持つべきものは女友達

「好きな人と両思いになる方法?」
「うん…どうすればいいのかな、のばちゃん」

お昼ご飯をつつきながら、肘をついているのばちゃんに相談してみると、のばちゃんは最初私が何を言っているのかよくわからなかったらしくポカンとしていたけれど、すぐにその整った顎がガクーンと下がって、次の瞬間には食堂中に響き渡るくらいの大きな声で叫んだ。

「…っ、ソイツ誰よ!? 好きなヤツがいるなんて聞いてないわよ!」
「のば、のばちゃん…お願いだからそんな大きな声を出さないで。みんな見てるから」
「誰よソイツ、白状するまでどこにも行かさないから!」
「お願いだから、もう少し声のトーンを下げて、お願いだから」

私の願い空しく、のばちゃんは驚きすぎて声の下げ方を忘れてしまったようだった。
正直、面前の前で叫ばれたのは恥ずかしいけれど、のばちゃんが驚くのも無理はないとは思う。
今まで色恋の話を私は一片たりともした覚えがないからだ。
雑誌なんかを見て「この人カッコいい」とかも言ってなかったから、私の口から「好きな人」の言葉が出ただけで「何それ聞いてない!」になるのはごもっとも。

やっと自分の声の大きさに気づいてくれたのか、のばちゃんは辺りをキョロキョロと見回しながら「誰よ、ソイツ」と尋ねてくる。
少しは声を抑えてくれたつもりなんだろうけれど、近くに座っていた真希さんがニヤニヤしながらこちらを見ているから、多分丸聞こえだと思う。
これは相談する相手を間違えてしまっただろうか、なんて頭を過った時、とうとう真希さんは手に飲み物を片手に私たちの席の隣へ移ってきた。

「面白そうな話だな」
「…真希さん、聞いてくださいよ!」
「聞こえてたよ」
「…ですよね」

興奮冷めやらぬと言った感じでのばちゃんが真希さんに口を開こうとしていたけれど、さっきの状況から真希さんも話を聞いていた事だけは安易に想像出来た。
もう私は溜息を吐き諦めて、私の話を待つ二人に全てを話すことにした。

「…好きな人の事を考えると、胸が苦しくて」
「うっわ。青春じゃない、甘酸っぱい恋じゃん」
「のばちゃん、お願い。茶々入れないで、恥ずかしい」
「んで、相手は誰だ?」

のばちゃんの頭にゴチン、と軽くげんこつを入れつつ真希さんが顎に手を付いて尋ねてくる。
何だか口にするのは恥ずかしいけれど、それでも相談せずにはいられなかった。
それに真希さんならもしかしたら有益な情報をくれるかもしれない、そう思ったのも間違いではない。
何故なら私の好きな人は、真希さんの近くにいる人だからだ。

「…棘先輩です…」
「棘?」
「狗巻先輩?」

二人とも一瞬驚いた顔をしていたけれど、すぐにそれも解けた。
真希さんはあらぬ方向を見ながら口元を緩め「へぇ、棘ねぇ?」と意味深な発言。
のばちゃんはというと、真剣な顔をして突然私の肩を掴むと「あり」と頷く。

「…え?」
「狗巻先輩ならいいわ。これが虎杖とか伏黒とか言われたら、考えてたけど」
「何で虎杖くんと伏黒くん?」
「名前の身近にいる男って、その馬鹿二人しかいないじゃない」
「……虎杖くんも伏黒くんもいい人だよ」

確かにのばちゃんが言うように、基本同期の二人とは仲が悪いとは思っていない。
二人ともいい人だと思うけれど、付き合いたいくらい好きかと言われると、それは違う。
……狗巻先輩とは実はあんまり話したことはないんだけれど。

ずっと黙っていた真希さんがずいっと顔を近づけて私を見る。
突然の事に驚いて、私は思わず微妙に後ろに顔を仰け反った。

「いいんじゃねーの。棘と名前、似合うよ。告白してみたら」
「む、無理無理…無理です。だってあんまり話したことないし」
「話したことないのに、好きなのか?」
「……ずっと前の任務の時に、助けてもらって」
「ほう」

あれはもう数か月前になる。
初めて棘先輩と一緒になった任務で私は下手を打ってしまった。
襲い掛かる呪霊にあわや命を奪われかけた時、棘先輩が華麗に助けてくれたのだ。
それから棘先輩を見かける度に、心臓がバクバクと音を立てて、緊張しっぱなし。
夜寝る前に考えるのは、棘先輩のことばかりになった。

