時間よ、早く過ぎて

さっきからずっと探しているのに、見当たらない。
普段は呼んでもないのに現れるのに、本当に勝手な人だ。
思い当たるところはもう探したし、虎杖達に確認して高専内に居ることはわかっているのに。
もう一度教室を覗いてみようかな、と思って通り過ぎた空き教室。
見慣れた人影が見えた気がして、私は慌てて歩を戻し扉の隙間から覗いてみると案の定。
茜色の陽の光を背景に、探していたその人は窓の外を眺めていた。

「やっと見つけましたよ」

もう、と言いながら教室に入ると、その人は振り返ることなく「僕を探してたの?」とぽつり。
だからそう言ってるじゃないか、なんて思いながらも「そうですよ」と言うとやっとその人、五条悟は振り返った。
相変わらず何を考えているのか分からない飄々とした笑いを顔面に貼り付けて。

「さっき、伊地知さんが探してました」
「ああ、そう。まあいいよ、どうせ大したことないでしょ」
「それは知りませんけど」

表面上はいつも通り変化ない態度だけど、何となく私にはわかる。
私に気遣っていることくらい。

「……先生、私に気を遣うのやめてください」
「んー? 何の事?」
「気を遣って貰うくらいなら、あんなこと言わなければ良かった」
「…んー」

ポリポリと自分の頬を掻いて、私とは違うところに視線を飛ばす先生。
巷では最強の呪術師と呼ばれている彼も、こんな様子は少し子供っぽく感じる。
……まあ、困っちゃうのはその通りだと思うんだけどね。
私、この前先生に告白したし。

元々玉砕すると分かっていた。
だって私と先生は生徒と教師の関係。
いい大人ならば、一生徒の告白を受け入れるなんてこと、しないはずだから。
だから先生も「ごめんね」と言って、その場はそれでおしまい。
私もそれで終わりにするつもりだった、のに。

「どこがいいのよ、僕みたいなオジサンなんて」
「それ聞きます? きっと先生の耳が痛い話しか出ませんよ?」
「……やめとく」

はあ、と重めの溜息を吐いて、先生が近くの机の上に座った。
思わずお行儀が悪いと口にしそうだったけれど、そんな様子が絵になってて見とれてしまった。
まだまだ諦めるには少し時間が足りないみたい。

最初は何とも思っていなかった。
当たり前、だって先生と生徒なのだから。
でも気づいてしまった。先生は強くてたまに冷酷だけど、それでも優しい人だという事に。
私達を守るために奔走してくれていたとか、ふとしたことで安心してしまうこととか。
我儘にも、それが全部私だけのものになればいいな、なんて思ってしまった。

『名前は、本当に僕の事が好きだね』

普段通りの会話をしていたある日。
ふと先生がそんなことを言った。
それは先生にとっては普段の会話と変わらない、日常会話の一部だったのかもしれない。
私はその時、へらっと笑って「きっしょ」とでも言っておけば良かったのだ。
なのに、言えなかった。
言葉を失って、そのまま呆然と自分の手元を見つめてしまった。
その反応に先生が気づかないはずもなく。
なし崩し的に「そうだよ」と言ってしまった。

あの時の事を思いだしたら胸が痛んだ。
やっぱり、まだまだ時間は必要だ。
いつまでも先生のところに居ては、それも難しい。

「じゃ、私の用事は終わりましたので、皆のところに戻りますね」
「うん、ありがとう」

くるりと身体を反転させて、そのまま扉に手を掛けた。

その時だった。


「僕の事が好きだと言う割には、やたら悠仁と仲良いね」


驚いて慌てて振り返った。
振り返った先にいた先生もまた、自分の発言に驚いていた。
そして自分の口元を手に当てて、視線を泳がしている。

「…そりゃ、同学年ですから」
「あー…うん、わかってる」
「私が他の人と仲良くしてたら、気になりますか?」

恐る恐るそう尋ねてみた。
危険な賭けだ。
「全然」なんて言われた日には、もう寮の自分の部屋から出たくなくなってしまいそうだ。
なのに、先生は何も言わなかった。
何も言わないで、泳がしていた視線をゆっくり私に合わせた。

それって、期待してもいいってことですか?

じんわり心の傷に染みる、暖かい風。
勿論本気にしちゃだめだってことくらい、わかっているのに。
どうしても自分にいいように考えてしまう。
それもこれも先生の所為だ。

「……あー…しくった」
「今なら聞かなかった事にしますよ」
「…いや、覚えていて」
「え?」

先生はするりと自分の目を隠していた布をはぎ取り、その綺麗な青い瞳で私を見る。
ドキリと心臓が跳ねた。
ずるい、そんな目で見ないで欲しい。

見つめあう私たちの間に少しばかりの沈黙が流れる。

そして、


「…早く卒業してくれないと、僕の方が我慢できなくなる」


先生は立ち上がり、私の横を通り過ぎていく。
すれ違い様に私の頭をぽすんと撫でて、教室を出て行った。
残されたのは、顔面を赤くして身体が氷のように固まってしまった私だけ。




時間よ、早く過ぎて




早く大人になりたい時はどうしたらいいの。






あとがき
万里さま、リクエストありがとうございました!
教師×生徒!!!! もうこれは鉄板美味しい設定ですよね(興奮)
というわけで、以前何かあった感じの二人を書いてみました。
ごじょせん視点を書けばよかった…書きたかった(笑)
いやぁ、いいですよねぇ教師←
こんなものでよければ、お納めくださいませー!
この度はありがとうございました!
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