結局はハッピーエンドってこと
「煉獄“さん”ではなく、煉獄“先生”だろう?」
何度も何度もそう言われたけど、なおす気はさらさらなかった。
だって私の中の貴方は、炎柱、煉獄杏寿郎だったからだ。
自分がどうやって死んだのか覚えていなかった。が、気が付いたらあの頃とは比べ物にならないくらい豊かな時代に生まれていて。
不自由のない暮らしに慣れ、昔の事はきっと何かの夢だったのだろうとさえ思っていたある日。
高校に入学したその先に居たのは、夢に何度も見た、煉獄杏寿郎という男。
そこではっきりと思い出した。
そうだ、私は鬼殺の剣士だった。
弱い弱い、剣士だった。
足手まといだった私を助けてくれたのは、炎柱の煉獄杏寿郎さん。
「同じ炎の呼吸を使う者同士、訓練に励もう!」
暑苦しくそう言われて、嫌な予感と共に逃げようとしたけれど、あの大きな体軽々と持ち上げられてしまう。
逃げる間もなく、煉獄さんの継子として生活するようになったのは、それからすぐのこと。
忙しい筈の煉獄さんが、たまに稽古をしてくれて、そうして過ごしていくうち、私はちょっとずつ強くなった。
初めて一人で鬼を退治したとき、真っ先に煉獄さんに報告をすると「よくやった!」と頭をガシガシと撫でられた。
とても幸せだった。
なのに、ある日、煉獄さんは冷たくなって帰ってきた。
何度声を掛けても、目も開けてくれない。
千寿郎くんに止められるまで、頬を叩いたりもした。
けれど、反応は無かった。
あんなに強くてカッコいい煉獄さんの身体には、とても痛々しい傷があった。
血はもうとっくに止まっていたけれど、何度も手ぬぐいと包帯を変えて、傷の手当をした。
完治することはなかった。
本当は分かっていた。
煉獄さんがもうこの世には居ない事を。
私達を置いて、一人先に黄泉の国へ旅立ってしまった事を。
ずるい。
そんなのずるい。
放って欲しかった時に鬱陶しいくらい構ってきたくせに。
傍に居たいときに、一人でどこかへ行くなんて。
「酷い人だ」
ぽろぽろと零れた想いは、水溜まりとなって土へ消えた。
そんなに想っていた相手が、今まさにここにいる。
私の通う高校の教師となって。
そこで初めて、私と煉獄さんが生まれ変わったことを知った。
勿論、煉獄さんだけじゃなくて、同じ鬼殺隊の隊員もまた同じ学校の中に居た。
でもそんなことはどうでもいい。
「煉獄さん!!」
入学式が終わってすぐにその背中に抱き着いた。
昔と変わらない大きな背中。
振り返った煉獄さんは私を一目見て、気が付いたようだった。
「…苗字」
昔と同じ声で、昔と同じ表情で。
私の名を呼ぶ、その人。
嬉しくて思わず泣きだした私に、ぽんと肩を叩く煉獄さん。
「久しぶりだな! 君もここにいたのか。ところで、もう俺は教師だから、今度から煉獄先生と呼んでくれ」
「……は?」
感動の再会。
と、思っていたのはどうやら私だけだったらしい。
あんなに悲しい別れだったはずなのに、当人はまるで先月顔を合わせたところとでも言いたげなくらい、ドライな対応だった。
零れ出た涙もすぐに引っ込んでしまった。
私だけが煉獄さんのことを想っていて、昔から現代まで飛んできたような気がしていたのに。
鈍感なのか、分かっていてそうなのか。
目の前のけろっとした煉獄さんに腹が立ってしまって、私は高校では煉獄さんにアプローチすることに費やした。
……だって、今はもう鬼なんていない。
自由に恋愛をしたって、許される。
煉獄さんが、そこにいる。
「嘘じゃぁん…あんなに頑張ったのに、結局卒業しちゃったよ」
そう、時が経つのは早い。
入学式の日に決心したあの気持ちは揺らぐことはなかったが、あっと言う間の三年間だった。
