何だ、今頃気付いたのか、バカ娘

この鬼殺隊と呼ばれる組織に加入して、数か月が経たった。
決して生半可な思いでやっていけないと加入する前から分かっていたのに、想像以上に大変な毎日を送っている。
そんな中でもこうして生きて帰ってこれる日々の中に幸せを感じていた。
嬉しいことに周りの人達は皆親切で、頼り甲斐ある先輩たちがいてくれて本当に良かったと思っている。
なのに、その中で一人だけ目の上のたんこぶ的な人が一人。

「うわ、名前かよ」

今にも舌打ちを零しそうな声で私に向かって冷たい言葉を放つ男。
私より一年先に鬼殺隊に入隊した我妻善逸だ。
この男、私以外の女子にはメロメロずっきゅんな対応をするくせに、私にだけ苛立ちを含んだ対応で出迎えてくる。
そんな事をされて私も好むはずないので、お互いに顔を合わせれば目を細めて殺意を飛ばしあう。

「どうも」

無駄な会話をしたくはない。
任務後に寄った蝶屋敷の廊下ですれ違ったとは言え、同じ敷地内にいるのも嫌だ。
だから、適当に会釈をしてその場を立ち去ろうとした。
が、我妻さんの後ろに見えた見慣れた羽織に気づいて慌てて声を上げた。

「炭治郎さん」
「名前、久しぶりだな」

我妻さんの後ろでにこりと優しく微笑む竈門炭治郎さん。
この人は我妻さんと違って聖人のようなお人だ。
何故か分からないけれど、こんな我妻さんと仲がいい。
本当に何故かは分からないけれど。

失礼な事を考えていたのだが、それが手に取るようにわかったのか、目の前の我妻さんが更に険しい顔を見せる。
嫌ならさっさとどこかへ行けばいいのに、と思いながら炭治郎さんの方へ向き「お元気でしたか?」と笑顔を見せた。
炭治郎さんはこくりと頷いて「名前も元気そうだな」と言ってくれる。
この穏やかな時間が好きだ。

「炭治郎、コイツと話してたらバカがうつるよ」
「……バカですみませんね」
「善逸」

もう苛立ちを全く隠そうとせずに零す言葉に、私も眉間に皺を寄せる。
炭治郎さんが咎めるように声を上げたが我妻さんは無視だ。

「名前、俺たちはしのぶさんに呼ばれているから行くね。またあとで」
「はい、また」

あまりの我妻さんの態度に炭治郎さんが気を遣って引き剥がしてくれたのだろう。
善逸、と声を掛けて廊下を進んでいく炭治郎さん。
その後ろを我妻さんがこちらを見てチッ、と一つ舌打ちをして炭治郎さんについていく。
最後までムカツク人だ。その背中に恨みを込めて睨みつけていたら、炭治郎さんについて行ったはずの我妻さんが立ち止まり、くるりと身体を翻して私に近づいてくる。
今度は何だ、と我妻さんを見ていたら奴は私に近づいてきて、


「炭治郎相手に顔緩みすぎじゃない? その顔嫌い」


とだけ言ってまた炭治郎さんの後をついて行った。

余計な一言を残していく天才だな、とその背中を見て思った。


◇◇◇


「何の用でしょうか、我妻さん」
「何、俺が居たらいけないの」
「……」
「否定しろよ」

暫く蝶屋敷でお世話になることが決定した私は、あまりに暇を持て余していたため、アオイさんたちのお手伝いを申し出たけれど、何のための休養なんだと逆に叱られてしまい、何かをすることを禁止されてしまった。
余計に暇が加速したので、こうして縁側で素敵なお庭を眺めていたところ、リンゴを齧って歩いていた我妻さんに見つかったのだ。
そして、そのまま無視してどっかへ行ってくれればいいのに、何故か私の隣に腰を掛けて、また一口リンゴを齧ったのだ。
私としては居て欲しくない相手なので、何を話しすればいいのかわからないし、どう反応していいかもわからない。
この場合、私がどこかへ行けばいいのか、とやっと気づいてさっき座ったところだけれど、自室へ戻るべく立ち上がった。
すると私の手首を掴む我妻さん。
リンゴを持っていない方の手でしっかり握られていて、とても離れそうにない。

