ロリコン? いえ、好きな子が幼子だっただけです
「きゃぁ…小っちゃいおてて、可愛い」
「……」
「名前ちゃん、美味しいおかきあるんだけど、食べる?」
「……」
次から次へと矢継ぎ早に話しかけられたと思ったら、アオイちゃんは私の手を自分の掌と合わせてその大きさの違いに何故かうっとりしているし、カナヲちゃんはどこから出したのかはわからないけれど、様々なお菓子を私の前に出してはこれまたうっとりと私を見つめている。
私はそれを眉間に皺を寄せて可能な限り不愛想に装うのだが、それもまたイイらしく「拗ねてる顔もまた可愛い」と逆に興奮材料にしてしまったらしい。
ここで私がニコニコしてもまた同じ結果だろうけれど、いい加減この状況に疲れてきた私にとっては、どうすれば状況を打開できるのか不安なところでもある。
特にこのどう見ても幼子の容姿は、本当に不便だ。
時は数刻前に戻る。
同期の伊之助と一緒に出た任務で鬼を倒したのは良かったのだけれど、てっきり一匹だと思っていた鬼が実は二匹いて。
気づいた時には鬼の血鬼術を浴びてしまった後だった。
その後、伊之助が頸を落としてくれたから、何とかなったが、問題はその後にあった。
しゅるしゅると自分の身体が縮んでいくような感覚を感じ、自分の身体を見たら最後、大きい隊服がずるりと肩から落ちようとしていた。
慌てて伊之助が落ちそうになった隊服をずり上げてくれたので、事なきを得たが、その場で二人で数分叫び倒したのは言うまでもない。
慌てて逃げかえるように蝶屋敷へ戻り、しのぶさんに診察してもらったところ、見事に身体は幼女になり果てており、恐らく鬼の血鬼術の所為だろうとの事。
その後ニコニコ顔のしのぶさんに処方してもらった苦くてとても美味しくないお薬を飲み、身体が元に戻るまでこうして養生しているのだけれど。
蝶屋敷に居たアオイちゃんとカナヲちゃんに捕まり、現在に至るというわけである。
ちなみに服はしのぶさんが持っていた幼い時の着物を借りた。
「ちっちぇーなぁ」
「仕方ないでしょ、薬も飲んだし、あとは戻るのを待つだけだよ」
私が見事に遊ばれている様子を数歩後ろで伊之助が見ていた。
何がそんなに楽しいんだ、と顔に書かれていたけれど、まさに私も同感である。
さっき炭治郎も任務に行く前に私の様子を見て、まるで可哀想なものを見るような目で見ていたけれど、もしかしてこうなることを見越していたのだろうか。
「まあ、もっと問題なヤツもいるけどな」
「うん?」
伊之助がはあ、と小さく溜息を吐く。
その視線が庭の向こう側へ向けられていたので、何かと慌てて私も視線を飛ばした。
途端、それと目が合って、私は視線を向けた事を激しく後悔したのだ。
「……な、何で…何で、名前ちゃんが、小っちゃい子になってるの…? え? 何、それ」
お庭の木の影に、その異様な光景はあった。
身体を木で隠してはいるけれど、血走った視線とギリギリと歯ぎしりする音は隠せておらず、苦々しそうに私達を見ている男が一人。
我妻善逸、れっきとした私のもう一人の同期であり、そして恋人でもあった。
「善逸は何をやっているの?」
「知らねぇよ」
私達から距離を取って、そんな気持ち悪い視線を向けられたらこちらだって居心地が悪い。
いつの間にそこに居たのかは知らないが、数分どころではない時間、あの場で私達を眺めていた事だろう。
まあ、気味が悪いに留めておこう。
「お、誰の子供だ?」
私達の意識が庭に向けられている時、後ろからやたら元気な声が聞こえてきた。
声の主は振り返らなくともわかったけれど、そのセリフは誤解を招きそうなので、慌てて振り返る。
