「炭治郎くん、こんにちは」
任務の調査に出かけて足で、御館様のお屋敷へ挨拶しに向かうと良く知る顔がそこにいた。
花が咲いたような笑みを浮かべたまま大きな木箱を背負った彼は、とことこと私の前にやってくるとすんと鼻を鳴らした。
その後ろを恐怖で顔を歪めた金髪の少年、堂々と胸を張って金髪の少年のお尻を蹴り上げる猪の被り物をした少年が続く。
きっと彼らも任務の報告でやってきたのだろうと予想がついた。
隊服ではない服装を見て、炭治郎くんは不思議そうに首を傾げる。
「今日は、お休みだったんですか?」
「残念ですが…」
困ったように眉を下げて言うと、彼らは全てを察したのか神妙な顔で頷く。
ああ、そうでした、彼らにも話しておかなければ。
自分が先程まで出ていた任務はまだ終わっていない。想像以上に難航しそうだから、増援を寄越すという話だった。
きっと彼らにも話がいくのだろう。
鴉が鳴く前に、詳しく話していても損はない。
三人の顔をゆっくり見回し「お時間、いいですか?」と尋ねれば炭治郎くんと伊之助くんはコクコクと頷いたが、善逸くんはさぁっと表情を青ざめてぷるぷると首を振る。
素直でよろしい、でも残念ですが。
その意見は聞けない、と問答無用で空いた客間に三人を連行することにする。
ビクビクと身体を揺らす善逸くんはさておき、任務について詳細な説明をする。
繁華街から少し離れた森で、男性の惨殺死体が見つかったこと。
彼が最後に足を運んだ場所は、街の喫茶店。
わりと最近出来たものだが、彼は常連だったようだと。
現在もその喫茶店は運営しているが、従業員が男性の事件の噂を耳にして怖がり、最小の人数で店を開けていること。
そして、
その中の一人に気になる女性がいること。
その話をしてすぐに炭治郎くんが「鬼ですか」と声を上げる。
私は緩く首を振る。
「お昼間に仕事に出ているのですから、鬼であるはずがありません。ですが…」
「…?」
ふと昼間、喫茶店へ顔を出したことを思い出す。
彼女は、炭治郎くん達とそう年の離れていないごく普通の女子に見えた。
私を視界に入れた瞬間の、あの表情を見るまでは。
何かに怯えるような、瞬時に思考をめぐらせたような、そんな表情を。
記憶の扉を叩いてみても、彼女に見覚えはなかった。
彼女もまた初めて会うと会話の中で言っていた。
が、それにしても彼女の態度は変だった。
警察でもない怪しい女子が、常連客の死について調査しに来ているというのに、顔色変えずに返答する、その態度が。
不審がられてもおかしくはない、むしろ今までの任務では不審者と呼ばれて、そこからどう信じてもらうかという話だった。
だけど今回は、まるで私が何者か知っていたかのような受け答えで、極めつけは
『いえ、何も』
私は何もしらない、とばかりの表情で平然と答えるその姿。
こんな凶悪な事件がすぐそこに迫っているというのに、いくらか冷静すぎる。
彼女が鬼ではないにしろ、何かを知っている事は当然考えられる事。
重要参考人として声を掛ける必要があるかもしれない。
「……しのぶさん、」
さっきからずっと黙っていた善逸くんが、やっと声を上げた。
まだ表情は青く、恐怖心が残るが、何か思いついたことでもあるのだろうか。
彼の発言を皆で待っていたら、ぼそりと呟かれる言葉。
「その女の子って、可愛い…です、か」
隣にいた炭治郎くんの表情に青筋が入っただけでなく、すかさず逆隣りにいた伊之助くんが、金色の髪の上にげんこつを落とす。
「馬鹿じゃねぇのコイツ」
「伊之助! 痛いだろうが!」
「まあ、善逸くんはこの任務にとても積極的なようで」
じゃあ、行って貰いましょうか。
そう言えば、怒りの感情を伊之助くんに向けていた善逸くんが驚愕の表情でこちらを見る。
炭治郎くんは呆れた表情で一つ、溜息を吐いた。
「俺達で向かいます」
今度は炭治郎くんの言葉一つで、今度は炭治郎くんに叫び散らかす姿を見つつ、本当に大丈夫かしらと少しばかり不安になったが、今の鬼殺隊でそうはいってられない。
使える人材は派遣しなければ。特に今回の任務は、とても厄介だ。
「完全に鬼が雲隠れしていますから」
つまり、人に化けることのできる鬼と言うこと。
早く対処しなければ次の犠牲者が出てもおかしくない。
『また、来ます』
『…え…は、はい』
別れ際、また来る、と言った私に彼女は、恐ろしいものを見るような目で見ていた事を思い出した。
「まずは、彼女に近づいてみないことには」
お願いしますね、と善逸君に向かって言うと、彼は諦めたように「はい」と答えたのだった。