「何ですか」
「どこ行くの?」
「自分の部屋に戻ります」
「ここにいたら」
「何でですか」
「俺がいる、し」
「…訳が分かりませんが」

やっぱり手は離してくれないらしい。
ので、はあ、と盛大に溜息を吐いて私は諦めて座り直した。
我妻さんは満足そうにそれを確認すると、またリンゴを一口。

「ねえ、名前って炭治郎の事好きなの?」
「嫌いではありません。素敵な先輩だと思いますが」
「ふうん」

勿論、貴方の何十倍もね。
という言葉は何とか飲み込んで。
それにしても突然何なのだろうか、この人は。
顔を見れば悪態を吐いてくるくせに、二人の時はわりと普通に会話をしてくる。
ちなにに前にもこんな事があった。
その時は「伊之助が好きなのか」と聞かれたっけ。
残念だけど嘴平さんは完全に観賞用だ。あの美麗はそうそういない。

「今日は随分おめかししてるんだね」
「……ああ、紅ですか」

そう言われて思い出した。
昼から街へ出かけようとしていたから、普段はしないお化粧をしていたんだった。
アオイさんにぶち怒られたので、諦めてたのだけれど。
案外我妻さんは人の顔を見ているんだな、と思った。

「似合わないよ、それ」
「……そりゃどうも」

やっぱり私は嫌われているらしい。
この人から誉め言葉が出る日があれば、それはもう空から槍が降ってくるんだろうけれど。
それにしたって酷い言葉だ。
思わず唇を尖らせて、隣の我妻さんを睨んだ。

「全然似合わない色だし」
「もういいです、一回で分かりました」

悪態も一回言われれば理解する。
何度も何度も言われるのはこちらとしては更に腹が立つ。
そう言ったら、我妻さんは齧っていたリンゴを床の上に置いて、着物の袖に手を入れる。
その様子をイライラしながら見ていた。


「はい、これ」


我妻さんの袖から出てきたのは、一つの紅だった。
ご丁寧に蓋まで外して、中の紅の色を見せてくれる。
その様子に私は首を傾げるばかり。
一体何のつもりだ。

「…で?」
「こっちの方が似合うよ」
「はあ、そりゃどうも。今後の参考にします」
「違うだろ! これ、受け取れって言ってんの」
「……は?」

意味が分からない。
傾げた首も傾げすぎてほぼ真横を向いている。
我妻さんは意味を理解していない私に苛立っているようだが、分からないものは分からないのだ。
なんのつもりだ、本当に。

「あああ! もういいから、目を瞑れって」
「へ?」
「ほら!」
「あ、はい」

綺麗な金髪の髪をガシガシ掻いて、そして私に目を瞑れと命令する我妻さん。
何だか必死な姿に私は言われるまま目を瞑った。
すると今度は何か布のようなもので唇を乱暴に拭われる。

「いたっ」
「いいからじっとしろ」

文句の一つでも言えば、また我妻さんの声が降ってくる。
もうどうにでもなれ、と私は二度目の諦めでただじっと時間が過ぎるのを待った。
あらかた布でごしごし拭われ、そして次に感じたのは、私の唇を撫でる指。

暫くそうしていたら、我妻さんの「いいよ」という声が聞こえて。
私は恐る恐る目を開けた。

目の前には我妻さんが居たけれど、特段変わった様子はない。
変わったと言えば、我妻さんの表情がいつもより柔らかい気がする、くらい。
何、その顔。


「うん、やっぱりその方が似合う」


そう言って私の頬に手を添えて、それからまるで愛しいものを見るように目を細めて。
最後に私の耳元に唇を寄せて「その顔、俺以外の誰にも見せないで」と呟く姿が、本当に我妻さんなのかと疑いたくなった。
ドクン、ドクンと跳ねる心臓がうるさい。
あれ、嘘、まるで。



何だ、今頃気付いたのか、バカ娘



君を虐めていいのは俺だけなんだよ。

背中に回された腕から逃げる事も出来ず、私はただ、顔を赤くするばかり。






あとがき
このはさま、リクエストありがとうございました!
ドSの善逸が、何故かただのツンデレに…(´;ω;`)
ドSってなんだっけ、ううっ…(´;ω;`)ブワッ
申し訳御座いません、でもこれ、シリーズ化したいくらい書きたかった…。
こんなものでよければお納めいただけますと幸いです…。

この度はありがとうございました!

お題元「確かに恋だった」さま



9/10追記
いつも仲良くしてくださっている、あいりさまから素敵な挿絵を頂いてしまいました…!
本当にありがとうございます…びえええええん!!!
掲載許可を頂きましたので、挿絵などに偏見のない方は下記をスクロールくださいませ!















ツンデレ善逸が…!!!!
なんてこと…こんな心臓を抉ってくるなんて。
ちょっと善逸夢書いてくる…。
あいりさま、いつも本当にありがとうございます(´;ω;`)
title you