「……なるほど」

また考え込むように視線を逸らした真希さんは、ふと思いついたように口を開く。

「名前は、自分から告白するタイプじゃないもんな」
「…絶対脈が無いって分かっているのに、そんな無謀なこと出来ません」
「何言ってるのよ! 自分で自分の魅力に気づかないだけよ」

のばちゃんが首を横にブンブン振りながら、私の言葉を否定してくれる。
それはとても嬉しいけれど、現実問題は結構厳しい。
…と、思った以上に長時間話し込んでいたらしい。腕の時計に目をやると、任務の集合時間まですぐだった。

「のばちゃん、時間だよ」
「あ、ほんと」
「真希さん、折角のお食事の時間を潰してしまってすみません…」
「いや、それはいいが。……まあ、いい事聞いたから、気にすんな」
「…え、ええ…? では、失礼しますね」

そう言って真希さんの横を通り、私達は任務へ。
残された真希さんの意味深な笑顔に、私は気づかなかった。


◇◇◇


「自分が何すればいいか、分かってるな?」
「しゃけ」

話の途中から私らの後ろに座っていた人物に声を掛ければ、思いのほか力強い声が返ってきた。
あの話を聞いて覚悟を決めないバカはいないだろう。
同じような相談を数日前に受けていた私としては「こいつら、付き合う前から似たもの同士だな」としか思えなかった。
お互いがお互いを気になっているからこそ、お互い話しかけることが出来ない。
私からすればバカとしか思えないが、いいんじゃないか、バカップルで。

「まあ、いい報告を待ってるよ」

ほんのり頬を染めた棘にそう言い残して、私もまたその場を立ち去ることにした。
きっと明日から棘の快進撃が始まるんだろうと思うと、それはそれで面白い。
遠く離れた所からしっかり観察させてもらうことにしよう。



「…明太子」
「あ、棘先輩。お、おはようございます」

朝起きて自分の部屋を出ると、扉の横の壁にもたれた棘先輩がいた。
不意打ちすぎてそんなところにいるとは思っていなかったから、変な顔していたかもしれない。
頬に両手を当てつつ「ど、どうしたんですか?」と聞いてみると、棘先輩はふいっと顔を逸らして、私の顔の前に一枚の紙を見せる。
その紙をよく見ると、アドレスのような文字列と数字が横に並んでいた。
これは、つまり。

「棘先輩の連絡先?」
「しゃけ」

え、なんで?
驚きながら棘先輩を見ると、棘先輩はチャックに手をかけつつ、目を逸らした。
頬はほんのり赤づいているような気がするのは気のせい…?
私がいつまで経っても紙を受け取らないから、段々棘先輩があわあわと慌てだし、赤かった顔も段々青ざめていく。
はっと気づいて、慌ててその紙を受け取った。

「ありがとうございます! 後で、連絡させてもらいます」
「……ツナ」

お礼を言うと棘先輩は分かりやすいくらい安心した顔を見せて、私の頭をポンポンと撫でた。
そしてすぐにその場を去ってしまったけど、残された私の頬は未だかつてないほど、頬と撫でられたところが熱を持っていた。


「ど、どうしよう」


その後、棘先輩に連絡をしたら。
メッセージを送ればすぐに既読になる上、楽しい話を良く振ってくれてとても楽しかった。

でもその日の晩、送られたメッセージを見て、私は部屋の中で悶絶することになる。


『話したいことがあるから、部屋に行ってもいい?』


ああ、神様、のばちゃん様、真希様。
相談する相手を間違えたなんて言ってごめんなさい。
貴方達に相談してから、私の運気がメーター振り切っている。



持つべきものは女友達



取り合えず棘先輩が来るまで、のばちゃんと真希さんに鬼メッセ送っておこう。





あとがき
まるさま、リクエストありがとうございました!
本当なら先週書き上げているはずが…。
不幸に見舞われて今日になってしまいました、ごめんなさい(´;ω;`)
女子ーズに相談したら、次の日には解決した、というい話でした。
朝起きて部屋の外に人が居たら、叫ぶ自信ある……。
こんなものでよければお納めください!
この度はありがとうございました!
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