休日手当はもらえませんか。

「やあ、七海」

鏡を見なくても自分の顔がどんなに歪んでいるのか、手に取るように分かる。
その原因はまさかの休日に本でも買いに行こうと、街に出た先で会った五条さん夫婦に出会ったから。
実はもっと前から人込みの中に五条さん達が居ることに気づいてはいたが、敢えて声を掛けずそのままどこかへ立ち去ってくれることを期待していたのだが、こちらの心情を全くと言っていいほど理解していないこのグラサン男によって、あっけなくも打ち砕かれた。
五条さんの隣にいる私の一つ下の女性。
彼女は先日五条さんと籍を入れた苗字名前さん。
もう五条という苗字であるものの、仕事ではまだ旧姓を通している。

彼女は私と視線が合うと、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げて、隣の五条さんに何か話しかけていたけれど、それをニコニコ笑顔で首を横に振る五条さん。
会話は殆ど聞こえないが、きっと遠慮しようとする彼女を五条さんが適当な事を言っているに違いない。
こんなことなら、街など出ずに図書館でも行けばよかった。

二人は暫く何か会話をしていたが、彼女の背中をぽんと五条さんが押して、何かを後押しするような動作をした後、彼女が私の方を見てまた何とも言えない顔で頭を下げた。
嫌な予感がする、と思った時には遅かった。
彼女を送り出した五条さんが手を振りながらこちらへ近づいてきたからだ。

……やっぱり街に出なければよかった。
ニコニコどころではないくらい破顔した男を見ながら、私は溜息を吐いた。


◇◇◇


外で会うなんて奇遇だねぇ。七海は買い物?
僕はねぇ、名前と一緒に買い物という名のデートを楽しんでいたんだ。
え? デート中なら自分は遠慮した方がいい? 
何でそんなつれないこと言うの〜。俺と七海の仲だよ? そんな事あるわけないだろ。

実は名前が一人で店を見て回りたいって言ってね。…実は知っているんだけど、僕にサプライズで贈り物をしてくれるみたいなんだよね。
それを必死で隠そうとする名前が可愛すぎて、知っていることをずっと黙っているんだけど、お陰で今日ずっとソワソワしててさぁ。
もう今すぐにでも連れ帰って、ドロドロに甘やかしてあげたいくらいだよ。
…あ、また僕の奥さんで想像した?
七海も男の子だってことは分かるけど、想像だろうと許さないから。

あ、話が逸れたね。
で。七海に会ったついでに名前に一人で買い物しておいで〜って言ったら、そのまま買い物に行ったってわけ。
だから名前が帰ってくるまで僕は暇なんだよね。きっとすぐに帰ってくるだろうから、その間くらい付き合ってくれるよね、七海。

え? 用事がある?
僕の話以上に大切な用事なんてある?
大丈夫大丈夫、すぐだから。
ちょっとくらい同僚の話に付き合ってよ。
この前も付き合った? あのね、僕は毎日名前と過ごしていて、一日たりとも同じ日を過ごしていないんだよ。
たった一日の話をしたところで、僕の奥さんの可愛さが伝わると思う?
そう言うわけだから、少しくらい付き合ってね、七海。

ところでさぁ、七海、良い人でも出来た?
僕の奥さんが『七海さんは優しい人だから、きっと可愛い彼女が出来ると思う〜』とかなんとか言っててね。
否定するわけじゃないけど、僕が思うに名前以上に可愛い女の子なんて存在しないから、あり得ないよって言ったんだけど、そうしたら名前が顔真っ赤にして照れちゃってさ。
もうガラスのケースに入れて閉じ込めたいくらい可愛い反応だったんだよねぇ。
……え? そんなことしないよ? 僕は優しいからね。
でさぁ、そのまま僕の息子が暴走モードになったわけで。
お昼間だったんだけど、夜まで寝室から出てこなかったよね。

何度も言うけど、想像したらダメだよ。
いくら僕の奥さんが魅力的な可愛い顔をしていて、男なら誰でも埋もれたくなるマシュマロのように柔らかい胸と、水さえ弾く白い肌をしているとはいえ、それを想像でもされたら僕、うっかり殺しちゃうかもしれないからさ。
…興味ない? 
いやいや、七海クン。それはそれでどうなの。
七海から見ても僕の奥さん可愛いでしょ? 知ってるよ〜 まだ七海の後輩だった名前に対して一番優しい態度で接してたの。
下心あった? …まあ、返答次第ではこの場は戦場になるかもしれないけど。

ウソウソ。
そんなことしないって。
でもちょっとだけ本気だったかな。まあ、それだけ僕の奥さんが魅力的で困るって話。
そんな魅力的な名前は今や僕の可愛い奥さん。
もう全世界に自慢したいよね。

七海に十分自慢している?
いやいや何を言ってるの、これは自慢じゃないって。
相手のいない七海に結婚とはこういう素晴らしいものだって教えてあげているんじゃない。
だからさー、さっさと相手見つけな。
まあ、僕の奥さん以上に可愛くて魅力的な女性は見つからないと思うけどね。

ふぁ…それにしてもこんないい天気だと欠伸の一つも出ちゃうな。
疲れているならさっさと家に帰ったらどうかって?
違う違う。これ、疲れてるんじゃなくて、ただの寝不足。
そりゃそうでしょ。家に帰ったら僕の奥さんが料理作って待ってるんだよ?
それだけじゃなくて、お風呂あがったら湿った髪を揺らして、僕の肩に頭を乗せて甘えてくるんだよ?
そりゃぁ寝不足にだってなるよね。
これじゃあ、家族が増えるのも遠くないんじゃないかな。

……あ、名前から連絡がきた!
もうすぐ戻ってくるみたいだから、僕も戻るよ。
引き留めてごめんね七海。でも僕の幸せオーラにあてられて、女性漁りとかしちゃだめだよ〜。
…そんなことしない?
だろうね、冗談冗談。

んじゃ、僕は行くね〜。
また仕事で。




休日手当はもらえませんか。




話したいことだけ話して、さっさと五条さんは消えた。
おかげで一気に買い物する気が失せた。







あとがき
真奈美さま、リクエストありがとうございます!
以前書かせて頂いたごじょせん短編の続きっぽいお話ということで、ひたすらノンストップでごじょせんが喋り倒しております…。
しかもかなり際どい話ばかりしている変態です…ごめんなさいm(__)m
そして普通に七海が可哀想。
ごめん七海。
こんなお話でよければお収めくださいませ…!

この度はありがとうございました!
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