11. 休息

背負われた我妻さんが起きたので、私は後方で我妻さんと一緒に並んで歩き始めた。
前列では炭治郎さんと嘴平さんがかまぼこの話で盛り上がっている。
一体どこからかまぼこの話題が出たのかは不思議だけども。

起きてからというもの、珍しく我妻さんが無口なので、私は若干焦っていた。
昼間のケガが痛むのかな、それとも何が悩み事でもあるのかな。
もしくは朝に結構手ひどく無視したのがダメだったのかも。
でもあれは、私が悪いわけでなくて、誰彼構わず求婚する我妻さんが悪いわけだし。

無口で話しかけづらい雰囲気だけど、話しかけても、いいのかな。

ちらっと視線を横に向けてみると、我妻さんは何を考えているのか分からない顔をしていた。
私も我妻さんみたいに音で感情が分かればいいのに。
この人の考えている事が、分かればいいのに。

機嫌が悪い? でも、怒っている雰囲気は感じないし。
いつもの我妻さんなら、もっとわかりやすく表情に出るのに。
前列の炭治郎さんと嘴平さんとは違い、こちらはお葬式ですか?っていうくらい何とも言えない空気だ。
折角お友達になったのだから、炭治郎さんたちと話したいのかな。

「我妻さん?」
「…何?」
「炭治郎さん達楽しそうですよ? お話してきたらどうですか?」
「うん」

我妻さんの返答に私は背中に変な汗が伝う。
これは重症かもしれない。
いつもの我妻さんなら「名前ちゃんと一緒にいるよぉ」の一言あっても良さそうだ。
どうしたんだろう、なんで、どうして。
うーんうーんと腕を組み首を傾げて悩んでいたら、ふと思い立った。

あ、そうか。

我妻さんにとって、もうそういう対象じゃないのか、わたし。


ズン、と心の中がどす黒い何かで染まる気がした。
『名前と善逸は良い仲なんだろう』という炭治郎さんの言葉が木霊する。

違うんです。そうじゃないんです。
私だけなの、そうなりたいって思ってるのは。
この人は、違うの。

急に前列の炭治郎さんが驚いたように振り返った。

「名前? どうかしたのか?」

心配そうな顔でこちらを見つめる炭治郎さんに私は思わず驚いてしまったけれど、すぐに表情を元に戻して笑みを浮かべる。
嘴平さんは「は?」という雰囲気で首を傾げていた。
炭治郎さん、あなたも我妻さんと同じエスパーなんですかね。

「え、いえ。何でもないですよ」

無理やり笑顔を作ったけど、上手に出来ただろうか。
納得いかない顔の炭治郎さんはそれ以上何も言わなかった。
これ以上詮索してほしくなかったから、正直有ありがたかった。

今日会ったばかりの炭治郎さんにもわかったんだから、隣にいるこの人にも私の考えている事が分かってしまったんだろうか。
それはそれで困るんだけど、気付いてもらえないのも悲しい。
考えれば考えるほど暗い考えが頭を占拠する。
はあ、と重い溜息を吐いたその時。


「名前ちゃんは、俺と一緒にいてつらくないの?」


突然、隣の我妻さんが口を開いた。
今まで話しかけてもまともに反応しなかった癖に。

「何でそう思うんですか?」

質問に質問で返すのはマナーとして悪いとはわかっているけれど、それでも問わずにはいられなかった。
我妻さんの事を考えれば胸が苦しくて、辛い。でもそれをこの人に伝えるのは、私の気持ちが追いつかない。

「俺、弱いし。正一くんに助けてもらってばっかだったし。炭治郎や伊之助の方が安心するだろ」

我妻さんの言葉で私は、まだ旦那様のお屋敷にいた時を思い出した。
この人の気持ちを聞いて二人で過ごした夜中の池。
貴方はまだそんな事考えていたのだろうか。
私自身は何かある度に正直に伝えてきたつもりだったけど、ほんの少しも伝わってなかったのだろうか。
私が、どれだけ貴方に助けられているのか、を。

「気にするなとは言いませんけどね。もっと私の音、聞いてもいいんですよ我妻さん」

化け物の家から出てきて、我妻さんを見た時私はどう思ってたと思います?
少しでも、貴方に伝わってほしい。


「私、我妻さんじゃなきゃ駄目ですし」


はっとして口に手を当てたけど時すでに遅し。

あ、これ私
また言わなくてもいい事言ったんじゃない?
慌てて我妻さんを見たら、口をへの字にして耳まで真っ赤だった。

ですよね!
あぁ、私今日寝れないかも。


◇◇◇


微妙な空気のまま、炭治郎さんの鴉の案内のもと、一軒の屋敷へと到着した。
門に大きく藤の花の家紋が描かれていて、立派なお屋敷だった。

「カァアー! 休息! 休息! 負傷ニツキ、完治スルマデ休息セヨ!」

到着して早々、鴉が鳴き始める。
確かに私以外の人は重症だから、休息は必要だと思う。
でも普通のお屋敷に見えるけど、大丈夫なんだろうか。

なんてことを考えていたら、中から高齢のお婆さんが出てきた。
横で我妻さんが「お、お化け!」と悲鳴を上げたので、慌てて私は我妻さんに肘鉄をお見舞いする。

「夜分に申し訳御座いません…」
「鬼狩り様でございますね、どうぞ」

お婆さんはそう言うと門を開けて、中へと案内してくれた。
通された部屋で数分待たされ、次にお婆さんが出てきたときには「お食事で御座います」と食事まで出して貰った。

藤の花の家紋のお家では、鬼殺隊の人間ならば無償で尽くしてくれるという鴉の説明に納得しながらも、私はお婆さんに話しかけた。

「あの、私は鬼殺隊ではありません。何かお手伝いする事はありませんか?」

人に尽くしてもらうなんて、中々どうしても落ち着かない。出来る事なら何かさせて貰うほうが心情的にも楽だ。
だけどお婆さんは「よろしいですよ」と言い、私に一つの小瓶を渡してきた。

「背中と腕に、どうぞ」

そこで初めてこの小瓶が、痛み止めの薬であると理解した。
有難く頂戴し、私は皆さんと一緒にご飯を共にした。

最中、嘴平さんが炭治郎さんの天ぷらを取って食べたが、天然炭治郎さんにはその嫌がらせが通じず、むしろ「こっちも食べろ」とおかずをよこされてしまう始末。
私はまたしても吹き出しそうになったが、無事に事なきを得た。

食事の後にお婆さんが呼んでくれたお医者様によると、三人ともあばらが折れており、超重傷であるとのこと。
余りの有様に私は自分の顎が外れるかと思うくらい驚愕した。

「何で平気なんですか? 少しくらい痛がればいいのに!」

背中と腕に軽い打撲傷の私が恥ずかしい。
私はこれから化け物たちと行動を共にしているんだと、認識することにしよう。
ちなみに背中と腕はどちらも嘴平さんによる傷だ。

面と向かっては言わないけど、控えめに言って苦しんで死んでほしい。