今日から炭治郎さんと伊之助さんは機能回復訓練というものに参加するらしい。
まだ完全に回復していない我妻さんだけが、部屋に残る事になるわけだけど、本人はまだゴロゴロできる環境が嬉しそうではある。
折角の2人きりなので、昨夜の夢と那田蜘蛛山での夢について話そうとしたけど、勝手にベッドに侵入したことで、我妻さんからお小言を貰ってしまった。
「嫁入り前の女の子が男の部屋にきてはいけません!」
「この前、我妻さんだって私の部屋に入って寝たじゃないですか!」
「俺はいいの! それにここには伊之助もいるんだから…」
ちらっと伊之助さんのベッドを睨みつける我妻さん。
伊之助さん? 伊之助さんがどうしたんだろう?
それについてはよく分からないが、何にせよ勝手に入った事は謝っておこう(不本意だけど)。
「勝手に入ってごめんなさい、だって怖かったんですもん」
「……はぁ、またそういう顔する」
ぷうと頬を膨らませて、下から見上げるように我妻さんを見つめると、何故か我妻さんがうっすら顔を赤くした。
我妻さんの考えていることは、よく分からないや。
私は誰もいないベッドに座って、我妻さんと向かい合うような形でお話をする事にした。
さて、ここからは少し真面目な話だ。
「…実は、那田蜘蛛山で皆さんを待っていた時に、声が聞こえたんです」
「声?」
「えぇ。鬼の、声が」
不思議そうにしていた我妻さんの顔が一瞬で強ばった。
何の鬼の話か明言しなくても理解はしてくれたようで、低い声で「気の所為でもないんだよね」と尋ねる。
「姿は見てません。私の気の所為と言われればそれ迄ですが、その可能性は低いと思います」
「爺ちゃんから連絡あった直後だったし、まだ生きてるはずだからな…」
顎の下に手を当てて真面目な顔で考えている我妻さんを見て、少しかっこいいと思ってしまった。
普段からそういう顔をすればいいのに、なんて。
……完全に思考が逸れてしまったので、慌てて切り替えた。
「まだその時の怪我が回復してなかったと思うんです。実体化はできないがって言ってましたし」
「…という事は完全に、名前ちゃんを特定されたみたいだな」
「あの時、慌ててその事を我妻さんに伝えようと山に入ったんですが、その後に夢を見せられました」
「いつもの夢?」
私は少しだけ戸惑ってしまう。
貴方が死ぬ夢、なんて口に出すのも嫌だ。
その雰囲気を察してか、我妻さんは深くは追求してこなかった。
「そして、昨日の晩も」
目を見て言うと、我妻さんは唇を噛んで目を細めた。
私がベッドに潜り込んだ理由は、決してふしだらな理由ではないんだよ、と言ったつもりだった。
「昨日は、家族が…」
それ以上言葉は続かなかった。言えなかった。
私が泣いてしまったから。
泣きやもうとして、涙を拭ったけどどんどん溢れてきて、頬にとめどなく流れていく。
その時、我妻さんの腕がすっと伸びてきて、私の身体をそのまま抱き寄せた。
いつの間にか短くなっていた腕も服の袖から顔を出して、その大きな手で頭を撫でてもらった。
我妻さんの心音が私の耳にも聞こえてきて、自分が安心している事に気づいた。
いつの間に、こんなに大きくなったんだろう。
……ずっと横にいたのに、分からなかった。
この人がいないと私はダメなんだなぁ。
我妻さんの胸に顔を埋めながら、このまま時間が止まればいいのにと考えていた。
「絶対、守るから」
折角引っ込みそうだった涙が、我妻さんの言葉でまた溢れてくる。
この人はほんと、欲しい時に言葉をくれるんだね。
女の子に慣れてるのか慣れてないのかわかんない。
「ずっと、守ってください」
この先に控えているだろう鬼との戦闘。
きっとこの人なら、大丈夫だと思うくらい頼りになる男の人になってしまった。
願わくばその隣にずっと居れますように。
「あの」
「何?」
「もうそろそろ、離してください。何か薬の臭いがする」
「し、仕方ないじゃん!毎日5回も飲んでるんだからさぁ!」
「(ほんとは臭い移ってもいいけどね)」