに結婚報告は鼻で笑われて一蹴された)



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