「何で善逸は名前の嫌がる事ばかりするんだ?」
禰豆子ちゃん(木箱から出てきた炭治郎の妹ちゃん)の頭を撫でながら、炭治郎が言った。
顔は不思議そうに、声は半ば呆れながらといったところ。
名前ちゃんに、ぴしゃりと襖を閉じられてから、俺は部屋の隅で体操座りで固まっていた。
炭治郎の言いたいことだって何となくわかる。
俺としては別に名前ちゃんを怒らせるつもりはなかったんだ。
女の子を見たら、俺はいつもこうだし。昼間の求婚だってじいちゃんの所で世話になる前は、何度も同じことをしてきた。
でも、あんな顔させるくらいならしなかった。
昼間と先程の名前ちゃんの顔が頭を過る。
何であんなに怒るのか、何であんなに悲しそうなのか。
確信はないけど、もしかしたらそうなのかなって思うだけで。
名前ちゃんの音は普通の人と違う。だから、わからないんだよ。
「俺だって、わかんね…」
頭を抱えながら、そう言うと炭治郎の呆れたため息が聞こえてきた。
何で炭治郎には名前ちゃんの気持ちが分かるんだよ。
俺の方が付き合い長いんだよ。
「俺は匂いがするだけだから、二人の事情まではわからない」
炭治郎の嘘偽りのない瞳が俺を映す。
ゆっくり微笑みながら、優しく諭すように炭治郎は続けた。
「だけど、善逸のために伊之助から庇おうとした名前は、お前が構う女子達とは違うと思うよ」
そんなこと、言われなくともわかってる。
自分がケガしているのにも関わらず、俺と伊之助の間に入ったり。
最後は伊之助に平手打ちをかましたり。俺の為にしてくれてるんだって理解してる。
今までの女の子と全然違うなんて、わかってる。
自意識過剰って言われてもいいから、少しは希望を持ってもいいかな。
「ちょっと名前ちゃんと話してくる」
やっと俺は決心して締め切られた襖に手を掛けたのだった。
◇◇◇
「俺の勘違いだったら嫌だけどさ、嫉妬した?」
そっぽを向いて布団に入ってしまった彼女にそう問いかけると、彼女が息を呑んだのが分かった。
そして間髪入れずに「してません」と返ってくる。
さっき「もう返事をしない」と宣言しておいて、速攻で返事してるじゃん!
何だか面白くなって鼻で笑うと、名前ちゃんが目に見えて慌て始める。
そんな姿が凄く可愛いなと思ったんだ。
だからこっちを見て欲しいなって思って、肩を寄せ無理やりこちらに顔を向けさせた。
「ねえ、俺の事好き?」
そうだったらいいなって思ってる。
名前ちゃんには自分から告白する勇気は何故かなくて、ズルい聞き方をしたと思う。
彼女の瞳が俺を捉えた。
そして
「…あの、我妻さん。自分から聞いておいて顔真っ赤にしないで下さい」
だぁあああああ!
ちがぁうぅぅぅう!
バカバカバカ俺の馬鹿ぁ!
ここぞという時に情けないじゃん! 何なの? かっこよくできないの俺?
「……そう言う事言わないでくれる?」
恥ずかしくて今にも顔面を隠したい衝動に駆られるけれど、何とか我慢して苦し紛れにそれだけ零すように呟いた。
もう心の中では情けなさ過ぎて号泣してるんだけど。
雰囲気ぶち壊しもいいところだよ!
彼女は何が面白いのかくすくす笑っていて、布団からのそのそ出てきた。
そのまま俺の向かいに座り、
「女の子を追いかけてる善逸さんは嫌いです」
と言って俺のおでこにデコピンを一つ。
痛みなんて全然感じなかった、むしろ可愛すぎて吐くかと思った。
「では私は今度こそ寝ますので!」
ばっと慌てて布団にくるまる名前ちゃん。横から見える顔は耳まで真っ赤だ。
何だ、名前ちゃんも人の事言えないじゃん。
「ねえ、それってどういう意味?」
「……私は寝ています」
「教えてよー」
「…おやすみなさい」
本気で寝ようとしている横顔に尋ねてみたけど、名前ちゃんは教えてくれなくて。
そしたら本当に寝てしまったようで、規則正しい寝息が聞こえてきた。
嘘、この状況で寝る?
はあ、とため息を吐いて寝ている彼女に視線を向ける。
俺も横で寝てもいいかな。
邪な考えが浮かぶが、また彼女に泣かれては困るので、しばらく眺めることで我慢しようと思う。
「好きだよ」
今は寝てる君にしか言えないけど。
いつか言える日がくるかもしれない。
可愛い寝顔を見つめて、俺は畳の上に横になった。
◇◇◇
何故か寝苦しいような気がして、私は目を覚ました。
障子から覗く鈍い光は、まだ薄暗くて日が昇り切っていないことを示している。
もうひと眠りできそうだな、と寝返りをした時だった。
「は?」
寝返りをした先にまさかの我妻さんの顔があった。
……何で?
一瞬思考が停止してしまったけれど、何でこの人私の横で寝てるの?
気持ちよさそうに涎を垂らして寝てる姿に、情けなくて呆れてしまったけれど。
結局この人隣の部屋に戻らなかったのか…。
思ってもいない事態にぽかんとしたけれど、数秒経って恥じらいが出てきた。
ここにいたという事は、私の寝顔とか見られたんだろうか。
きっと寝言は言ってない、と思うけど。もう恥ずかしすぎて、布団から出たくない。
顔を布団で覆い隠してゴロゴロと悶える。
暫く羞恥心で悶えていたけれど気を取り直して。布団が振動しないようにゆっくりと布団から抜け出した。
改めて眺めると私、すごい状態で寝ていたんだな。
……厠いこ。
考えても仕方ないので起きたついでに厠へ行くことにした。
そのままさっさと廊下に出ようとしたけど、思い立って我妻さんに布団をかけてやる。
むにゃむにゃ言ってて、気持ち悪い。