10. すっごく強いのよ

嘴平さんが気を失っている間に、家の中で亡くなっていた人たちのお墓を掘る事にした。
我妻さんと炭治郎さんが眠っている嘴平さんの為に、自分の羽織を脱いで枕やらお布団代わりに掛けてあげたりしているのを見て、こんなクソ面倒な奴にしてやるなんて、と心の中で悪態を吐いておく。
我妻さんには「まあまあ」と言われたので、またこの人私の音を聞いたんだろうね!
でも炭治郎さんも似たような顔をしているのは何で?

お墓に近くに生えてた花を添えて手を合せる。
その時、正一くんがそろりと私に近付いてきた。

「名前さん」
「どうしたの?」

何だろう?と首を傾げて尋ねると、正一君は口をもごもごさせながら教えてくれた。

「善逸さんは、あの…とても強かったです。あんなんですけど」

正一君の言葉にどこか胸が温かくなるような気がした。
そうか。我妻さんは、この子の前でも…。
昨日の我妻さんを思い出しながら、私は正一くんの頭をよしよしと撫でて


「そうなの。あの人、すっごく強いのよ」


あんなんだけど。
と、自信満々で答えた。


お墓作りも中盤に差し掛かった頃、嘴平さんが起きた。
ガバっと起き上がると、近くにいた我妻さんに向かって突進のごとく追いかけ始めたので、我妻さんは泣き叫びながら逃げ回っていた。
可愛そうに。折角さっきまで恰好良かったのに、ああいう役回りの星でもあるのかもしれない。

「ギャアア、寝起きでこれだよ! 一番苦手これぇ!」

何週か私たちの周りを回ってから、嘴平さんは私たちの様子に気付いたようだ。
ぽかんとした顔で「何してんだァ、お前ら!」と叫んでいる。

「埋葬だよ。伊之助も手伝ってくれ」

いちいちむかつく態度の嘴平さんに対しても、優しく炭治郎さんが言う。
流石だ、本当にこの人、人間出来てるよね。
少なくともこの場にいる誰よりいい人だよ。
人外にまで優しい炭治郎さんに涙が出そうになるけれど、嘴平さんの声ですべてかき消された。

「生き物の死骸なんて埋めて何の意味がある! やらねぇぜ、手伝わねぇぜ!」

何を堂々と宣言しているんだろう。でもそう言うと思った。
この人の常識は私達とは別の所にあるんだなぁ。
呆れた顔で嘴平さんを見ていたら、同じような顔をしている我妻さんと目が合った。
珍しく意見が一致するね。

「そうか…傷が痛むから、できないんだな?」
「は?」

優しく、心配するような声色で炭治郎さんが言い放った。
嘴平さんの額にピキっと青筋が走ったのを見て私は即座に自分の口に手を当て、つい笑いだしてしまいそうになるのを必死で我慢する。
炭治郎さんの表情は心の底から、同情するようなそんな顔で。

「いいんだ、痛みを我慢できる度合いは、人それぞれだ。伊之助は休んでいるといい」
「はぁぁあああん? 舐めるんじゃねえぞ! てめぇ、アマぁ! 何笑ってやがるんだコラァ!」

グフ、ととうとう我慢できなかった声が漏れてしまった。何とか顔に出さずに出来たと思ったのに。
猪は唾を飛ばしながら私に向かって何か吠えている。
ちゃっかり見つかってしまった。くそ猪め。

炭治郎さんの言葉で何百人でも埋めてやるよ!と勢いよく家の中に駆け出して行った嘴平さん。
でも嘴平さんが埋葬を手伝ってくれたお蔭で、夕方には全ての方を埋葬することが出来た。
行動は早いんだけどねぇ、むかつくからお礼何て言わないけど。


「では、三人とも気を付けて下山してね」

埋葬を終えて、正一君たちと別れる場になった時、我妻さんはずっと正一くんの背中に貼り付いたままだった。

「何してるんですか、我妻さん」

我妻さんの腕を引っ張るも、抵抗して正一くんから離れようとしない。

「正一くんは強いんだよぉぉ…俺は正一くんに守ってもらうんだぁぁ…」

うんざりした顔の正一くんの肩に頬擦りする我妻さんを見ていたら、一瞬苛立ちが湧いたので隠さずにチっと舌打ちをしておいた。
それから迷惑そうな顔をしている正一くんに向かって、本当に申し訳ない顔を向けておく。
ああ、ごめんね正一くん。ごめんね、馬鹿で。ほんとに。

いつまでもそうしているわけにはいかないので、そのまま引き続き我妻さんの背中に力を入れるけれども、びくともしない。
本当に面倒な人だ、と心の中で悪態を吐いた。

「正一くんは嫌がってるだろう!」

力尽きた私の代わりに、炭治郎さんが我妻さんに手刀を繰り出す。
うっ、とうめき声を一つ上げて我妻さんは気を失った。
もう実力行使だよね。
ピクリともしない我妻さんの頬をツンツン、と指でつつきながら私は溜息を吐いた。
それから正一くんに謝罪をして、炭治郎さんにはお礼を言った。


「おぶってもらってすみません、炭治郎さん」
「善逸を眠らしたのは俺だし。それに名前は女の子だからな」

正一くんたち兄妹と別れ、私たちは炭治郎さんの鴉の案内の元、下山していた。
炭治郎さんの背中には気を失った我妻さんがいる。
私には善逸さんを運ぶことが出来ないから、正直助かった。
先ほどまで戦闘していたというのに、炭治郎さんは力持ちなんだなぁ。

「本当に炭治郎さんは優しいですね」
「いや、そんなこと。でも、善逸だって優しいだろう?」
「えっ?」

炭治郎さんに微笑みながらそう言われて、私は少し驚いてしまった。

「……名前と善逸は良い仲なんだろう。そんな匂いがしたから」
「そうでしょうか。少なくとも、我妻さんにとっては違うと思いますよ」

炭治郎さんの優しい目が私を映す。
そんな目から私はそっと逸らして、地面を見ながらぽつりと呟いた。
自分でも言ってて悲しくなってくる。仲はいいと思う。でも炭治郎さんの言ってる意味はそう言う事じゃない。
私は我妻さんの事を、大切だと思っているけれど我妻さんには、不特定多数の女の子と同列だと思われていると思う。

「良い仲ってなんだよ?」

前を歩いていた嘴平さんが勢いよく振り返る。
あーそうだった。この人もいたんだった。

「伊之助、それは…」
「私と嘴平さんみたいな仲ではないって事ですよ」

私とこの人とはどう頑張っても仲良くはなれないと思う。我妻さんを傷つけた事は一生忘れないんだから。
べーっと嘴平さんに舌を出す私。
それを見た嘴平さんが「このアマァ、ふざけんなぁ!」と声を上げる。
二人で暫くにらみ合って「馬鹿猪」「色気なし小娘」とそれぞれ悪態を吐きまくった。

「だぁあああ! うるっさいんだよぉおおお!」

それを聞いた我妻さんが不快指数100%の顔で起きてしまったけど。