「宇髄さん」と言って顔を上げれば、部屋に入ってきた大男、宇髄さんは私を見て「……名前?」と大変驚いた表情でこちらを見た。
宇髄さんは自分の顎を数回撫でて「ほう?」と声を上げたかと思えば、座っていたわたしをひょいと抱き上げ
「うちの子になるか」
と言って、機嫌よく肩に乗せた。
「はぁああっっ!?」
慌てて木の影から飛び出してきた金髪が、ズンズンといかにも怒っている雰囲気を醸し出しながらこちらへ近づいてくる。
そして唾をぺぺぺと吐き出し(汚い)、宇髄さんにむかって指で指した。
「三人嫁がいるだけでも許しがたいのに、名前ちゃんまで連れ帰ろうとするなんて、変質者かよ!」
「俺が幼子を抱いていても所詮は父親に見られるだけ。お前が連れているよりマシだと思うがな」
まあ、それも派手でいいけどなと笑う宇髄さん。
そんなことを言うと火に油を注ぐ…と思っていると案の定、目の前の善逸はさらにぷんぷんお怒りになりながら、暫く宇随さんに鬱陶しくも絡み続けていた。
ちなみにその間に挟まれて私は大変苦労した。
◇◇◇
「やーっと落ち着いたわ」
「……皆絡みすぎなんだよ」
夜になり騒いでいた連中も皆自分の持ち場に戻った。
やっと解放された私は疲れた顔で縁側に転ぼうとすると、複雑そうな表情をした善逸が近づいてきて、私を抱き上げその膝の中へ座らせる。
顔を上げて善逸を見れば、頬を僅かに膨らませていた。
「嫉妬した?」
「…嫉妬っていうか、まあ、気持ちのいいものでは無かったかな」
皆が居て、善逸が近づこうとしても跳ねのけられていた光景はとても面白かった。
善逸にすれば恋人に近づくことが出来なかったので、鬱憤も溜まっているだろうけれど。
それにしてももうそろそろ丸一日が経過しようとしている、いつになったら元に戻るんだろうか。
「このまま元に戻らなかったらどうしよう」
「そしたら、俺がずっと養ってやるよ」
恥ずかしげもなく降ってきた言葉に慌てて顔を上げると、善逸はとても優しい顔で私の小さな頭を撫でた。
凄く嬉しいと思うけれど、照れ隠すように私は唇を尖らせる。
「幼女が好きな男だと思われるよ」
「…それはまあ、そうだけど。いつまでも幼女なわけじゃないでしょ」
「年の差広がっちゃうじゃん」
「馬鹿だなー。年の差なんてさして問題じゃないって」
もしかして、これは求婚されている?
ドキドキと胸が轟くように躍る。
普段の善逸なら「結婚してくれ〜」と馬鹿みたいに繰り返すだけなのに、ここぞというときにこんなカッコイ発言をされると、どうしていいのかわからない。
本当に幼女であることが心の底から嫌だ。
「俺は名前ちゃんがずっと俺の傍に居てくれれば、それでいいから」
後ろからぎゅっと抱きしめられて、身体の小さい私は何も出来なくなってしまう。
勿論、身体が元の大きさだとしても動く事は出来なかったかもしれない。
きっとこの心臓の音は、善逸にもバレている。
私も善逸を抱きしめたい。
身体の前にある善逸の腕に小さい腕で必死に縋った。
ロリコン? いえ、好きな子が幼子だっただけです。
数分後、途端に私の身体が元に戻ったことで、着ていた着物が全く意味をなさなくなり、私と善逸の叫び声が夜の蝶屋敷に響いた。
あとがき
佳恵さま、リクエストありがとうございましたー!
善逸のおこちゃまヒロインちゃんの絡み、とても楽しく書かせて頂きましたー!
過去のリクで、我妻さんのヒロインちゃんがちっさくなったことはありましたが、少しパターンを変えてこんな感じで仕上げてみました。
もっとわちゃわちゃっとしたかったので、そこだけが心残りです…くぅ…。
こんなものでよければお収め下さいませー!
この度はありがとうございました!