名前ちゃんを連れて竹林を出た頃、日が完全に登っていた。
この竹林は鬼の血鬼術により、結界が張ってあったらしい。
炭治郎達が中々来なかったのも、それが原因だったみたいだ。
それよりも何で俺だけ竹林の中に入れたんだろう。
名前ちゃんが昔から見ていた夢に、俺がずっと出ていたらしいから、何か意味があるのかもしれない。
竹林の外では待っていた隠の人たちが大慌てで、名前ちゃんのケガの応急処置を施してくれた。
特に脇腹の傷が一番の重症だが、輸血の心配はあるだろうが、命に別状はないとの事だ。
ほっと胸を撫で下ろし、穏やかに眠る彼女の顔を見た。
担架に乗せられ、蝶屋敷へとんぼ帰りする事になったけど、彼女と一緒に戻れてよかった。
体温が下がってしまった彼女の指をそっと自分の指に絡めた。
俺は屋敷に着くまで、ずっとそうしていた。
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帰ってきて早々、彼女は輸血をするのとケガの治療の為、しのぶさんと隠の人数人と一緒に治療室へ連れていかれた。
俺は部屋の前から動く事が出来なくて、廊下の隅でじっと座って待っている事にした。
一時間と少しで彼女は出てきた。
未だ意識は無いけど、白い手術着のような服を着せられ、砂ぼこりで汚れていた肌も綺麗に洗われていた。
彼女と一緒に点滴がカラカラと音を立てて付いて来ていた。
「腕の傷は大したことありません。お腹の方も傷は残るでしょうが、もう大丈夫ですよ」
しのぶさんが俺に優しく語りかけてくれた。
名前ちゃんは助かった、だけど傷が残ってしまった。
目を伏せながら「ありがとうございます」と答えると、しのぶさんも理解はしてくれたようだ。
俺の肩をポンと叩いて「善逸君は頑張りましたよ」と微笑んでくれた。
暫くしないと目は覚まさないだろう、と言われたが彼女の傍を離れるつもりはなかった。
安定した寝息を立てている彼女の横で、俺は腰を掛けた。
元の彼女の部屋で寝かされる事になり、アオイちゃんや他の女の子達が慌ただしく包帯の替え等の用意をしてくれた。
名前ちゃんの横で座ってるだけの俺に、いつものアオイさんなら何か小言を残していくだろうと思ったけど、小言ではなくて「助かって良かった」と俺に言った。
なほちゃん、きよちゃん、すみちゃんも目に涙を浮かべて、うんうんと頷いている。
「無傷ではなかったけどね…」
彼女の手をぎゅうっと握りしめて俺は彼女の顔を見た。
4人が出て行って、部屋には俺と名前ちゃんの二人だけとなった。
偶におでこに伝う汗を手ぬぐいで拭ってやる。
まるでいつもと逆だなと思いながら、丁寧に拭き取った。
いつも名前ちゃんは俺が目覚めるまで、世話をしてくれていた。
優しい彼女はいつも俺の横に居てくれた。
そんな優しい彼女を家に帰してやりたかった。
家族に会いたい、と音が叫んでいた。
それなのに俺は彼女の為に何もしてやれなかった。
何があったのかはっきりと記憶には無い。
気が付いたら鬼は居なくなってて、代かわりに彼女が背中から崩れ落ちていた。
いつか彼女が言っていた夢の結末。
彼女が死ぬと思ったら、頭の中が真っ黒い暗闇に包まれていくようだった。
結局守るどころか、俺は彼女に守られてばっかりだ。
「名前ちゃんが寝てる姿を見るのは新鮮だけど、俺は起きた顔が見たいよ」
頬を撫でて髪をそっと避けてやる。
傷を見て罵倒されてもいい、まあ、彼女はそんな事しないだろうけど。
でも早く起きて、俺の世話をブツブツ文句言いながら焼く彼女が見たい。
これからずっと、その姿を見ていきたいんだ。
彼女の家族に代わって、俺が守るから。
もうケガなんてさせない。
絶対、守る。
「だから、早く起きてよ」
ポツリと零した独り言は彼女に聞こえただろうか。