煉獄さんの授業の時はアピールついてでに、わからなくても挙手をしまくった。
煉獄さんの強化は百点取るつもりで勉強した。
廊下をすれ違うときは、負けないくらい元気に挨拶をして、イベント時には手作りのものをプレゼントした。
「ずっと、ずっと頑張ったのに」
誰もいない教室、最後の一年間お世話になった机に突っ伏し、瞼を閉じた。
グラウンドでは、卒業生たちが友達と一緒に写真を取ったり、最後の別れをしていた。
私はとてもそんな気になれない。
何故なら、明日から煉獄さんに会う口実がなくなってしまうから。
あんなにアピールしたのに、それは一つも身を結ぶことはなかった。
プレゼントをしたときに見た、困った顔で笑う煉獄さんの表情が頭から離れない。
迷惑だったのは分かっていたけど、異性として見られていないのも分かっていたけど。
「どうして…。どうせ生まれ変わるなら煉獄さんと同じ年にしてくれたらよかったのに」
生徒と教師。
真面目な教師が教え子に手を出すはずなんて、ないのだ。
ああくそう、神様なんて嫌い。
「煉獄さんのあほー」
誰もいないから悪口の一つ零してもいいじゃない。
そう思って口にした。
「だから、煉獄さんじゃなくて煉獄先生だと、何度言ったら分かるんだ?」
そしたら、居ないハズの声が聞こえて身体が凍り付いた。
慌てて顔を上げると、びしっとスーツを身に纏った煉獄さんが溜息を吐いて、教室に入ってきた。
突然のことにどんな顔をすればいいのかわからない私は、慌てて前髪を整えて顔を逸らした。
なんでなんでなんでなんで。
「外に出ないのか?」
「…さ、最後くらい教室にいたかったので」
「そうか。最後か」
今日で私は卒業する。
この教室、学校。
そして、煉獄さんからも。
三年間の頑張りは無駄に終わったけど、後悔はしてない。
どこかすっきりしているくらい。
あとは煉獄さんがどこかへ行ってくれれば、一人で泣けるのに。
「長かったな」
「…どこがですか。私はあっと言う間でしたよ、三年間」
煉獄さんは私の前の席に腰を下ろし、優しい眼差しでこちらを見る。
あ、その顔、何だか懐かしい。
昔鍛錬が終わった後に、一緒にお菓子を食べた時の。
「俺にとってはとても長かった」
「先生からしたら、大変だったでしょうけども」
「そういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味ですか」
煉獄さんはくすりと笑う。
ごつごつした手が伸びてきて、私の頬を撫でる。
……え?
今までにないくらい距離が近い気がして、私は少しだけ椅子を後ろに下げる。
そうしたら、煉獄さんの手が少しだけ伸びるだけで、ずっと頬には手があった。
何なの?
「れんごく、先生?」
「やっと先生と呼んだな。だが、それも最後だ」
「……わ、分かってます」
「本当に分かってるのか?」
頬を滑る手が顎を持つ。
くいっと無理やり上に向けられて、至近距離にある煉獄さんの顔。
きっと私の顔はリンゴのように真っ赤のはずだ。
今までこんなことなかった。
こんな煉獄さん、知らない。
「明日からは、杏寿郎と呼んでくれ、名前」
愛おしそうに私を見る煉獄さん。
私の努力が実を結んだ瞬間だった。
結局はハッピーエンドってこと
「卒業するまでの三年間、俺はよく耐えた」
そう言って、唇で口を塞ぐ教師を、私は知らない。
あとがき
おうさかさま、リクエストありがとうございましたー!!!!
卒業の時期から大きく外れていますが、この設定おいしすぎぃいいい!!!!
朝から書く事決めてさっさと書いちゃいました(*'ω'*)
素敵なリクエスト、ありがとうございます…。
こんなものでよければお収め下さいませ。
この度はありがとうございました!