27. 離れない

何が起きたか、なんて言われるまでもなく理解はしている。
でも処理能力が追いついてないから、どう反応していいのかわからなくてただただ我妻さんの目を見ていた。
キス、だよね?なんで?
以前我妻さんを助けるために人工呼吸はした事はあったけど、それとは意味が大きく異なる。
二回目と言われれば二回目なのだが、気持ち的な意味でも全然違うし。
何で、我妻さんは私にキスしたの?
何か言ってくれたら、いいのに。
じゃないと私が都合のいい様に解釈してしまうよ。

「嫌だった?」

我妻さんの眉が八の字に下がった。
心配そうな、困ったような顔だった。
その顔みてもさっきの艶やかな色気ある顔がチラつくので、私の視界はパニックを起こしているんだろう。

嫌なわけない。
だって我妻さんだから。

でも、わからない。
我妻さんは何を考えて、キスをしたの?
好きだ、と言った女の子に対して何でそんな事するの?
私の事、良く思ってくれてるの?

それとも、誰でもよかった?


「い、嫌では…」


ふりふりと頭を左右に振ってみた。
少しだけ我妻さんが安心したような顔をしたのがわかった。
それを見て私は更にわからなくなる。

「な、何で…?」
「何でって、したいって思ったから」

あっけらかんとしつつも頬を染めて言う我妻さん。
その顔に男の子だな、なんて思ってしまって私の心はドキドキと喧しくなる。
私の知ってる我妻さんは、泣き虫で、怖がりで、女の子が大好きな筈なのに、そんな片鱗を見せない。
中身だけ別人かと思うくらいの豹変ぶりである。

「ほんとに我妻さん?」
「どういう意味それ」
「何か、違う人みたいで…」

心の声が思わず出ていたようだ。
私の言葉に少し怪訝そうな顔をする。
私からすればその通りなのだから、仕方ないじゃない!

「名前ちゃんは、こんな俺、嫌?」

この人はなんて事を聞くんだ。
そういうセリフはもっと人生経験豊富な人に言って欲しい。
私みたいな初恋の延長みたいな恋をしている小娘には刺激的すぎる。
言葉にするのは恥ずかしくてブンブンと頭を横に振った。
きっと私の顔はゆでダコみたいになってるだろう。

「こ、こっち見ないで、ください…」
「なんで?」
「恥ずかし、い」
「俺も恥ずかしいよ」

せめてものの抵抗で、我妻さんの胸板を両手で軽く押したけど、逆に詰め寄られてしまった。
近い近い近い!
そんな真っ直ぐな目で見られると、隠れるとこがないんだからやめて!
俺も恥ずかしいと言いながらも胸板の手をまた握ってくるあたり、ある種の確信犯だと思う。


そんな我妻さんをみても、私の心はドキドキする気持ちと少し暗い気持ちが交差している。
我妻さんのことは、好きだよ。
私から好きだとも言ったし。
でも、我妻さんは?
私の事、好きでいてくれてる?
相手は誰でもよかったなんて、通り魔みたいな事言われたら、私の心は持たない。

ねえ、我妻さん。


「我妻さんは、私のこと、すき?」


勇気を出して聞いてしまった。
告白した時よりも緊張しているのがわかる。
だって、あの時は返事が欲しいなんて思ってなかった。
ただ傍にいたいって思っていただけ。
でも今は、そこに気持ちがあったらいいな、なんて図々しい事を考えてる。
どんどん欲求が出てくる。
我妻さんの所為だよ。


「伊之助と一緒にいる名前ちゃんは、嫌かな」


にへら、と笑う我妻さん。
少し前に藤の家紋の家で過ごした夜を思い出した。
それって、どういう意味?
自分も似たような事言ったけど、人に言われるとよく分からないや。
ちょっと理解できなくて軽く首を傾げた。
そんな私を見て我妻さんは、優しく手を握り直した。

「それより、約束してよ」
「約束?」

我妻さんが真面目な顔で言う。
さらにドキっとしてしまう私はもうダメかもしれない。


「俺から離れないで」


まるで縋り付くような声だった。
苦しそうに吐き出したそれに、私はこくりと頷いた。


「私、今までずっと我妻さんと一緒にいましたよ」


多分、これからも。
いつか現代に帰る事が出来たとしても、私の選ぶ場所は……
また夢を見てしまうかもしれない。
家族から罵られ嫌われるかもしれない。
でもどうか、この人と引き離さないで欲しい。
その時にならないと分からないかもしれないけど。

離れたくないの。

はあ、もうどうしてくれるんだ。
この人の所為で私の人生はめちゃくちゃだ。


心の中で小さくため息を吐いたけど、我妻さんにはわかってるんだなぁ、と考えていた。



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「善逸、名前」

我妻さんと2人、恥ずかしがりながら私の部屋を出たら外は暗くなっていた。
廊下をぎこち無く2人で歩いていたら炭治郎さんが声を掛けてきた。

「伊之助が何だか大人しいんだが、何か知らないか?」
「拾い食いでもしたんじゃないの?」

しれっと嘘を言う我妻さんに私は若干引きつつ見つめた。
匂いで分かったんだろうね、炭治郎さんも似たような顔をしていた。

あとでこっそり炭治郎さんに顛末を教えてあげることにして、私は2人の後ろを大人しく着いて行った。